2.ブサイクがモテるということで合ってますか?
どのようにして、私がこの異世界にきたのかは、割愛しよう。そんなに興味もないでしょう。
簡単にお伝えするなら、夜に寝て、目が覚めたら池のほとりにいた、ということである。
池といっても、どぶのように濁った小池で、沼といってもいいかもしれなかった。
あたりは明らかに水分が足りてないような乾いた痩せた土地。
ぺんぺん草みたいなものが、こそこそ生えているだけ。
見渡しても、人工的なものは見えない。砂漠のオアシス(汚い沼)に、ぽつんといる。
茫然自失、現状も把握できない状況。
そこに追い討ちをかけるように通りがかったのは、見るからに荒くれもの、という盗賊集団だった。
ただの集団ではない。
目を疑うような、選りすぐりの醜い男たちばかりだ。
しかも、彼らの話す言葉はまったくわからない。うにゃうにゃと暴れるうなぎの踊りのような言葉に聞こえる。
そして、私も一応、女だ。
さすがに、犯されるかと思った。
しかし、この信じがたいほどの醜男集団、私を取り囲んで上から下まで、じとりと眺め回したあと――
哀れむように鼻で笑った。
たとえるなら、「クラスのイケてる男子が、カースト下位の女子を馬鹿にする」ような印象を、私は受けた。
そして、当然のように縛り上げられ、拉致され、街につれて来られ、売られ、気づく。
吐き気を催すような、(私の中の)ブサイクたちは、(この世界の)超絶美男美女たちだということに。
つまりこうだ。アラビアン風な砂埃舞うこの城塞都市を、私をひきずる男たちが歩く。
するとだ。街にいる男も女も、この盗賊たちの男ぶりにうっとりと見とれているのだ。
そして街の女たちにいたっては、よく観察すれば、(私の世界で)ブサイクになるために化粧までしている。
ちょっと気になるのは、化粧したり顔を出しているのは、わりととうが立った女たちばかりだ。どうやら若い女性は、すっぽりと目のところだけ開いた布をかぶっている。そういう宗教なのだろうか。
なんにしろ、ブスになるための化粧だ。
そしてどうやら、肥溜めのようなにおいの香水まで、露店では売られている。
私を捕らえた男たちの外見について、念のためにお伝えしよう。
その、なるべく客観的に。
まず体格は、背の低い太っちょばかり。たぶん稽古をさぼりまくったお相撲さんでも、こうはなるまい、というたるみっぷり。
お顔は、じゃがいもに小さなお目目がついてるよ! というのが一番ちかい。
見ようによってはかわいいかもしれないが、鼻や口など、その他のパーツは以上に大きく、歪んでいる。
その上、福笑いをしたあとのようにバランス悪く顔に収まっているので、美醜にそうこだわりのない私でも、見ていて気分が悪くなる。
極めつけは、その体臭だ。
みなさんは小学生のころ、下水処理場に社会見学に行ったことがあるだろうか?
みなまでいうな。その「香り」を、数倍に凝縮したようなやつである。
私が嘔吐しないのって、すごいかも。
そういう男たちだ。
そういう男たちが、大勢の人間からほれぼれと尊敬と憧憬とエロスをたたえた目で見られているのだ。
世界は広い。異世界ってすごい。