表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/97

4.たまとの会話、いくつかの進展と新たな謎

「いろんなことが起こったり、あんたが寝汚いぎたなかったりしたせいで、なあなあになってたけどね。それもいい加減にしようってことなわけ」


 年貢の納めどきって言葉をご存知かしら。

 カムグエンに転移したときに、全部きちんと話すと約束したのを、忘れたとは言わせない。


(もちろん覚えている。しかし程度というものがあってだな、以前も言ったが我輩が話してしまうことで、予知プロヴィシマにへんな影響があってはよくないわけで)


「知ったこっちゃないわ。私がもろもろ知ったあとでその力を使いなさいよ。私がここで協力しなくなるより、よっぽど建設的じゃない?」


(縁子が、縁子の土地へ、帰れなくなってもか)


「へえ。そういう脅し言っちゃうんだ? 最後の手段だと思うよそれ。もともと私は、アレクシス本人のところを尋ねて、返してくれるよう直談判する予定だったんだから」


 私はぴしゃりと言い放つ。

 いろいろ言っても、たまは私を都合よく使いたいのだ。ニグラさんのためなら自分の手はどう汚れても構わないというようなジウォマさんを思い出す。

 その気持ちがわからないでもないし、生きていく上で必要なことだとも思う。ただ、これ以上隠し事をしたまま巻き込まれるなら話は別だ。


「私に話せば、ある程度は協力する。たまが私を日本に返してくれるなら、それはそれでいいから。でも話さないなら、私はここから這ってでもアレクシスのところへ行って、日本に返してもらう。たまとは、ここまでよ」


(……ここかどこかもわからずに、アレクシスのところへ行けるとでも?)


 私はその言葉を黙殺する。


 私は怒っているのだ。

 格別優秀なわけではないが、人様に迷惑をかけてきたわけでもないし、税金だってちゃんと納めていた。

 給料日にはちょっとしたデザートや本を買ってささやかに楽しみ、何より拓斗との生活に何の不平不満もなく生きていた。


 たまたちのせいで事故のように巻き込まれたまでは、百歩譲って諦めもつく。だが隠し事をするのは、あまりにもフェアじゃない。そうでしょう?


 阿止里さんやナラ・ガルさん、ユーリオットさんに月花。四人の顔が頭をよぎる。にじむのは申し訳なさと懐かしさだ。この世界で、ククルージャのあの家が、私の拠り所だったのだ。


 あんたの願いなど、知ったことではないと、言外にほのめかせば、たまは沈黙した。

 おそらく、たまの中で秤にかけていたのだろう。

 そしてようやく口を開いた。


(わかった。こうするのでどうだ。縁子は、質問をする。我輩は、それに三つまで答える。我輩が答えられない質問の場合は、次の質問をする)


 承諾ではなく、交渉をしてきた。

 私は床の竹がささくれたところを爪で引っかきながら、ちょっと考えた。たまの提案が、受け入れるに値するかどうかについて。


 答えられない質問、というところがひっかかるが、悪くないと思った。そう、悪くない。

 たまは本来、何もかもを隠そうとしていたのだ。頑なに。うそ偽りなく質問に答えるという姿勢は、大きな進展かもしれない。


 私は内心ガッツポーズだが、表向きはしぶしぶというようにうなずいた。ちょっとだけ、営業さんたちの気持ちがわかった気がする。駆け引きというと聞こえは悪いが、自分の身を守るためなのだ。


 まあ正直不慣れな交渉をこれ以上するのは面倒だったし、確実な答えが三つ得られるのならいいかと思ったのだ。


 しかし、逆に言えば、三つしか知ることができないということだ。私は聞きたいことを三つに絞ることに苦労した。どう質問するのが、一手を最大限有効に使えるだろう?


「じゃあ、まずひとつめ。たまはどうして天珠ラーラ・アモがほしいの」


(我輩が失った、あるひとつの魂を取り戻すため。その手助けとなるものであるから)


 ひとつのたましい。魂?


「なにそれ。誰かの心ってこと?」


(それが、ふたつめの質問か?)


 私は慌てて首を振る。しまった。最初のときに、あといくつほしいのかも合わせて聞いてみるべきだったのだ。

 それこそまるでしたたかな営業さんを相手にしているような緊張がある。そういえばたまは魔法使いの弟子というだけあって、言葉を緻密に扱うふしがある。だとするとこちらも慎重に、言葉を選ばなければならない。


 私が知りたいのは――好奇心を交えてしまえば、それこそたくさんある。

 けど、これ以上の厄介ごとや余計な情報はいらない。現実的に、あと何をすれば返してもらえるのか。それに尽きる。


「ふたつめ。あと、いくつの天珠が揃えば、たまは満足なの?」


(その質問は、対象外だ。いまの我輩には、知れぬことである)


「知らない?」


(そうだ。こう想像してみるといい。この家ほどもある、巨大な水甕みずがめがあるとしよう。その甕いっぱいに、ひたひたに水を満たすことが目的だ。だが、いちどにどのくらいの水が入ってくるか、わからない。この場合、あと何回、というのはわからぬであろう?)


 それは確かに、わからない。一回の量がばらばらなのだろうし、そもそも規模が大きすぎて、うまくイメージすることができない。


(我輩の感覚は、ありていに言えばそのようなものである。天珠を手にするたび、その甕が満たされてゆくのはわかる。だが、あとどのくらいというのは、わからぬのだ)


 だが、膨大な量ではない。ふたつか、みっつか。あるいはひとつかもしれない。そのくらいであると言っておく。そう続けた。


 私は不承不承ながらうなずいた。

 納得はいかないが、そんな返答をされてしまえば、飲み込むしかない。それに、もしあとひとつだとしたら、案外希望が見える。

 これは大きな情報だ。私は一気に元気になった。


「じゃあ、答えられてないから、ふたつめの質問はノーカウントね。代わりの質問は、どうしてアレクシスは私を呼んだのか。答えてほしい」


 そう。私はずっと、気になっていた。


 以前、雪原でたまと初めて会話したとき。そもそもはアレクシスが私を呼んだと言っていた。ような気がする。

 日本から私を呼ぶときに、転移音痴のたまが手を出してしまって、本来の場所からずれてしまった。そう、解釈していたのだが。


 おかしくはないか? だとしたらどうして、アレクシスからの音沙汰がないのだろう。


 それどころか、彼女の弟子だという、この頭輪たまが、その後の流れを握っていやしないか。


(その質問の答えは、単純だな。アレクシスは、縁子を呼んだのではない。選んだのだ)


 その答えは、私を混乱させた。


「……でも、転移を組んだとかどうとかって」


(アレクシスが縁子を選び、転移も組んだ。だが、呼んだ、とは言っていないな)


 意思ある沈黙が横たわった。あるいはそれは、学校の先生が出来の良くない生徒に与える、意地の悪い沈黙にも似ていた。


 私はたまの、その言葉の奥にある、埋もれた何かがあることに気づく。

 口調はさりげなかったが、語尾ににじむそっけなさは必要以上に思えた。


 不思議な関係だ。お互いがお互いを、ある意味では利用したがっている私たち。なのに、一蓮托生という厄介な状況。


「それって、もしかして。アレクシスは――」


 私は慎重に言葉を重ねようとしたとき、遠くですごい音がした。小さな火山が噴火したような音だ。

 私は一瞬固まったけど、すぐに窓(っぽく切り取られた壁)に飛びついて、外を伺う。


 わりと遠く、でも湖岸からは進めばすぐに着いてしまいそうな森の奥で、黒煙が上がっていた。


 外からも、慌しい怒声が聞こえてくる。


「たま、これって」


(争いごとのようだな。魔法を知らぬものたちは、野蛮でいかん)


 やれやれと言いたげにため息をつくたまは、どこまでもたまだった。


 自分だって、魔法使いとしては半人前のくせに!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ