無色放浪
以前書いた「白と黒の世界」を改変しました。
世界観はあまり変わらず、内容の一貫性を考慮してキャラを弄りました。
物語としては、人間の醜さに焦点を当てたものです。
ネタとか皆無なのですが、みなさんの心に残る作品になったと自負しています。
誤字や、言葉の誤用など初歩的なミスについて
文章や、段落構成、展開の作り方について
どんな指摘でも、いただければ御の字でございます。
感想もよければ
目が醒めると、白い世界にいた。僕は白い服を着ていた。
僕は誰だ?ここはどこだ?————わからない。
ただ白く、広いこの世界で僕は一人、目を醒ました。
周りを見回す。あらゆるものが立方体や直方体で構成されている。
そこでは万物が限りなく無機質で、僕に語りかけてくる何物も存在しなかった。
僕は何を思うでもなく、一歩、また一歩と進んでみた。
僕には影も、足跡も、何もない。
どこも一様に白くて、空間を構成する様々な形の輪郭は曖昧だった。
しばらく歩くと、僕は不安になった。どうしてこんなに世界は白いのだろう?
色づいているものといえば、短く切りそろえられて少し茶色がかった僕の頭髪と、連続スペクトルの輻射を受けて少し白みがかった僕の肌くらいなもので、
そんな僕も、この白さで満ちた空間の中では次第にその白さに、云うならば
蝕まれていくような気がして、一抹の疑懼の念が僕の心を掠めた。
と、その時である。
僕の足跡にほんのりと色がついた。
それは、まだ何色かもわからないくらい薄い色だった。
僕は安心した。うっすらとした僕の陰影が、この世界で初めて僕に語りかけてくれたような気がしたのだ。
————お前は此処にいるぞ、と。
またしばらく歩くと、小高い丘が視界に飛び込んで来た。
そこで僕はつい今し方手にした安心を、
次の行動に対する動機として利用してみることにした。
面と面の境界が見えにくい真っ白な段差は登るのに苦労を要した。
当然、だんだんと疲れてくる。
乳酸の溜まった足腰の重さが、それを判然と僕の神経に伝達してくる。
白さ故にこの丘の高さを見誤ったのかもしれないな、と思った。
そしてついに僕は段差に足を取られた。
直行した二面の境界が、僕の肌を抉った。
それに痛覚が鋭く反応して、僕は思わず苦悶に顔を歪めた。
僕は自身に対する理不尽な怒りに震えていた。
————こんな事になるなら、先刻僕はどうして登ろうと思ったのか?
バカなことをしたものだ!
けれども結局は、こんな憤懣を胸に抱きながらも、僕は登る決断をせざるを得なかった。もう引き返すのも一苦労な高さまで来ていたし、それにもしこのまま降りてしまったら、それはそれで今まで懸命に歩いて来た自身を裏切る行為に思える。
そうして、僕は少し情けなくなりながらも、残りの行程へと歩を進めた。
とうとう僕は丘、と呼ぶには高く、険しすぎる道を登り切った。
下半身を巡る重厚な疲労感が、徒行の壮絶さを物語っていた。
————やった!登りきったぞ!
道中の困難や心労が嘘のように、晴れ晴れとして爽やかな気分に変わった。
この時ばかりは、一面に広がる白世界が僕の目にまぶしく映って
その達成感を飾る演出のように思えた。
実際、僕はその時初めて、今まで歩いてきた道を振り返ったのだ。
ところが、そこで僕は少しだけ虚を衝かれた。
————あれ?
道筋に残る足跡の色が、頂上に近づくに連れて段々と濃くなっていた。
特に、僕が転んだあたりから、色は汚く濁ってきていた。
僕は慌てて今自分がいる場所から離れて、数歩、パタパタと歩いた。
色はまた薄くなっていて、僕はそのことになぜか安堵した。
果たしてこの安心は何故か?