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【連載版】乙女ゲーのヒロインに転生したけど、悪役令嬢のステータスがALL999,999,999,999だったので無条件降伏することにした  作者: 華洛


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【傍目から見れば悪そのもの(SIDE:スカーレット)】


 ***時間は三年生の卒業試験が始まる前まで戻る***



 探し物が見つかった、と報告を受けた。


 三年生の卒業試験を学園長から頼まれてしまった以上、どうせならその前に面倒ごとは片づけておきたい。

 私は連絡員に案内されるまま、王都の一角にある建物へ向かった。


 一見すると、ごく普通の建物だった。

 外観にこれといった特徴はない。

 そこらにいくらでもありそうな、目立たない石造りの家屋。

 いかにも「何もありません」と言いたげな顔をしている。


 そういう場所ほど、たいてい何かあるのよね。


 中へ入って、薄暗い廊下をしばらく進む。

 無言のまま先を行く連絡員が、ある壁の前で立ち止まった。


 そして壁を何カ所か、決まった順番で叩く。


 鈍い音。

 わずかな間。

 すると、壁が重々しい音を立ててゆっくりと下がり、地下へ続く階段が姿を現した。


 同時に、左右へ並んでいた魔石灯がひとつずつ灯る。

 暗闇の中に、隠し通路だけがぼんやりと浮かび上がった。


 ……本当にやめてほしいのだけど。


 前世での私は、車椅子生活だった。

 家で過ごす時間が長かったぶん、本や映像作品に触れることも多かった。

 そして、こういう光景には見覚えがある。


 海外ドラマや洋画でよく見た光景。

 マフィアなどの犯罪組織のアジト。

 逆らった者が連れ込まれる地下室。


 どう考えても、まともな令嬢が足を踏み入れる場所ではない。


 私は小さく溜息をついた。


 連絡員が先導し、私はその後を追って階段を下りる。

 螺旋状に何度も折れながら、地下へ、地下へと降りていく。

 思った以上に深い。


 やがて、ひとつの扉の前で連絡員が立ち止まった。

 彼は低い声で、ぼそぼそと何かを唱える。

 暗号のようなものだろうか。

 すると扉がかすかに震え、音もなく開いた。


 中には、数人の黒服の男たちが待機していた。


 その中心。

 部屋の中央には一脚の椅子。

 そして、その椅子に縛り付けられた人物がいた。


 魔封じの宝玉を取り付けられ、縄で全身を拘束され、頭には麻袋まで被せられている。


 ……やっぱりどう見ても悪役のやり口では?


 いや、別に私がやれと言ったわけではないのだけど。

 でも私がここへ来て、その拘束された相手に用がある以上、傍目には完全に黒幕なのよね。


 非常に遺憾だわ。


 私は軽く手を上げた。

 それを合図に、黒服の男のひとりが麻袋を乱暴に剥ぎ取る。


 現れた顔を見て、私は静かに口を開いた。


「初めまして、アリハランス第二王子」


 拘束された男――アリハランス第二王子は、私を見るなり諦めたように目を伏せた。


「……ああ。やはり、君の手の者だったか」


「勘違いしないでほしいのだけど」


 私は即座に否定した。


「私はただ知り合いに頼んだだけ。あくまで普通の侯爵令嬢なの」


「……私の知る侯爵令嬢とは、だいぶ違うようだね」


「それは貴方様の見識不足でしょう」


 失礼な話だわ。

 侯爵令嬢が皆、表通りしか歩かないと思ったら大間違いよ。


 ……いや、さすがに普通はこういう地下室には来ないかもしれないけれど。


 アリハランス第二王子。


 私に無断で。

 当然、許可も取らず。

 帝国第三皇子との婚約を勝手に成立させた愚者である。


「まあ、いいわ。貴方に来てもらったのは、“普通の侯爵令嬢とは何か”を話し合うためではないの」


「ああ。第三皇子との婚約の件だろう?」


「ええ。よくもまあ、色々と勝手にしてくれたわね」


 第二王子は何も言わなかった。

 沈黙を選んでいるのか、それとも今はまだ言い訳のしようがないのか。


 どちらでもいい。


「そこまで王位を継ぎたいの?」


 私は率直に尋ねた。


「王位なんて、面倒ごとと厄介ごとの極みよ。継いでくれる人がいるなら、その人に丸投げしてしまえばいいのに。わざわざ奪いに行くなんて、正直アホとしか思えないわ」


「……」


 やはり答えない。


 こういう時、アリサの持つ“覗き眼”――【真眼】は便利なのよね。


 まあ、あれはあれで無遠慮に何度も私を見てきたせいで、術式構成はとっくに解析済みだけれど。

 ジャミングも偽装対策も終わっているし、今では脅威にすらならない。

 ついでに構成を真似て、ほぼ同等性能の瞳術まで作れてしまった。


 私は【深眼】を発動し、アリハランス第二王子を視た。


 ――兄のことは尊敬している。

 王国は兄が継ぐべきであり、その即位に反対する不穏分子を炙り出す必要がある。

 だから、あえて愚者を演じていた。

 自分の周囲へ、不穏分子を集めるために。


 ……。


 ――帝国第七皇女、バーミリオン・フォン・アルカンシエルに惚れている。

 第七皇女は皇帝と娼婦の間に生まれた子であり、帝国内ではひどい扱いを受けている。

 けれど、他国の王子という立場では、直接どうこうはできない。


 ……。


 ――そこへ帝国第三皇子、ミッドナイト・フォン・アルカンシエルから極秘の連絡が来た。

 アリハランス第二王子を王位へ就けるため支援する。

 その代わり、スカーレット・アルタナティブを婚約者として帝国へ寄越せ。


 ……。


 ――帝国第三皇子、ミッドナイト・フォン・アルカンシエル。

 帝国貴族の悪い部分を濃縮して煮詰めたような屑。

 スカーレット・アルタナティブとの相性は最悪なのは分かる。

 ならば性格最悪同士をぶつけ合わせればいい。

 ぶつかり合って、ついでに帝国が崩れれば、バーミリオンは解放されるかもしれない。


 【深眼】を切った。


 頭が痛い。


 なに、この、杜撰と無計画の中間をふらふら歩いているみたいな計画は。


 いや、まだ「王位が欲しかったから」と言われた方が納得できた。

 そちらの方が、愚かではあっても筋は通る。


 でも実際に出てきたのは、

 兄への尊敬

 恋慕

 相性最悪同士をぶつければ何とかなるかもしれない理論

 という、感情と希望的観測の寄せ集めだった。


 雑。

 あまりにも雑。


 私は無意識にこめかみを押さえた。


 ……そういえば、この世界って乙女ゲームだったわね。


 ヒロインが異常者ばかりで、クズかカスかゲスのどれかを引いてくるせいで、すっかり忘れかけていたけれど。


 乙女ゲームの世界だから、恋に焦がれた結果、私みたいな常識人には理解しがたい行動へ走ってしまうものなのかしら。


 だとしたら、恋愛というのはずいぶん厄介な病気だわ。

読んでいただきありがとうございました。

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