転/第百八話:(タイトル未定)
――という“頭を冷やして眠るために外へ出たのに結局、いろいろあって眠気のほうがすっ飛んでしまった、事ここに至るまで”のことを、件の手帳に書き書き書き足した。窓際に椅子とテーブルを移動し、そこで夜空の月と手元のランプっぽいモノの淡い灯りを頼りにおこなった。
ちなみに自分以外は皆、外出時同様、就寝中である。
我が背で起きていたキチさんも、部屋に着くなり大の字で寝る壱さんのお隣へもぐりこみ、そのまますぐに「すやすや」と安らかな寝息をたて始めていた。
大胆豪快な寝姿の壱さんと、そこに寄り添うように身を丸めて寝るキチさん。静かで整った寝姿のツミさんと、その隣で自分の右の親指を少しだけくわえて寝るバツ。なんというか、じつに微笑ましい光景だ。意図せずして顔面筋がニヤニヤ、胸の内がぬくぬくする。
――なんていうのは、束の間のことで、
「あっ」
壱さんが「むにゃむみゃ」と寝返りをおこなった瞬間、ふと“その事実”に気がついてしまったのだった。
寝場所がない、と。
ま、床で寝ればいいのだけれどもね。
ただ、それは、最後の最後のおこないとしたいのが、複雑怪奇で単純明快な我が心情のしからしめるところなのだ。
そんなわけで。
時間の有効活用というそれっぽい理由付けをして、件の手帳に書き書きしていた――わけだけれども、それも一段落してしまった、今現在。
さて、どうしようか。
うーんむ……。
「あ、そうだ」
シノさんから“壱さんへの言伝”を預かった、とメモしておこう。明日になったら、うっかり忘れてしまっているかもしれないし。
とは言え、件の手帳から手で切り取った紙片に、“明日、シノさんが会いに来る”と書くだけなので、やるべきことはすぐに終わってしまった。
「……よしっ、寝る」
このまま眠気が来るのを待っていたら朝日を拝むことになる気がしてきたので、こちらから迎えに行くことにした。
そんなわけで。
ランプっぽいモノの灯りを消してから、床に仰向けで寝転がり、まぶたを下ろす。
改めてよくよく思ってみると、だいぶマシな就寝状況だなぁ、いまって。“ここ”へ来るまでの道中における、就寝状況よりも。
なんたって、寝返りをうっても、無数の鋭利な石がツボじゃあないところをグサグサと刺激してこない。風が吹き抜けないうえに、虫とかが這い上がってこないうえに、獣に寝首をかかれる不安もほぼほぼありえないのだ。
「ふぁ~ふぅ……」
雨風に虫と獣までしのげる屋根と壁があるって、素晴らしい。