3話 マリーとリリー
そして話は現在に戻る。
リンは感動に震えていた。
声、仕草、雰囲気、その全てにおいて男という不純な要素を含まない完全なる女の子、数年に渡って探し求めてきた女という存在が目の前に現れたのだ、理性を保っていられるはずがなかった。
リンは一歩ずつ、ゆっくりと歩みを進め、双子に手を伸ばす。
すると、双子のうちの一人が震えながらももう一人を守るべく前に出た。
「お、お姉様……?」
「わ、私の妹には指一本触れさせないわ! あっち行きなさい!」
「…………」
涙を浮かべ、全身を震わせながらもこちらを睨みつけるその姿にリンは更に笑みを深める。
そして、その手を双子の姉の頭の上に乗せようとしたその瞬間だった。
スカッ
手が頭を貫通して通り過ぎた。
「…………は?」
現実離れしたその様子にリンは首を傾げた。
しかし、次の瞬間、体から力が抜けたように膝をついた。
「な、なにこれ……力が……」
思わず手を離すと、力が抜けていくような感覚もなくなった。
何が起こっているのかわからず、混乱するかと思われたが、今の理性を失っている状態では逆にそれが良い気付けになったようで、リンは冷静さを取り戻す。
周りを見てみると、破壊された扉、怯える双子の女の子、そして、口から血を流して倒れる大型顧客。
「なにこれ、地獄絵図なんだけど」
俺は冷静に周りの様子を見ながら今までに起こったことを思い出す。
そして、全て思い出した結果、俺はすぐさま頭を地面に叩きつけた。
「ご、ごめん! 怖がらせちゃったよね、謝るから、私の事は嫌いにならないでっ!」
「「…………」」
双子は突然の変わり身に目を丸くし固まる。
しかし、土下座を続けているうちに、流石にもう危険は無いと理解したのか、姉の方が恐る恐る尋ねた。
「あ、あなた、人間なのよね……?」
「はい、不肖ながら人間やらせてもらってます!」
「そう、それに、私達を襲ったりはしない……のよね?」
「もちろんでございます!」
「そう…………」
そう言うと、姉はへなへなと倒れ込む。
「…………うぅ」
「えっ?」
突然、姉の目から大粒の涙が零れ落ちる。
それを皮切りに、今まで堪えていた恐怖が一気に溢れ出したのか、姉は妹に抱きつきながら大声で泣き始めた。
「うわぁぁぁん! 怖かったぁ! 殺されるかと思ったぁぁ!」
「お、お姉様ぁ! うわぁぁぁん!」
つられるように妹まで泣き始め、部屋中に2人の泣き声が響き渡った。
「ごめん! ほんとごめん!」
俺は謝り続けることしか出来なかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「すん……すん……それで、あなたは何者なの?」
双子を何とか泣き止ませ、俺は正座になって尋問されていた。
「えっと、どっちで言ったらいいんだろ、本名?」
「え? どういうこと?」
「あぁ、えっと、誠って言います、けどえっと、リンって呼んでください」
俺がそう言うと、双子は同じようにコクコクと首を縦に振った。可愛い。
「私はマリーよ、それでこの子が妹のリリー」
「リリーですわ」
そう言って2人揃ってスカートの裾を少しつまみ、会釈する。
その様子は所謂お嬢様の仕草という感じだった。
「って、知りたいのは名前じゃないのよ、そうじゃなくて、貴方はなんで私達のことがはっきり見えてるのか聞いてるのよ! 全然怖がってないみたいだし!」
マリーはプンプンと頬を膨らませながら指を指してくる。
そんなことを言われても、俺自身何故2人のことがはっきり見えているかなど全く分からないので答えようがない。
しかし、ただ1つ、確かなことはある。
「なんで君たちのことが見えるのかは分からない、けどどうして怖くないのかはわかるよ」
「な、なんでなのよ!」
「幽霊の事は普通怖がるものですわ!」
2人がムッとしながらこちらを見つめてくる。
どうやら、幽霊であることに少なからず誇りを持っているらしい。
しかし、俺からしてみれば、幽霊だろうが、小さい女の子だろうが関係ない。
「2人とも……めちゃくちゃ可愛いからっ!」
「「…………え?」」
俺がそう答えると、2人は揃って間の抜けた声を上げた。
「えっと……どういうこと?」
「言葉の通りだよ、可愛すぎて怖がるとか通り越すから!」
「わ、私たち褒められてるんですの? それとも幽霊として貶されてるんですの?」
リリーは頭を抱えて悩み始め、マリーは赤面しながら俺の方を指さしてきた。
「貴方、言って良いのことと悪いことがあるわよ!? 幽霊に可愛いなんて、そんな……よ、よくないわよっ!」
マリーは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんな姿すら可愛いのだから、もはやどうしようもない。
俺は改めて2人を見つめる。
そして、決意した。
この子達と仲良くなると。




