第9話
トリアの周囲にある子亀の死体たち。
……いったいぜんたい、本当に何が。と思いつつ、ストレージにアイテムを回収していく。Lvも20に達していた。わーすごい、SPもたっぷり。銃も買えるね、買わないけど。今のとこ格闘で育ってるし。
子亀を倒すスピードが各段に上がっている。ちょっと試しにオートモードに戻して、子亀を一匹倒してもらうことにした。
すぐに1匹ではぐれている子亀を見つけたトリアは、ためらうことなく子亀に近づいていく。
「……ぐるぐる……ぐるぐる……!」
トリアは子亀を前に腕を、肘から先を回している。まるで殴る前にする準備運動のようだが、もしかしてこれは……溜め攻撃か?
と思っていると、腕を回しながら子亀に向かってキックする。ガンッガンッと生身の足ではないような音に、蹴られた子亀が頭を出す。
「ぱんちっ!!」
そこにカウンターも何もなく、トリアの拳が突き刺さった。
殴りつけた、ではなく、突き刺さった。頭にずぎゃっと。攻撃モーションとやられモーションが固定で、ゲーム的にそう表示されているというわけではなく、本当に刺さっていた。
ずぼっと手を抜くと、ぶんっと手を払って亀の体液を振り落とす。びちゃっと地面に子亀の血が巻き散らかされ、先ほどの光景の1匹分が再現された。
……うん。子亀を一撃で倒せるようになったんだね……!
そりゃ狩りの効率も爆上がりだよ。オートモードでプレイヤー操作より効率良く狩れるってスゲーなオイ。
それが前提の難易度のゲーム、ってことなのかもしれないけど。
子亀を一撃で倒せるようになり、経験値効率が爆上がりした。
が、喜んだのもつかの間。すぐに問題が出てきた。子亀との遭遇ががくんと減ったのである。というか一匹もエンカウントしなくなってしまった。
残っているのは大亀の取り巻きとして侍っている分だけだ。それも、なんか減っている気がする。
……どうやら、子亀はすぐにはリポップしないらしい。
かといって、この山の、スタート地点付近には亀達以外のモンスターが見当たらない。
おそらく大亀の縄張りで他のモンスターが寄り付かない、あるいは食い尽くされてるという設定かなにかだろう。
これは経験値稼ぎしてないでさっさとチュートリアルを終わらせろという運営の意図に違いない。
……ん? ちょっとまて。そういえばチュートリアルって『子亀を倒せ』だったような……あ。達成済みになってた。報酬で10SPが入っていた。
次のチュートリアルは無いのか? と思ったけどないらしい。なんという不親切。他の人はどうなってるんだろ、Wikiで調べたいところだ……
となると、満を持して大亀を倒しに行くべきだろうか……と、思ったが、逆にWikiを思い出し、思いとどまる。
このゲームは調整がめちゃくちゃなのか理不尽に死亡することも多々あるし、死亡したらキャラロストだし、12時間は新規プレイ不可だ。
過剰なくらいに安全マージンをとっておきたい。そう考えると、今の戦闘力で大亀に挑むのは避けるべきだった。
我ながらなんて冷静で的確な判断。花丸あげちゃう。
「……うん、大亀は一旦置いとこう。子亀を倒せるようになったってことは結構強くなったってコトだし、冒険者ギルドを目指すか!」
そもそも同僚のルートではボスとかいなかったって話だ。しいて言えば盗賊共をぶちのめしたらしいが、それはこっちで言えば子亀に相当しているだろう。ならばここでの経験値稼ぎは一旦十分だと思う。
大亀に挑むのは罠という可能性が高い。見た目に反して弱い可能性もあるが……
「よし! 下山しよう。まずは人里を探して、そこからギルドだな……調べ忘れはないかな?」
スタート地点、苔っぽい木箱が置いてあった場所なんかを色々探してみる。
手足を潰していた4つの岩をどけると、潰れて腐りかけた手足があった。多分トリアちゃんの。……うーん、修復不可! というか新しい手足があるから不要だ。でもなんかアイテムとして取得できるっぽいから取得しておこう。
まだまだストレージに余裕はあるし、何が必要になるか分からないからね。
と、画面にフキダシに「!」というアイコンが表示された。チカチカしていてなんだろう、と思いタップする。
『精霊様。せんえつながら、町をお探しでしょうか』
「うおっと!? キャラとのチャット機能。オートモードの時だけじゃないのか」
『きゃらとのちゃっときのう?』
自分の発言にするりとメッセージが更新された。
「あ、ってかこれ音声認識してるのかコレ」
『ええっと、精霊様のお声は聞こえております』
「まじかー」
えー、インストールの時にマイク使用権限入れてたっけ……覚えてない。多分入れてたな。
そうか。マイクも使えるゲームだったのか……手入力も面倒だし助かる。
今まで声に出しながら手入力してたもんなぁ。二度手間だったかー。
「えーっと。トリアちゃん?」
『はい、トリアです。なんでしょうか精霊様』
音声に対してスムーズな返答だ。今時のAIはホント高性能だなぁ。
今後は音声入力でいこう。
「近くの町への行き方は分かる?」
『ここからだと分かりませんが、一旦村に帰れれば、わかります。村はたぶん山を下りたところです』
「つまり実質分かると言っていいね。んじゃあオートモード切り替えるからよろしく」
『かしこまりました』
オートモードに切り替えると、トリアは山道を下り始めた。
うん。どうやらキャラクターに任せて自動でなんとかしてくれるらしい。ファストトラベルではないが、地味に便利でいいね。
でもまさかキャラクターの方からそういう提案があるとは……いや、もうオートモードにしてた時に倒し方を試していいか聞かれてたか。やはり時代は忙しい現代人に寄り添う放置ゲー。
と、ふとミニマップに目を向けると、敵を示す赤い点が接近していた。
残っていた子亀だろうかと思って視点を動かす。
違った。
大亀じゃん。しかもめっちゃ怒ってる。
ずんごんずんごん木をなぎ倒し迫ってきてる。かなりの勢いで。
「強制ボス戦ってこと!? いや無理無理まだ勝てないって! トリアちゃん逃げてー!!」
『わかりました、トリア、逃げます』
オートモード中なので画面内のトリアが口を動かしてそう答えた。




