この日、運命は出会った
一本の電話で人生が変わりました!
なんて、テレビの中だけの話だと思っていた。この日までは。
同時に、そんな思い込みを覆されたのもこの日だった。
「君、殺し屋にならないか?」
開口一番おかしなことを言う電話の相手によって、私の運命は歯車がしっかり噛み合ったように、動き出した。
笑みを含んだその声には"殺し屋"なんて重い言葉に対して
全く責任のない、まるで、とりとめもない世間話をするように軽くて、私は思わず吹き出してしまった。
「おーい、まだ話終わってないんだが?おーい?」
とりあえず、このよくわからない電話をさっさと切り上げよう。
「あ、すみません。ところでどちら様でしょうか?」
「そんな堅苦しい挨拶いいぞ。さっきまでの笑い声の方がよっぽど君らしい」
「すみません。聞こえてましたか?」
「ああ、凄い聞こえてた。そんなに変なこと言ってないと思うんだが…」
「かなり、変だと思います…少なくとも初対面(電話って初対面にカウントされるのかという疑問は置いといて、)の人との電話でいきなり聞く言葉ではないと思います。」
「お堅いな…もっと気楽にいこう」
何となく、どちら様でしょうか、の質問はスルーされている。
名乗る気がないのだろうか。いたずら電話にしては内容が重すぎる気がする。とにかく、油断してはいけない相手なのはわかった。
「あと、いたずら電話ではないから安心していいぞ」
「えっ!?あ、はい。」
いたずら電話だと考えていただけに、ビックリして受け答えがぎこちなくなってしまった。
「じゃあ、本題に戻るけど、君、殺し屋にならないか?」
「…あの、おかけ間違いじゃないでしょうか。」
「はぁ、どうしてかけ間違いだと思う?」
「それは…私が、どこにでもいる普通の高校生だから…です。」
高校生だととっさに言ってしまったが仕方ない。
この人物相手に早めに切り上げるのは難しそうだ。
「やっぱり自分のことは普通だと思いたいよな。
月見 雪兎ちゃん。」
「えっ…どうしてっ」
名前を知っているの?なんて聞いたところでどうなるわけでもない
しかし、私が飲み込んだ言葉の先は、電話の相手が律儀に答えてくれた。
「俺は、君のことなら君以上に知っている。」
「どういう…」
「そのまんまの意味だよ。少し話すと、
月見雪兎、高校一年生、両親は五歳の時に火事で死亡。大きな火事であったのにも関わらず一人だけ奇跡的に生き残ったが右腕に大きな火傷の後が残ってしまった。その後、施設に引き取られ現在は寮で暮らしている。」
「どうだ?俺の言ってること理解してくれたか?」
ーーー何なの、この人。 右腕がズキズキと痛む。久しぶりに昔を思い出したからだろうか。
私の過去なんて、極限られた人しか知らないはずなのに。
それにさっき言っていたことも気になる。
「…あなたが、私の過去のことを知っているのはわかりました。
でも、さっき言っていた"自分のことを普通だと思いたい"って言うのは、
どういう事ですか?それに私以上に私を知っているっていうことも。」
「そうだな…今の話じゃ、少し調べれば誰でもわかることを言ったに過ぎない。でも、君が普通じゃなくて、君を君以上に知っていると言える理由はいくつかある。君が火事にあったときは午後三時で両親はリビングに、君は一人で寝室に居た。」
「…よく、ご存知ですね。」
心臓が嫌な音で動いている。火傷の後が段々熱くなってくる。目の前に、昨日のように鮮明な家の記憶が蘇ってくる。
「まあな。そして、出火元はリビングのキッチン。原因は火の不始末。君は熱で寝室で寝ていた。異変に気づいた父親が消化しようと近づいたところ、謎の大爆発が起こり、父親は即死した。
少し離れたソファーに座っていた母親は二階の寝室に急いだ。
幸いにも君は無事だったが、寝室の扉が爆発で歪み中々開かない。
それでも何とか扉を開けた母親は君を抱え逃げようとしたが火の手は扉まで迫っており、逃げられない。消防もしばらくは来れない。
その間にも煙が部屋に満ち段々と逃げ場がなくなって行く。その時君は煙を吸いすぎて、意識がなかった。母親は覚悟を決め、火に飛び込んだがあまりの煙の量に階段の途中で力尽きた。残された君は焼けて落ちてきた天井に挟まり大火傷をおってしまった。そうだな?」
「はい…事故の後の調査結果ということで知らされました」
「でもね、この話いくつかおかしなところがある。」
「?…爆発のことですか?それなら、ガスの元栓が緩んでたんじゃないかって」
「爆発もだが、もっとおかしいのは細かくわかりすぎていることだ。」
「えっ?」
「いくら科学が進歩したからって、母親が爆発の直前までソファーに座っていたなんてわかりっこない。寝室の扉が歪んでいたのも同じだ。それに火がどこまで二人に迫っていたのかもわかるはずがない。それに君は煙を吸いすぎて意識がなかったから状況を聞いても意味がなかったはずだ。それにしては、随分と分かりすぎだと思わないか?」
「…そうですね。そこまで考えたことがありませんでした」
「こんなに細かく状況が分かるのは君ぐらいしかいない」
「でも、さっきあなたが言っていたとおり、私は意識を失っていました」
「そうだね。でも、この情報を集めた警察官は不思議なことを言っていた。」
「…不思議なことって、何を言っていたんですか?」
「"事故の状況は全て生き残った少女から聞いた"だそうだ。」
「………」
「その警官はこうも言っていた。"その少女は、私は人の考えていることがわかる、と言って、その時私が思っていたことを全て当てて見せたんだ"とな。 これって君のことだよな? ここからは俺の推測だが、考えていることがわかるって言うのは、すなわち心が読めると言うことで、君は薄れゆく意識のなかで母親の心を読んで、全ての状況を把握した。 合ってるか?」
「…なんなんですか、あなた。 どうして私のことがそんなに分かるの。」
考える前に言葉が溢れてくる。十年分の疑問は止まらない。
自分を抑えないといけないのに。この人には油断したらダメなのに
「…君のことが分かるのは、俺も同じだからだ。」
「…えっ?」
「俺も人の心が読めるんだ。俺は訓練して、電話の相手や少し離れた所にいる人の心も読めるようになった」
「私と、同じ…?そんな人がいるなんて、初めて…知りました」
「俺も初めは知らなかった。この業界に入って、君を知ったんだ」
「あなたも…誘われたんですか?」
「ああ、そうなんだよ。まぁ、俺が誘われたのは四歳の時だったけどね」
「なんで……殺し屋になったんですか」
「俺の能力がどんなものなのか、一番よく知ることができる仕事だと思ったからだ」
「この能力は、心を読むだけじゃないんですか?」
「これ以上能力について電話で話すのは危険だ。場所を変えよう」
「危険ってどういう…」
「とにかく、場所を移そう。君の家の近くの図書館に来てくれ」
「…わかりました。」
「じゃあ、三十分後に入り口付近に来てくれ」
「はい、わかりました。…あの、あなたのお名前は?」
「剣崎 秋夜だ。よろしく。」
「よろしくお願いします。…剣崎さん」
「秋夜でいいぞ」
苦笑混じりにそう言われてしまっては断りずらい。
一方的に呼ぶのは気が引けるので、せめて
「じゃあ、私のことも雪兎って呼んでください」
「分かった。それじゃあ、三十分後に」
そこで電話は切れてしまった。もう少し細かい指示が欲しかったが諦めて支度を始めた。




