邂逅
なるだけ読み易い改行を入れたつもりなのですが、
読み難い場合、大変申し訳ないです。
山の頂上で僕は、この白い世界をもう一度見回してみた。
どうせ僕の足跡以外に色のない世界だから、
どこをとってみても白一色の無味乾燥な風景が広がっているだけだろう、
と決め込んでいた。がしかし、現実は違った。
僕が登って来た山————やはり丘ではなかった!
は、カルデラを持つ山であって、僕が登りつめたのは、
その凹地の外周、つまりは高くなっている縁の部分に相当していた。
僕が見たのは、ほぼ正円形をしたその凹地の丁度中央に位置する、黒い半球状のドームだった。
しかも、その黒は僕の足跡なんかよりもずっと黒かった。
でも、その黒は純粋で、見ていて先ほどのような胸のざわめきを感じることはなく、むしろ僕はその黒さに惹かれた。
————あのドームは・・・この世界の秩序に毅然として立ち向かっている!
僕の中にあった、反抗に対する少年的な憧憬が擽られて、胸が弾むようだった。
僕は思わず駆け出した。
少し休んだからだろうか、背中から羽が生えたように身体が軽く感ぜられ、
加速するために踏み込む足にうんと力を込める必要はなかった。
みるみるうちに黒の領域へと近づくのだが、
その過程では得体のしれない高揚感が僕を駆り立ていて、
僕はすこしも速力を緩める気にならなかった。
気がつけばもう、その目の前である。
半球ドームは、表面の黒さ故、外からその内部を窺い知ることはできなかった。
それでも僕は、その表面に触れようと、指先をそっと伸ばした。
指が黒い表面に接触した瞬間、僕は驚いた。
その表面は固体質ではなくて、一定の弾性がある流体的な薄膜だったのである。
結果的に、表面をすべらせようとしていた僕の指先は、
黒い領域の中に吸い込まれるような恰好となった。
しかし、さらに不思議なことに、その内部の感触は外界と同様であって、
特別な空間であると想定していた僕の次なる予想は又しても裏切られた。
いよいよ僕は、単に知的好奇心から、その領域に入ってみたくなって、
実際、恐る恐るに体をその界面へと潜り込ませていく。
————足場は?酸素は?
僕は一つ一つ、確認しながらそのドームの中に、遂にはすっぽり入ってしまった。
僕は最後に、閉じていた目を開ける。そして僕は発見した。
この領域は「黒い」のではなく、「暗い」のだ、と。
僕の目はしっかりと見開かれているというのに、何も
————正確には、僕の踏んだ部分は、足跡型に白く明るくなっていて、そこを中心としたわずかな空間については、その表面の様子が窺い知れたが
見えない。
だから、僕はその暗闇を————文字通り暗中模索、手探りで
表面の形状に十分な注意を払って進むことにしたのだ。
そうするうちに、僕の手足が触れた表面から発せられる白い光によって、
僅かずつではあるが、暗い世界の全像を把握することができるようになってきたのだった。
僕が感知できる限りでは、この場所も、どうやら外の世界の構成とさして変わりはないようで、無機質で直行平面的な幾何的空間である。
段々と、闇に目が慣れてくると、僕はこの暗い領域の存在意義について考えるだけの余裕ができて、ぼんやりと歩くようになっていた。
————この領域は何なんだ?何の為に、何を示しているんだ?
しかし、この暗い領域のことは疎か、外部の白い世界のことについても、
さっぱりだった僕にとってこの問題は、論外と言えた。
僕は、答えのない問いに少し苛ついたが、やがては観念して垂れていた首を持ち上げた。
すると、全体的に疎らな明るさを持つようになってきたこの領域に、一人の女性がいることが分かった。
彼女は遠くにいた。
細くて長い脚が、彼女の見事なスレンダーさを裏打ちしていたが、
如何せん満足には視程の効かない暗さであったので、
その髪型や表情まで察知することは叶わなかった。
確かに言えたのは、僕が彼女に対する怪しいまでの興味を持ったことであった。
仄暗い直線的な空間で僕は、気がつくと彼女に向かってゆっくり歩き出していた。




