5.ブサイクがイケメンでブスが美女で
「ところで奴隷よ、その男たちは……。――!?」
豚男はそういいながら、小さな目を最大限に見開いて、それからおもむろに身体をひねり、手近な壁に手をついて――嘔吐した。
びしゃびしゃと、撒き散らされた胃液のにおいに、私は無意識に顔をゆがめる。
まわりを囲んでいた私兵たちも、そろって鼻を腕で隠している。中には膝をつき、えずく者もいた。
「……な、なに?」
ただごとではない様子に、もうパニック寸前の私に、豚男が噛みつくように叫んだ。
「ど、奴隷! あわてるな、落ち着け! 息をとめ、ゆっくりこちらに逃げてこい! 助けてやる!」
「……はい?」
「正常に判断を下せない状態になったのか?! 哀れな奴隷、こっちに来い!」
豚男は、どうやら私を「救い出す」ことをしたいようだ。ええーと。
「な、なんで? そっちに行けば、私は罰を受けて、しかも売られるんでしょう?」
とりあえず、聞いてみる。豚男はかっと口を開き(牙に虫歯があるのが見えた)、つばを飛ばす。
「馬鹿め! そいつらに囲まれたことで、罰はチャラにしてやる! 今だって、いやじゃないのか!? そんな、口にするのもおぞましい男たちに、囲まれて!」
「べつに、嫌じゃないけど。この人たち、すごいかっこいいしいいにおいするし」
「!?」
雷どころじゃない。
夜空に浮かんでいる星が、空ごとばらばら落ちてきた――というような驚愕を、その場の全員が受けたらしい。
あ、と突然理解した。
この世界では、どうやら私を拾った盗賊たちが、街の男女からほれぼれと見られていた。
絶世のブサイクだった盗賊なんか、モテモテといった感じだ。
ということは。
この世界のイケメンは、私の世界でいう、めちゃくちゃ醜男――にあたる、ということなのだろうか?
「……しょ、正気か、奴隷。おまえ、狂っているのか?」
豚男の問いかけに、どう答えたものかと考えていると、
「――この娘は、奴隷なのか?」
阿止里さんだ。意を決した、というように口を引き結び、真剣な眼差しで豚男を見つめている。
ひっ、と豚男は半身を引いた。
「く、口を開くな……! 声までもが、なんと呪わしい」
私に言わせれば、こいつらのダミ声しゃがれ声のほうが呪わしい。
しかし阿止里さんの美声もまた、この世界では毒のように扱われてしまうのだろう。
「俺も、知りたいな。この娘、もし奴隷だというのなら」
赤髪さんも、口を開いた。
「おい、ナラ・ガル。何を言う気だ」
ユーリオットと呼ばれた青年が、ナラ・ガルさんの言葉にかぶせるようにして止めた。
「その娘。われらがもらいうけたい」
阿止里さんが、きっぱりと言い切った。