重力魔法をぶっぱなせ!
魔物の王……そのような存在が出てきたから、このような異形の生き物が生まれた。そう仮説を立てるカラメルの推論は、実は当たっていた。
彼らがその事実に直面するのは、もう少し先の未来になるのだが……
「くっ、おりゃあ!」
自慢の拳の効果が薄いことに、ホーラは若干イライラしている。
「おい、あのバカみたいな重力魔法使えばいいだろ!」
「バカみたい言うな! 周りが平野ならともかく、こんな街中でぶっ放したらどうなるかわかんない!」
素の力に加え、ホーラには重力魔法がある。それを使えば、ホーラの力は何倍にも跳ね上がるのだが……それは、周りを気にしなければの話。
協力ゆえに、たとえ制御していても被害ゼロとはいかない。すでに被害が出ているとはいえ、街を守るために街を破壊しては意味がない。
「ちっ、面倒な魔法だな!」
「うっさい!」
魔法は、なにも万能なわけではない。使い方を誤れば被害をもたらしてしまうし、そもそも使う人間の心次第だ。
だからこそ、今ここでこの魔物を倒すために、この力を振るわなければいけない。それができる唯一の手段を自分が持っているのならば、なおさらだ。
なにか手はないかと、必死に頭を回す。
「んーーー…………あ、ひらめいた!」
「バカ、よそ見をするか!」
意識を一瞬頭の方に奪われていたのか、反応が遅れる。ひらめいたと同時に、突き飛ばされた体は受け身もとれず地面に激突する。
「っつぅ……なにすんのよ!」
「それはこっちの台詞だアホーラ! 死にたいのか!」
突き飛ばした張本人であるカラメルに抗議の声をあげるが、一蹴。よく見てみれば、今さっきまでホーラがいた場所に、魔物の尻尾が突き刺さっているではないか。
固い地面に突き刺さるそれが体に直撃していたと思うと、震えが止まらない。
「ぁ、こいつは、どうも……」
「礼はいい! で、さっきひらめいたのってなんだ!」
これには珍しく素直にお礼を告げるホーラであるが、そんな余裕はカラメルには……この状況には、ない。
今はとにかく、状況を覆すための一手がほしいのだ。
「あ、そうだった。今からこいつ打ち上げるから、その隙つくって!」
「あぁ、わかっ……はぁ!?」
条件反射でうなずきかけたが、ホーラが言うのはなんともむちゃくちゃな行為。この巨体を、打ち上げるというのだ。
いかにホーラであってもそれは無理だ。それこそ、重力魔法でもなければ。だが、重力魔法は使えないと今話したばかり。
だが、迷っている暇はない。これが何かの気まぐれでないことくらいわかる。ホーラには何か勝算があるのだろう。
「ったく、仕方ない……!」
初級魔法を魔物に撃ち込み、気をこちらに向ける。狙い通りにカラメルに狙いを定めた魔物は雄叫びをあげ、進撃を開始。
どうやらホーラの動きには、気づいてないようだ。首が二つあるのに、鈍い奴だ。その鈍さに、今は感謝しておこう。
だが、それはいいことばかりではない。狙いが集中するということは単純に攻撃も倍になるし、周りに被害が出ないように攻撃をさばかなければいけない。
思いの外、重労働だ。
「バカラメル、ナイス囮!」
早くしてくれ……その願いは、叶えられた。ホーラは魔物の懐に入り、声をあげる。
「お前、このボクを囮にするとは……!」
「ぬ、ぁあああー!!」
カラメルの抗議を、無視してホーラは雄叫びをあげる。同時に、渾身の一撃を魔物の懐におみまいする。
素の状態であっても、サラマンダー程度なら簡単に吹っ飛ばせる威力。それはこの魔物には通用しないが、そこに重力魔法を加える……ベクトルを、上にして。
「ふん、ぬぅおおぉ……!!」
今までのように、モンスターを地面に叩きつけたり、壁に打ち付けたりする方法では、必ず被害が出る。ならば、重力のベクトルを下や横ではなく、上に向けてしまえばいい。
上空であれば、街への被害は出ない。単純ゆえに、盲点だった。今まではただ、モンスターを殴れば打ち倒せていた。
わざわざ、考える必要はなかったし、平地や洞窟といった場所では周りの被害を考えることはなかった。だが、街中に現れた敵に対処するには、この方法が唯一できること。
「ぬぅぅ……ぅえぃ!!」
下から突き上げる、しかもこの巨体をとなればかなりの負担がかかるのか、すんなりとはいかない。だが、徐々に魔物の体は浮いていき……上空へと、打ち上がる。
本来ならば、このまま弾けとんでも不思議はないほどの威力の拳を受けてなお、原型を保っているのは魔物の防御力が化け物じみている証拠だ。
「よし、飛んだ! あとは!?」
「……へ?」
力を使い果たしたのか尻餅をつくホーラの側に寄ってきたカラメルが、次の指示をあおぐ。本来ならばホーラの指示など聞いてはいられないが、状況が状況だ。
なので、上空へと打ち上げた後の動きを聞くが……
「えっとぉ……このまま上空で、パンチの衝撃でとどめをさすって考えだったんだけど……」
ホーラは、冷や汗を流しながら答える。つまり、ホーラの中では魔物が上空に打ち上げられた時点で、勝負がついていたのだ。魔物の防御力が段違いだったという、誤算を除けば。
渾身の一撃に加え、重力魔法によりその威力を最大限以上に上げている。本当なら、今頃上空で体の内部から破壊されているはずだ。
「……つまり、何も考えてない?」
「……正解」
上空に打ち上げられたそれは、当然ながら時間が経てば落下してくる。それも、あの巨体に魔法などではない本物の重力が加わってだ。
下手をすれば、周囲一帯吹き飛びかねない。
「なにやってんだこのアホ女!」
落ちてくる巨体に、為す術はない。せめて魔物に潰されないよう、離れることしか……
「……せや!」
「……!」
……直後、魔物の体が細切れになる。何が起きたのか、わからない……カラメルの剣では刃も通らなかったのに、確かに今、刃物が魔物を切り刻んだ。
細切れになったことで空中分解した肉片は、一斉に飛んできた魔法により焼き付くされる。その結果、地面に降りたのは魔物を切り刻んだ張本人だけだ。
「あ、姉上!」
「ロゼ姉!?」
美しい金髪を揺らすその人物は、剣を振るい鞘に納めると、凛とした姿でそこに立っていた。




