4.イケメンたち(私にとっての)との出会い
そうして、よき日を決め、私は決行したのだ。
真っ暗の夜が一番いいんだけど、夜目の利かない私には逆に不利。なので、夜がとても明るい日を、私は選んだ。
地球でいう月、というものは、まだ見たことがない。存在しないのか、周期が大きくてまだお目にかかっていないのかはわからないが、そのかわりに星明りがとても強い。
目にうるさいほどの星明りなのだ。下手したら、満月に匹敵するかも。
奴隷の鎖も計画とおりはずした。墨色の布を頭にかぶり、迷路のようなこの都市を、ひたすら右手を壁につけて走る。(女たちからの情報収集の結果、一朝一夕では
この街の道は覚えられないため、いっそ古典的な迷路抜けのほうがいいと私は判断した)
走って、走って、後ろから誰も着ていないか振り返ったとき、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
体重の軽いほう――つまり私――は弾かれ、したたかに腰の横をうった。
「――悪い! だいじょうぶか?」
「なんで、阿止里が謝るんだ。どう考えても、悪いのはこの女だろう」
「だが、ユーリオット。女性とは大切にせねばならぬものだ」
「だいじょうぶかな、けが、しちゃったかな?」
四つほど、声が落ちてきて、誰かが転んだ私に手を伸ばしてくれる。
謝らなければ、と顔を上げると、そこにいたのは、魂が抜けるように美しい、四人の男たちだった。
手を差し伸べてくれていたのは、20代なかばくらいだろうか。黒髪に黒い瞳で、奥二重のアジアンビューティーだ。
その体躯は見事に鍛え抜かれている。古代ローマの映画に出てきそうな、出来上がった身体だ。
聡明そうな目に浮かぶのは、どうしてだろう。似つかわしくない怯えがある気がする。
「おい、阿止里が手を出してやってるのに、無視か?」
声のほうをみると、小麦の髪色をした20代前後の青年がにらんでいた。ヨーロッパの人たちのように、彫像的な美しさ。
やはり長身で、しなやかな筋肉も見て取れるが、一部のすきもない整った顔立ちは、嫌悪と疑惑にゆがんでいる。
そんなに彼を不愉快にさせてしまうようなことを、私は何かしただろうか?
「ユーリオット。その当り散らすくせをやめたほうがいいな」
聞き心地のいい、穏やかな声。その声の主は、4人の中でもっとも大柄だ。
燃えるような赤髪を短く刈り上げ、そのたくましい首筋をあらわにしている。
彫りの深い、温かみのある顔立ちはやはり整っていて、中東あたりの貴族に見えなくもない。
「あの、だい……じょうぶ?」
控えめに聞いてきたのは、まだ高校生にもなっていないかもしれない、絶世の美少年だ。
漆黒の髪はいっそ緑色に光り、ゆるくふわふわの髪がなんともかわいらしい。
しかし彼もまた、どこか私を怖がっているように見える。
「ありがとうございます。けがは、ないです。すみませんでした」
急いでて、と詫びて手を取ると、四人は雷に打たれたように固まった。
あれ、言葉通じてないのかな、と思い、阿止里と呼ばれた青年を仰ぎ見る。
阿止里さんは驚愕に目を見開き、唇をかすかに震わせているようだった。
顔色も、心なしか青い。
ただごとではない様子に、私もすこし焦りだす。
「あの、具合でも悪いんですか?」
どうしよう、と思いお仲間のほうを見ると、みんなも顔色が悪い。冷や汗までかいているようだ。
何がなんだかわからない。
この世界で初めてみたイケメン。目の保養。だがしかし、私はいま、全力で逃げなければならないのだ。
「本当に、ごめんなさい。でも私、いかないと」
そう言って走り出そうとした瞬間、足音が四方から響く。
あっという間に沸いて出た私兵たちが、十字路の東西南北をふさぐようにして、私たちは取り囲まれた。
そして、奴隷商人の豚男が肩をいからせて後方から登場する。
「逃亡奴隷は、どういう罰をくらうか、知らないらしいな」
ええ、知りませんとも。