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殺し屋の運命は幸か不幸か  作者: 風羽 涼菜
2/2

少女は秘密に誘われていく

雪兎を誘ったことへの罪悪感に苛まれつつ、その才能を買っている秋夜。待ち合わせ場所だった図書館で雪兎は"基地"へと誘われていく

少女との約束の十五分前に図書館の入り口に到着し、

植え込みの木の影にあったベンチに陣取る。

残暑とは言えど九月下旬にもなると、影の中は少し肌寒い。

ーーーこれでいいのだろうか。今朝からずっと考えている。

まだ十五歳の少女をこんな世界に誘ってしまったが、少女に開けていたかもしれない明るい未来を閉ざしてしまう罪悪感が心に影を落としている。


電話に出た雪兎の声は過去のことなどなかったように、美しく穏やかで、笑い声までもが誰もを聞き惚れさせる美しさだった。

そんな雪兎の声が過去の話をするたびに、激しさを秘めた怒りの声に変わっていった。一見静かに聞こえるが、先程までの穏やかさはなくなり、もともとの声の美しさだけが際立ち、異様さを放っていた。

過去の話をするたびに雪兎の心には大きな悲しみとそれを包み隠すほどの深淵のごとき怒りが溢れてきた。

この時の心を覗いた瞬間に確かに感じた。

         「殺し屋の素質がある」

怒りなど、普通は長くは続かない。どこかで自分の妥協点を探すものだ。たった五歳の雪兎に降りかかった災難は、普通の五歳の災難としては大きすぎる。まだ人をたくさん知らない年であるにも関わらず心の拠り所の両親を失うなんて、普通は耐えられずに心が壊れてしまうものだ。

だが、雪兎は違った。悲しみはもちろんある。だが五歳の少女にはあり得ないほどの"何か"に対する怒りが悲しみを掻き消していた。

これなら頷けることがたくさんある。両親を亡くした、たった五歳の少女に事情聴取を行うなど普通はあり得ない。ましてや大火傷を負い、火に対して恐怖があってもおかしくない少女に、わざわざ火に巻かれた状況を聞くなど、あってはならないことだ。しかし、雪兎が"普通ではない"状況を見て事情聴取を行ったのだろう。

雪兎が普通ではなかったのは、"何か"に対する怒りが恐怖や悲しみを圧倒的に上回り、何も感じなかったからだろう。

これほど殺し屋に向いている素質はない。どんな状況であれ、感情を殺すことが出来るのは、人を殺す殺し屋に最も必要なことだ。

情に流されずにただ淡々と人を殺す殺し屋には"心"は最も排除するべき欠点だ。この欠点を何の訓練も受けず怒りだけでねじ伏せた雪兎はまさに天才と言えるだろう。しかも、相手の心が読める上で感情をねじ伏せているのだとしたら、人間離れした精神力も持ち合わせていることだろう。ただ、一つ気になるのは雪兎が怒りを向けている"何か"だ。"何か"について知ろうとした瞬間に心を閉ざした。

普通は心は意図的に閉じられない。心を読まれないようにすることなど出来ない。だが、心を読む能力を持っているからこそ、雪兎は心を閉じることも出来るようだ。

「…さて、どうしたものかな。」

ここまで警戒されていると、打ち解けるのも一苦労だろうなぁ…と物思いにふけっていると、

「あの、秋夜…さんですか?」

「うわっ!?」

思いっきりベンチから飛び上がってしまった。

一方の雪兎は思いっきり後ろに飛び退いている。

…こりゃ、失敗したな…

雪兎は物凄く警戒した顔でこちらを窺っている。

これは、仕切り直さなければ。

「すまない。驚いてしまっただけなんだ。俺が秋夜で間違いない。

君が雪兎か?」

雪兎はしばらく、じっとこちらを見ていたが、やがてある程度警戒が解けたらしく、

「はい、私が雪兎です。」

と、美しい声で言った。

「そうか、よろしくな。さて、早速だが、本題に入りたい。

中で話そう。」

「…?あの、図書館で話して大丈夫ですか?」

「君は心を読めるだろ?どうして図書館で話すのかは、俺の心を読んでくれ。」

他の奴らに知られると厄介だしな。と小声で付け加えると、雪兎はそれ以上はなにも聞かずに黙ってついてきた。


図書館は半袖だと少し肌寒い程に冷房が効いていた。

「…俺が何故図書館で話すかは理解してくれたか?」

「………」

「雪兎?聞いてるか?」

「えっ?あっ、はい、すみませんちょっと集中してて…」

「そうか…悪かったな。邪魔して」

「いえ、もう終わったので問題ありません」

ーー早い…な。 もう少しかかると思っていたが、

これは予想以上だな…

「あの…」

「ん?どうした?」

雪兎はまだ少し警戒しているのか、声が堅い。

「こんなことって…本当なんですか?」

ーーああ。声が堅かったのは現実を受け止められなかったからか。

なんだかんだ言ってもまだ十五歳の少女なんだな…

「驚くことに、紛れもない事実だ。」

「そうですか…」

「さて、そろそろ進んでいくぞ。しっかりついてこいよ」

「はいっ!」

「いい返事だ。」

頭に手を置いて軽く撫でてやると、雪兎が表情を緩め、苦笑混じりに笑った。

ーー苦笑混じりというのがまた可愛い…と、こんなことは言えないので心にしまっておく。もちろん心も閉じておく。

さて、集中集中。ここの順路は間違えると後々めんどくさいのだ。

まず一番手前の本棚を左。そのまま進んだ突き当たりを右。進んでトイレの前のチラシを一枚とり、全く同じ順路を辿って最初へ。

最初に戻ったら次は本棚を右に。三番目の本棚の列に入り、まっすぐ進む。突き当たりまで進んだところで、壁に手をつけながらしばらく進むと現れるスイッチを押し、三分経ってから"お話室"へ

向かう。

「よっ…と。じゃあ、先に入って」

「はい…」

雪兎を先に入れ、それに続く形で中に入る。

中は電気を消されており、真っ暗だった。

暗闇に目がなれてきたところでやっとカラフルな絨毯や机が見えてきた。

「あの…本当にここが?」

「…目を凝らしておけ。一瞬だぞ。」

「…え?」

雪兎が疑問の声をあげた次の瞬間、部屋が眩い光に包まれた。

目が眩みそうな光の中に、目を凝らすとカラフルな絨毯の一部に

四角い穴が開き、地下へと階段を伸ばしている。

「…一瞬だっただろ?」

「……こんなことが」

ーありえるなんて。言葉の先は驚きと共に喉に消えたらしい。

「驚くのはまだ早いぞ。俺達の基地へ案内する。」

雪兎はしばらく呆然としていたが、手を差しのべると

小さな手を重ねてついてきた。

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