第84話
そして俺達は盗賊マスターの前までやってきた。
戦闘も何もない。当然だ、商品を納めに来ただけなのだから。
確認のためにチラ見せはしたが、触らせることは決してしないため、モブは近寄ることも許さない。
ディーラーから納品された新車にまず乗るべきはオーナーであるように、買い取って最初に手を出すべきは盗賊マスターさんである。
で。
改めて箱を開け、中に入っている猫獣人、恐怖の涙を流しつつ顔を真っ青にして怯えているミーティちゃんを見せると、盗賊マスターは下卑た笑みで「ヒヒッ」と笑った。
恭しく、割れ物を扱うように丁寧に。箱からミーティちゃんを支えて立ち上がらせる俺――と、ここでうっかりと、足を縛っていた縄がほどけてしまった!
それに気づいたミーティちゃん!
ああ、裸足のまま駆けだしてしまった! 洞窟の外に向かって!
「あっ! ここは盗賊たちの拠点だぞ、ニゲテモムダナノニー!!」
「すみません。すぐ捕まえますわ」
「ああ、いい、いい、俺が捕まえよう」
ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、たどたどしく逃げるミーティちゃんを「いい、いい。クックック」と何が良いのか歩いて追いかける盗賊マスター。
命懸けの、粗末な無駄な逃亡。足を痛めているのか遅い。
が、部下達がニヤニヤしながら捕まえようとするとなぜかうまくすり抜けて、大げさに転がって、洞窟の外へ向けて逃げていく。
「たすげ、だれか、たすけてぇっ!」
「おおっと、あーらら抜けられちまったぁ」
「いやっ、いやぁー!」
止めようとしたけど本気じゃなかったから逃げられちゃった、そらそら逃げろ逃げろ。さーて親分あとは任せますぜー、みたいな、お遊びの空気。
まるでお貴族様の行う狩りの猟犬を演じて見せたかのよう。
対するはあまりに必死で惨めなミーティちゃんの逃亡姿。
この対比に、盗賊マスターは哀れみと共に優越感を覚えているに違いない。だからこそ、「おーい、手を出すんじゃねぇぞ?」と言いつつ、歩いて追いかけるのだ。
ミーティちゃんは洞窟を出たところで足をもつれさせて倒れた。
「たすけ……っ」
「おいおい漏らしてるぞ?」
悠々と追いつく盗賊マスター。
「へっへっへ、大人しくしな。逃げられねぇよ」
「い、いやぁあああああーーーー!!!!!」
はい。これが合図ですね。洞窟の上をご覧ください。
青白い炎に包まれた岩が落ちてきましたね!! そう、射撃音を誤魔化すための悲鳴でもありました!!
「なっ!?」
おっと! ここで射撃に気付いた盗賊マスター!
だがもう遅い、逃げようとしたところをミーティちゃんががっしりと捕まえている。
「ばっ、重、離せ死――」
「死ねばーぁ? べろべろべー」
先ほどまでの泣きわめく無様な姿は何だったのか。いやまぁ茶番なわけだけど。全く何もなかったかのように笑顔で、盗賊マスターを地面とべったりくっ付けるミーティちゃん。
あ、そのおもらし、実はスライムだからー。そして多分蜘蛛系モンスターを捕食したので覚えていたスキル、その名もまんま『粘着』でがっつり足止め。
しかし相手はなんと盗賊マスター、なんとその粘着おしっこスライムからとっさに靴を脱いで抜け出した!
「あ」
だが上半身はまだミーティちゃん――ミーティちゃんの分身体にがっしり捕まれていて。靴を脱いだ足の置き場にしたミーティちゃんの足、それこそもっとひどい粘着物で。足止めは十分を通り越して完璧だった。
「あーあ。もうにげられないねぇー?」
「ひっ、化け物――」
どぶちゅん!! と、一撃で盗賊マスターは潰れ去り、ゴガァン! とクレーターの染みになった。ミーティちゃんと共に……
まぁミーティちゃんは染みから復活するんだけどね。スライムだから。
「うわ、本当にマハリクさんの言う通りになったよ……」
「きゃああ、大変! 盗賊マスターさんが死んだ! アンタたち、ここは危険よ、洞窟の奥に隠れて!!」
「は、は!? え!?」
パーン、と銃の発射音が聞こえた。
「ヤバいわ、早く!! 急いで!! 死にたくないでしょ!? 洞窟の中で防御を固めて、襲撃に備えて!」
「あ、ああ!」
「おう……!?」
そうまくしたて、残りの盗賊を洞窟に誘導するマハリクさん。
盗賊達は混乱しつつも、その言葉に従って洞窟に入っていく。
「敵は射撃してくるつもりよ! 捕虜を盾にするわよ!! まだ生き残ってる商人がいるでしょ、早くひっぱり出して肉盾にしなさい!」
「え、何で」
パーン、再び銃の発射音が聞こえ、今度は洞窟の入り口にビシッと礫が穴を開けた。
「死体でもいいからありったけ! 人質にするのよ、敵は手出しできなくなるわ! 急いで、あんたら死にたいの!?」
「!? あ、ああ!!」
「い、今すぐっ!!」
はい。
盗賊に捕まってまだ生きてた商人、いたぶられていた人、捕虜が連れ出されてきました。うーん、見目の良い少年。女代わりにされてたんだな……その、御愁傷様?
「あとは任せて! 洞窟の中でしっかり防御を固めておきなさい!」
「ああ!」
「ここは頼む!!」
そう言って盗賊達は洞窟の中に入って行った。
はい。
「うわ、本当にマハリクさんの言う通りになったよ……」
「なにしてるのトリア。まだ仕事は終わってないわよ? はい、毒火炎瓶」
「うわぁ」
「うふふ、ちゃんとどさくさに紛れて解毒薬は処分しといたからこれで一発よ?」
はい。一網打尽ですね。
ペンペンが作ってくれた毒火炎瓶をぽーい。
「マハリクちゃーん、あとで洞窟の中身食べて良いー?」
「うーん、一応壊滅の証拠にしたいから、少しだけね」
みゅるん、と潰れていたミーティちゃんが復活した。光輪のない分体で本体はアルトの方にいるけど、こっちでも捕食できるのだ。
というか、盗賊マスターの死体は? あ、混ざっちゃったからつい全部食べちゃった? そっかー。
……こうして、たったの1時間程度で盗賊マスターの拠点は壊滅した。
生き残り達も無事確保。完璧な制圧であった。




