第81話
「なんかごめんなさいね」
「いやホントだぉ。ウチの商人君になにしてんですかぉ」
スリアドのとあるビル2階、『何でも屋』の事務所にて。マハリクさんが椅子に座ったままアルトに謝罪をしていた。
というのも、マハリクさんが『何でも屋』で荒稼ぎしている途中、ひと悶着あったのだ。
簡単に言えば、この町まで一緒にやってきた行商人君が再起不能になった。
「ウチの商品を値切ろうとしたからつい」
「交渉まで含めて商売人ですぉ!? 暴力で値切りを封じるのはアウトですぉ!」
「今アウトローモードだから、そこらへんはプレイスタイルに準じてるわよ?」
まぁ死んでしまったNPCは仕方ないので、今後はこういう事のないように……あ、死んではいない? 全治半年くらい? なんだ足を撃っただけか。優しいアウトローだな。
えーっと。今後は程々にお願いしたい所存。
「私も悪いと思ったからポーションを贈ったのだけど、突っ返されちゃって」
「自分を殺しかけた相手から贈られてきた薬とか、普通に毒かなにかだと思いますぉ?」
「そうよね、あなたたちに経由してもらえば良かったわ。まったくNPCのくせに我儘だこと」
「それがこのゲームの良い所なんですぉ!」
「NPCにも高度なAIが搭載されていて、まるで生きてる人間みたいよね」
「ですぉね!」
「楽しいゲームだと思わない?」
「ですぉ!」
あれ、いつの間にかゲームの雑談になってない?
まぁいいか。ゲーム楽しい。完全に同意。
「粗茶ですがー」
「お、ありがと。イチちゃん」
そして俺とペンペン(ギンちゃん)はのんびりとソファーでくつろぎ中だ。
む、このお茶、雑巾の搾り汁の香りがする。
「おーいマハリクさん、お茶飲む? イチちゃんがいれてくれたやつ」
「あら。いただこうかし」
「きゃああ手が滑りましたぁあ!!!」
どんがらがっしゃーん。と俺の差し出したお茶を巻き込んで盛大にスッ転ぶイチちゃん。湯呑は割れた。お茶はぶちまけられイチちゃんがひっかぶった。
うーん、自業自得。
だめだぞイチちゃん、事務所に苦情を言いに来たように見えて、マハリクさんと俺達は普通にお友達なんだから。その証拠にフレンドリストに名前が載ってるんだぜ。
「……イチ。客人に無礼を働くのは許さないわ。弁えなさい」
「ひゃいっ! 申し訳ありません!」
キリッと言うマハリクさんに、なんか嬉しそうなイチちゃん。
なるほど、好感度が上がったんだろう。
「あ、ペンペンもそれ飲まない方が良いよ。ニオイからして雑巾の搾り汁入ってる」
「え。ニオイでわかるんすか?」
「伊達に研究所中のホコリ舐めとり回してないさ。ちょっとしたプロだぞ」
「いやなプロっすねぇ。まぁ私も鑑定で雑菌入りなのは分かってたっすけど」
掃除用具の雑巾も食べたからね、ミーティちゃん。
と、マハリクさんが鋭い視線をイチちゃんに向ける。
「イチ?」
「ち、ちがうんです社長、雑巾じゃないです! 靴下の搾り汁です! とある地域では最高級のおもてなしとされていましてッ!」
流石にそれは弁明が苦しいぞ!?
というかそもそもマハリクさんに飲ませようとしたときに邪魔したのが語るに落ちてる。
「ならあなたは私の靴下の搾り汁を飲めるというの?」
「えっ良いんですか!? ありがとうございます!!! それではさっそく社長のおみ足を拝借して」
「……い、いや、確認しただけだから飲めとは言っていないわ。そう、でも、私達の常識ではそれはイヤガラセに該当するから、ちゃんと謝罪しなさい」
「は、はい社長。申し訳ありませんでした、皆様」
『妹の靴下ならいけてた』
「謝罪は受け取っておこう」
ミーティちゃん、マハリクさんちの部下達も妹にする気? まぁ可愛いし妹っぽいけど。
ペコペコ頭を下げるイチちゃん。その後、口直しの新しいお茶を入れに出ていった。
「初めて選択肢ミスったと思ったけど、まさかこれでも好感度上がるとはね」
「選択肢でしたかぉ。……フィーバー入ってて何しても上がるんじゃないですかぉ?」
「そうかも。まだ上限になってないみたいだし助かるわ。好感度上限が2人目の解放条件かもしれないし」
ちなみに他の選択肢はどんなだったかというと、
1.無言でイチの手足を撃つ
2.『お茶よりも銃弾を御馳走してあげましょう』
3.『ならあなたは私の靴下の搾り汁を飲めるというの?』
だったらしい。
まぁそれだと3だよね。可愛い部下も客人も撃ちたくないし。2だと俺達と敵対ルートっぽい。
「選択肢3は毎回ネタ枠で実質2択だったんだけど、今回は助かったわ」
「ボクだったら進んで3ばかり選んでる所ですぉ」
「アルトはそういうの好きよね。……靴下の搾り汁飲む?」
「マハリクさんのなら普通にご褒美ですぉ?」
「やっぱり聞かなかったことにして頂戴。まったく、美少女が台無しだわ。いつもの事だけど」
やれやれ、とマハリクさんは肩をすくめた。
その後、行商人君にはマハリクさんからポーション代を出してもらって、改めてペンペンのポーションをお届けした。
当面はマハリクさんの商売には近づかないことをお勧めしておこう。
はやくマハリクさんの『2人目』が解放されて平和になるといいね、スリアドの町。




