転/第九十九話:(タイトル未定)
「どうしよう……」
ちょいと開けた扉の隙間からドクさんの様子をうかがいつつ、頭に軽い痛みを覚えた。
大きな鉄扉は完全に開放されてあり、屋外には厳つい顔面の方々がズラリとほぼ横並びで立ちはだかっていた。面々は、その鋭い眼光をドクさんという一点に集中させている。
逃れられたと思うていたら、ただ先延ばしになっていただけだったとは……。“一難去って、また一難”とは、まさにこのことだろう。
ちなみに、壱さんが“拳でご挨拶した”というお方はすぐに察せられた。左の頬と、左の目の上に、ご立派な青アザたんこぶをこさえているお方がひとり、いらっしゃったのだ。
いちおう、いま一緒になって扉の隙間に貼り付いているレンくんに確認してみたところ、
「そうだぜっ。二発目を喰らったとき、ぎゅるんぎゅるん横回転してすごかったんだっ!」
天井裏から目撃したらしい“そのとき”を添えて、ちょいと興奮気味に教えてくれた。
さらに添えられたお話によると、どうやら先に手を出したのは“あちら”で、“ぎゅるんぎゅるん横回転”は壱さんが正当防衛をおこなった結果であるとのこと。
まあ、だろうとは思っていましたけれども。
ともあれ。この際、やっちゃった過去のことは致しかたなかったとして。
これから、どう行動すべきだろう。“あちら”さんに「やって、やられて、やり返すのはダメよ」と説いたところで、それを素直に聞き入れてくれる絵面は想像できない。かといって、「首が“ぎゅるんぎゅるん、きゅぽっ”ともげなかっただけで儲けものなのだから、おとなしくお家に帰りましょう」と柔らかく諭したとして――
「うーんむ」
だから、まあ、
「どうしよう」
と、意図せずして、お口から漏れてしまうわけだ。
「なあ、にぃちゃん。いつまで様子をうかがってるんだ?」
我が顎の真下から、レンくんが見上げるようにして言うてきた。
手を貸した理由たる“共通の敵”をすぐそこにして、なにをしているんだ。――と、もどかしい心情なのだろう。たぶん。
「んー、ううん」
ズルっこいとは自覚しつつも、扉の隙間の向こう側のやり取りに気を取られているふうを装って曖昧な返しをした。
気になっているのは、事実ではあるのだが。