第7話
俺はゲームを続ける。端末の中ではトリアが亀を殴りまくっていた。一応「子亀」だが、やっぱりデカい。まぁあの親亀を見た以上、確かに子亀だなと納得せざるを得ないわけだが。
一度殴り始めたらあとは倒すまで殴りっぱなしでいいのは楽と言えば楽だ。半分放置ゲーのようですらある。うっかり反撃されたら即死かもしれないのは怖いところだが。
パラメータも順調に育っているし、昨晩と比べるとレベルが7上がって8になったことでSPが21手に入っていた。Lv1上昇につき3SPだな。
今のSPは残り61。同僚が言っていた『古代遺跡の銃』は90SPだったので、Lv18まで上げれば俺も銃をSPで手に入れられるだろう……が、同僚と同じ道を行くのも芸がない。
俺は俺で別の方向を突き詰めるべきだろう。その点で言えば現状の格闘スキルをさらに伸ばしていくのはアリだった。
インベントリは同名称アイテムはひとまとめにして入るっぽくて、今のところ子亀のアイテムばっかりなので余裕がある。鮮度の違いは取り出すときに指定すれば指定できる模様。指定しなければ適当にでてくる。
沢山入るのはいいけど、整理面倒くさいなコレ……
で、引き続き周囲をうろついている子亀を見つけ、近づいてパンチを叩き込む。装備が未だにないので素手で。クラフトとかないんかな、と思わなくもないが、よく考えたらこのトリアちゃんはただの生贄村娘。そんな技能などないのが当然なのだ。
いや、そんな村娘を素手で亀殴らせてるのも大概なんだけど。
なんかSPで武器作ってあげた方が良いかなぁ。でもレベル以外の入手方法がまだわからん以上まだまだ貴重だ。同僚はサッサと使うに限ると言っていたが、流石にすぐに換えるような武器にするのもちょっと勿体ない。スキルも実は簡単に普通に手に入りますってモノをSPで習得するのは癪だ。
結局、もうちょい様子見、保留だ。
まてよ? 素手よりは木の棒を装備した方が攻撃力あるかもしれない。そう、人間は石や棒を手にして猿から進化したのだから。
というわけで拾った木の枝を装備できるか試してみた。
できた。
……攻撃力は+2だけど、無いよりはマシかな? と思って、次の子亀をこれで殴ってみる。ガツンガツン、と何度か叩くがダメージが通っていない模様。
そして甲羅より先に木の枝が壊れた。
そうか。武器耐久度あるんだね……素手は武器耐久度ないから大丈夫だったのかな。
ううむ、これは亀討伐は素手最適説出てきたぞ。
結局木の棒で叩いた分は殆どノーダメージだったようで、そこから更に殴って子亀を倒した。剥ぎ取りもしてインベントリのアイテムの数が増える。ステータスも順調に伸びている。
今の亀を倒したことでレベルは9になった。筋力も45、昨晩の3倍である。
……やっぱ地道にトレーニングするよりレベル上げた方がパラメータ上がるよなぁー!!
でも最終的にはレベル上げは頭打ちになるもんだし、トレーニングでパラメータが上がるというのも地味に重要な要素だろう。
さて、ここまで来たところで子亀の行動に変化が現れた。
こちらが殴り始めると、首を伸ばして反撃してくるようになったのである。まるで今までは敵と認識できていなかったかのように。
「む、チュートリアルの段階が変わったか?」
だが硬い甲羅ではなく、頭ならより効果的にダメージが入る。それに頭の動きも緩慢である。のっそりした動きに合わせてカウンターパンチ。ようやくゲームらしい戦闘になってきた。
しかしまだ音ゲー等に比べてタイミングは簡単、攻撃が温い。
子亀の顔を数発も殴ってやればスタンして殴り放題。ラッシュをキメてやれば、甲羅を破壊する攻撃力で頭を破壊。一気にHPを削りきれる。
これにより、子亀狩りは大幅に加速した。
子亀を見つける、殴る、顔を出す、殴る、攻撃してくる、殴る、殴る、スタン、殴る殴る殴る……!!
剥ぎ取りは死体を丸ごとインベントリに格納! 甲羅が割れていなければ「子亀の死体」でいっぺんに入れられるのだ。コレは楽ちん! 剥ぎ取り中に襲われる心配もない。まぁ丸ごと腐るかもしれないけど。
効率よく子亀が狩れるようになった。なんと未だにノーダメである。岩を噛み砕く噛みつきだ、一撃でも貰ったら怖い。回復手段まだないし、リスポーンするかもわからない。トリアとお別れして新しい子でリスタート、と言う可能性もあるからな。
そうしてレベルは15になった。いいね、順調にレベルアップしてる。そろそろ2匹までは同時に行っても良いかもしれない。が、安全マージンをとってまだまだ1匹ずつだ。格闘の熟練度もだいぶ上がっている。
そろそろ一度、オートモードで回して大丈夫か確認しておくかな。可能なら子亀狩りで放置させておくとしよう。
さーて、その間に晩飯食べるかな。亀狩ってたら肉食べたくなってきたし、レトルトのハンバーグあけちゃお!
* * *
子亀を倒す。昨日までは絶対に勝てないと思ってた存在が、今や一方的な狩りの対象だった。精霊様に教えていただいた手順で戦えば、攻撃を一度も食らうことなく余裕で倒せる。
やはり精霊様はすごい。と、トリアは自分の身体を動かしながら感謝を捧げた。
自分の力がどんどん強くなっているのも分かる。10回殴らなければ倒せなかった子亀が、9回殴れば倒せるようになった。そもそもあの甲羅を殴り壊すなんて、生贄に捧げられる前の弱い手足ではできるはずもなかった。
改めて自分の手足を見る。靴も履いておらず剥き出しの裸足だが、小石を踏んでも痛くない。甲羅を殴り壊せる手と同じく、精霊様に授けられたこの足も相応に強いのだ。
ふと思いついて、子亀の攻撃を避けつつキックで頭を攻撃してみた。足の甲が勢いをつけて襲い掛かってきた子亀の側頭を捕らえる。ゴメシャ! と重いものを叩き潰した音がして、子亀が動かなくなった。これには思わずトリアも目を瞬かせて驚いた。
『カウンターキック! そういうのもあるのか!』
光輪になっている精霊様が嬉しそうに声を上げた。
どうやら自分の思い付きが精霊様を喜ばせたらしい、とトリアは誇らしくなった。
「精霊様。もっとこういうことを試してみても良いですか?」
『もぐもぐ、ごくん。……いいよオッケー!』
精霊様から許可が出た。……何かを食べていたようだけれど、子亀の魂でも食べていたのだろうか。さすが精霊様である。
『うんうん、この調子なら子亀狩りを任せてもいいかな。あ、でも攻撃は当たらないように気を付けて。遅い分、ダメージデカそうだし』
「分かりました精霊様!」
『それじゃ俺は別の事してるから、よろしく!』
「はい! お任せください!」
かくして、子亀の殲滅作戦が始まった。




