転/第百話:(タイトル未定)
「それで。考えを改める気になったか、鍛冶屋?」
青アザたんこぶのお方が、腕組みをして言葉を投げた。
「毎度、毎度、律儀にこの時間帯に現れては、これまた律儀に毎度、変わらぬことを訊いてくるなぁ。飽きないのか?」
ドクさんは苦い笑みを浮かべて応じ、
「それに毎度、代わり映えしない顔ぶれで――ん、おや? ひとり、減ったか」
言いながら途中で眉根を寄せた。
「ああん? ああ、知ってるだろ。鍛冶屋。あいつの奥さんは――」
「おお! じゃあ、誕生しそうと、そういうわけか。彼が不在なのは」
「そうだよ。子どもが誕生するってときに、無理やり連れてくるわけにもいかねぇだろう」
「はっはっ、そうか、そうか。彼が来たら渡そうと思っていたモノがあるんだが、代わりに受け取って、届けてくれないか?」
「はあ?」
「いま持ってくる」
「あ、おい」
青アザたんこぶなお方の戸惑いを放置し、ドクさんは“工房/工場”の奥へと消え、
「これだ。私が作った乳母車でな」
言葉通りのモノを手で押しながら、すぐに戻ってきた。
「お前さんらは、どうしようもない連中だが、どういうわけかお前さんらの奥さんは、お前さんらにはもったいないくらいのヒトだ。世話になったこともある。だから、これは、そういうわけだ」
「……わかった、渡しておく。いいか、誤解するなよ。鍛冶屋、お前の頼みを聞いたわけじゃねぇからな。あいつの奥さんとガキのためだからな」
「ああ、わかってる」
「はぁ……」
やれやれというふうに溜め息を吐きつつ、受け取った乳母車を後方に控える仲間へ預け、
「で、考えを改める気には?」
青アザたんこぶなお方は、鋭さある眼光とともに言葉を投げる。
「これはこれ、それはそれ、だ。こちらの返答も毎度お馴染み――断る、だ。”夢のないモノ/ロマンのないモノ/武器/兵器”を開発する気はない」
「そうか。なら、仕方ない」
青アザたんこぶなお方はとくに声を荒げることなく言い、
「お前ら、やるぞ。とりあえず今回は、デカイそこのヤツをやっちまいな」
と、“製氷機”を指差した。
厳つい顔面の方々は無言でうなずき、目標へ向けて動き出す。