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転/第百三話:(タイトル未定)

 壱さんの嗅覚が羅針盤のように進む方向を教えてくれたので、“行きは”さして足を止めることなく目的地に到着できた。――が、行きはよいよい、帰りはなんとやら。購入した揚げたて熱々の“揚げイモ”は、“壱さん印の羅針盤”を惑わす超強力な磁力となってしまい……まあ、つまり、宿屋までの道のりは、“そこ行くヒトに、声をかけて道を訊ねないといけない/声かけ事案”の連続だった。

 ま、それはそれで、悪くはない――なんて懐いちゃったのは、そのときおんぶしていたおヒトが終始、聞かせてくれた、ご機嫌な気分の溢るる鼻歌の効能だろう。きっと。

 ――という“事ここに至るまで”を、うっかりお漏らししちゃったやや苦い笑いを噛み殺しつつ“件の手帳”に書き書きした。

 ひとまず“きっと”に“まる/句点”をつけ、羽ペンを置く。

「ぐふふふっ、刀さんっ!」

「あ、起こしちゃいましたか。すみません」

 不意と名を呼ばれ、“件の手帳”から“そちら”へ意を向ける。

「――の朝ごはんの半分は私のモノでふぅ~んむにゃむにゃ。これはなんと恐ろしくも完璧な戦略でしょう。ふふぇっ、策士」

 ベッドで大の字に寝ていらっしゃる壱さんが、なんだか楽しそうな寝顔を浮かべて、お口をむにゃむにゃ動かしていた。

「…………」

 すみません、策士さん。恐ろしくも完璧に考えがダダ漏れていますよっ。

 ――とは、すやすやと安眠しているおヒトにあえて言うことでもないので、自己満足というか“それでも言いたい衝動”の処理的に心の声で述べておくとして。

「……はぁ」

 眠れない。

 睡いのに、あくびも連発しているのに、脳ミソだけは考えることを継続しちゃって休んでくれない。

 きっと“件の手帳”に書き書き書き記していたらば、睡魔さんが思い出したふうに襲ってきてくれるだろうと期待していたのだけれども……。壱さんと一緒に寝ちゃったのかな?

 まあ、“事ここに至るまで”を書き記していて、“いろいろなこと”を思い出して改めて意識しちゃったから――というのが、悪いというか原因なんだろうけれどもね。

「……頭、冷やしてこようかな」

 そうすれば、熱暴走したようにグルグルと頭の中を駆け回っている“意/考え”も、落ち着いてくれる――といいなぁ。

 よしっ。ちょいと外に出て、夜風にでも当たって“意/考え”を冷却してこよう。

「あっ……いや、そうか」

 現在、起きているのは自分だけ。壱さんは語るまでもなく、ツミさんとバツもすでに夢の世界への船旅に出てしまっている。なので、いちおう、書き置きしたほうがよいかしらと思うたけれども、そういえば“こちら”の文字は書けないし読めないんだった。オレ。

 うーん……。

 宿屋のヒトに、挨拶ついでに言伝を頼んでおけばいいか。うん。

 とりあえず、そうすることにして。

 なるべく物音を立てぬよう部屋から出ようと思い、気持ち慎重に、腰を上げる。そんな動作の流れの中で、なんとなくやった視線の先に、紙袋がひとつ置かれてあった。口を折り込まれ、いちおうの封が施されてある。

 なんだったかしらと手を伸ばし、封を解いて中身を確認して、

「ああ、そういえば」

 と思い出した。

 夕食がわりとガッツリあって、さすがの壱さんもお残しすることになった“揚げイモ”だ。まあ、バツとツミさんの分を含めてもなお、単に“揚げイモ”を買い過ぎただけだと思うけど。それでもあと三個しか残っていないあたり、さすがというか、なんというか。

「おうふ、これはなんとも」

 すっかり冷めてしまっている“それ”だが、小腹が空いたときの頼れるおとも“夜食さん”としては“最高/最適”だと思うわけで。

 現在進行形で小腹が空いている野郎がひとり、ここにいるわけで――

「朝ごはん半分と交換ということで、ここはひとつ」

 眠れる策士さんに控えめな音声で断りを入れつつ、“それ”を手に取り、部屋を出た。

 抜き足、差し足、忍び足――なノリで階段を下りると、

「おや、若旦那。なにか、ありましたか?」

 受付けのほうから、そんな落ち着きある音声が飛んできた。

「いえ」

 応じつつ“そちら”へ近づき、様子をうかがう。

 そこには、“ランプっぽいモノ”で手元を照らし、書類的なモノを作成している“宿屋のおヒト”の姿があった。

 こちらが近づいたことに気がついた“宿屋のおヒト”は、手を止め、顔を上げ、

「外出なさるのでしたら、“灯り”をご用意いたしましょう」

 我が手元をチラリと見やり、長年の勘から察したのか、そう言うてきてくれた。

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。そんなに遠くまで行くつもりはないですから。ただ、ちょっと夜風に当たりたいなって思っただけなので」

「おや、そうなので? わかりました」

「はい。あ、でも、ひとつ、お願いしたいことがあるんですけど――」

 と、“もしかしたら”に備えての言伝に関して述べる。

「承りました。“そのとき”は、そのようにお伝えいたします」

「お願いします。――それじゃあ、ちょっくら行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」

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