第45話
ミーティちゃんただいまー。
ゲームに戻ってきた。場所は特に変わりなく施設の壁の隙間。断熱や防音、配管の為とかだと思うんだけどスライムが隠れるのには都合の良い隙間だ。
同僚も言ってたけど、別の被験者を探してみようと思う。
床下、あるいは天井裏と言うべきフロアの隙間を通ってミーティちゃんが生まれた研究室に戻ってみると、封鎖されていたフロアは既に解放されて床が張り直されていた。
室内の何もかもがなくなっていて、犯人と思われるスライムも倒され、現場責任者の研究員も死亡済み。色々と綺麗に片付いたってことで、さっさと次の研究にでも使うことにしたのだろう。
んじゃ、同じフロアにある別の部屋を色々と探して行ってみようと思う。
囚われた女の子とか居ないかなー。男の子の可能性もあるけど。いやそもそも子供じゃない可能性もあるのか。お姉さんでもいいぞ。お兄さんは一番つまらん。
『もっとも現実だったら丈夫で頑丈で長持ちする成人男性一択だけどな、こういう研究なら』
常識的に考えて、なぜならその方がいい研究結果もとれるから。あと魔人兵計画ってことは兵士を作る訳で。なら成人男性をベースにするのが一番ちゃんとしたデータになる。
逆に言えば、可愛らしい女の子が研究材料に使われていたらやっぱりゲームなんだなぁって話なわけで……
『やっぱりゲームなんだなぁ』
探し始めて3部屋目で、檻の中で鎖に繋がれた女の子を見つけた。
鎖はゴツい鉄の首輪に繋がっている。右頭には猫耳、左頭には耳の代わりにカエンタケのような赤い角が生えている。枝分かれした指のような不吉なシルエットだ。
虚ろに半開きになった右眼。左目は眼帯のような包帯が巻かれている。手足には焦げた包帯が巻かれていた。
髪の毛も右側は緑色なのだが、左側は赤くなっている。まるで角に汚染されているような、そんな感じだ。
「……ぁ……ぇ?」
捕らわれの女の子は、目の前に転がってきた透明に赤い核を持つスライムを右眼に見つけ、声が漏れる。意識があるようで、俺をしっかり見てきた。
人間の頭くらいの大きさの俺だが、コアは握りこぶしくらいだ。コアより広い間隔のスカスカな檻、俺にとっては狭めの通路でしかない。
『ヒロイン初遭遇!……って、声出せないんだった。なんとかこう、スライム的に声帯を再現して喋れないかな……あー、あー?』
ぷるん、ぷるんと体が震えるのみだ。SPで発声器官取った方が良いか……と思っていたら、女の子が脇にあったクッションを包帯をした手でつかみ上げ投げてきた。
どさ、と手前に。
それはクッションではなく、子供だった。
その子供は目を開いたまま動いていない。投げられて反応もなく、呼吸もしている様子も無い……死んでいるようだ。
「……」
『え、な、なに?』
……そして俺を見ている捕らわれの少女。
投げ方もぶつける感じではなく、動物にエサをやるような。そんな放り投げかただった。
「……食べていいよ? 私のゴハン、だけど」
あ、そういう。
……うーん。この子には悪いけど、戴きますかね。捕食スキルつかって一息にもぐっと。……よし、声帯を取得した。意識して捕食するとある程度取り込めるっぽいな。
「ぁ。……あー、お、声、出てる?」
「……ただの、スライムじゃないと思ったけど……喋れるんだ」
「今の子の喉を解析してなんとか?」
「そっか。ゴハンあげたかいがあったね」
ごはん。さっきも言ってたけど、今のこの子のゴハンなのか。
女の子に、子供に子供食わすってどういう研究なんだよここ。鬼畜すぎる。
「え、きみ、人を食べるの?」
「食料が無くなって、こすとさくげん、らしくて?」
「なんかゴメン」
「ううん。あの子、仲良かったから食べられなかったの。助かった」
き、鬼畜過ぎるぞ! この研究所のやつ!
というか俺のせいじゃん食料なくなったの。せめてものお詫びに……あ、食料庫から盗った芋とかあったな。
「お詫びに……えーっと、これを」
「……おいもだ。こっちの肉は……なんの?」
「人肉ではないと思うけど。あ、生だとマズイよな。えーっと、火種を何か……」
「ん」
SPでスキル習得しないとかな、とメニューを開いていると、女の子が右手の包帯を解いて手のひらに芋を握っていた。右手は炭のように黒い。
ジュウッと芋が焼ける音がする。
「ありがと。もらうね」
「へぇ、便利な手だねぇ」
「……そうなのかな? かゆいトコかけないよ?」
「ごめん不便だったね」
「ん、うん。おいしい。ありがとう」
干し肉についてもがぶっと噛みついていた。ギザギザの歯で、牙という方がふさわしい強そうな口で、あの硬い干し肉をブチィと噛みちぎっている。
こんな口ならリザードマンのテールステーキなんてサクサク食べられそうだ。
「……ごちそうさま」
そう言って手を合わせようとして、指先だけちょんとつけていた。
「ねぇ……スライムさんは、天使なの? 私を迎えに来たの?」
「え? 天使?」
「天使には輪っかがあるって聞いたことあるの。背中に羽も。スライムさんには羽がないけど」
へぇ。こっちにはそう言う話があるんだなぁ。羽っぽい触手なら出せるかもしれないね。
「まぁ望むならきみを外に出しても良いと思うけど」
「ホント? あ、でもまって。妹がいるの」
「妹」
「うん。逃げられるなら、妹も一緒に」
姉妹揃って捕まって、奴隷商で売られて、実験材料にされているらしい。
自分が無事な間は妹に手を出さないように言っており、無事なハズだそうだ。
「見つけたら教えるよ。何て名前? あ、君の名前も教えてくれ。妹ちゃんを見つけた時に必要だろう」
「うん。私はアネット。妹は……」
こてり、と首をかしげる。ぴくん、と赤い角が震える。
「……妹、あれ、名前……あれ?」
「アレって名前なのか?」
「ち、ちがうよ。どうして? 名前、出てこない。わからない」
ぐ、ぎゅん、と赤い角が少し大きくなった。
なんかマズい気がする。どくん、どくん、と脈動している。
「まて、アネットちゃん。なんか頭の角が」
「あ、ぅ、ぅ、うん。うん……はぁ、はぁ……」
角が落ち着いた。大きさも戻ったが……
ふぅ、と熱が引いた病み上がりのような息を吐くアネット。
「妹は、妹ね? 私と双子だから。私みたいな顔だよ」
「お、おう。覚えておくよ」
「私が生きてる間は、無事だって、言ってたんだ。だからどこかにいるはず」
研究員がその約束を守っていれば、だとは思うが。
かなりの確率で無事ではないだろうとは言わない方がよさそうだ。
「……スライムさんの名前は?」
「俺はミーティだ。よろしく」
「可愛い名前だね。ミーティちゃん。……女の子だったんだ?」
まぁうん、多分。最終的にはスライム娘っ子になる予定だからそうだね!
……さて、これ妹ちゃんと併せて角の除去方法も調べないとダメなヤツだな?
捕食で角だけ引っこ抜く、とかしようとしても脳まで食い込んでる奴だわ。




