転/第百十一話:(タイトル未定)
「胃薬が欲しい。うう……」
朝から超絶ガッツリな食事だったこともあり、お腹が重い。――が、それ以上に、現在位置にあって気が重たかった。
昨日ぶりの“工房/工場”と大きな鉄扉が、もうすぐそこに見えていた。
先送りにしてあったドクさんとの“自分について”の話が、もうすぐそこに迫っていた。
「刀さん? 行かないのですか」
つないである手がちょいちょいと引かれたと思うたら、
「皆さん、もう行ったようですけれど?」
うかがう言葉が、我が左の耳に「おーい」と届けられた。
「え、あ、すみません」
あっさりと大きな鉄扉の前に到着してしまって、けれども鉄扉は閉まってあった。昨日のレンくんにならって、肉体労働をして開けようとしたらば、ツミさんとバツに“普通の扉”があると教えられた。ふたりは昨日、そちらのほうからお訪ねしたとのこと。“工房/工場”の脇をのぞくと、確かに“普通の扉”があり――
今現在、その“普通の扉”を前にして突っ立っていた。
「どうかしたのですか?」
気遣わしげに訊いてきてくれた壱さんに、
「いえ、大丈夫です」
と応じ、
「行きましょう」
重いお腹をさすりつつ、妙に動きの鈍い足を駆使して先へと進む。
扉の向こう側へと――
「……あのう、壱さん」
「はい、なんですか。刀さん」
「その、胃薬とか、持っていたりしませんかね?」
「うーん、下剤ならありますよっ」
「――行きましょう」