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一年経って、クラスメイトと『英雄』は

今回は『英雄』視点です

「グルルル」


 一回り通常より大きい狼のような体に、深紅の毛皮を持つ魔物が一匹。それに対して二人のクラスメイトが立ち向かう。


「“大地よ” “眼前の愚物を……」


 一人が魔法の詠唱を開始する。


 その合間に、確か……濁川とかいうやつ。そいつがまず小刀を持って走り出した。


「やあ!」


 なんとも間抜けで弱さが見え隠れする掛け声を上げながら、魔物相手に切り掛かる。


 だがそれも呆気なく防がれ、逆に攻撃を受けそうになる始末。全く攻め込まず、ただ押されているだけ。


 バカじゃないのか。はっきり言ってこいつらは弱すぎる。一年以上訓練してこれとは……


 俺は何個か新たに『技能(スキル)』を手に入れた。このペースは異常らしい。さすが『英雄』、神に認められた職業を持つ者、とメイドが褒めちぎって我が事のように喜んでくれた。


 それに引き換えこいつらはあまりにも危なっかしい戦い方だ。こいつらが怪我をする前に『英雄』の俺が助けてやった方がいいだろう。


「『聖剣創造』!」


 俺の手に光ががやき雷を纏う剣が現れた。


「ふんっ」


 それを一振り。あっけなく魔物が切り裂かれた。


 それをみて畏敬の念を抱いたのか、クラスメイト二人が呆然とこちらを見つめる。


「アカギさん、今回はあちらのお二方の戦闘訓練という名目だったのですが……」


 おずおずと騎士団から来たという講師が俺に話しかけてきた。


「ああ、それなのに全く魔物を倒せる気配がしなかった。困ったもんだ」


「……は?」


 全く、せっかく魔物と戦えるようになったのに……これじゃどんどん俺だけ強くなっていく。


「ちょっと、せっかくの清水さんの新しい魔法『技能(スキル)』を使う機会だったのに、あなたが倒しちゃ意味がないですよ」


「なんだよ? あんなチンタラ詠唱してたら魔物に殺されるだけだろ?」


 なぜか鴻巣が口を出してくる。せっかく助けてやったのに文句を言われる筋合いはないというのに。


「だから、その時間を稼ぐために、『盗賊』の濁川さんが攻撃を受け流してたんでしょ?」


 何言ってんだか。攻撃を受け流す? そんなことする暇があったら倒せばいい。


「あのさ、魔物を倒せなかった言い訳に『攻撃を受け流して時間稼いでたんです』っていうのすごいだせえぞ。俺だったら瞬殺だ」


「……」


「……あの、赤城さん」


 今度は清水が話しかけてきた。さっきからなんなんだ。


「……ああ、大丈夫。お礼はいらないよ」


 色々考えた結果、紳士的に対応することにした。多分清水は自分が倒せなくて俺が手を出すことになって申し訳なく思っているんだろう。


 目の前の失礼極まりない鴻巣とは違って、清水は確か大人しいやつだったはずだ。


「いえ、あの……次から、できれば手を出さないでいただけるとありがたいです」


 何かを決意したように話しかけてきたと思ったら、手を出すな、だと?


「は? 魔物の討伐は遊びじゃないんだぞ? 今回わからなかったの? 馬鹿だねえ……あんなのんびりしていたら、俺みたいな反射神経がない限り魔物に殺されるよ?」


「え、詠唱には時間がかかります。だから今回、濁川君に頼んで時間を稼いでもらったんです! 決してのんびりしていたわけでは……」


「だからさあ……」


 全く、なんでみんなは理解しないんだろう。俺がこんなに丁寧に教えてあげてるのに。


「そもそも、時間を稼がないといけない時点で、邪魔なんだよ。ここは学校じゃねえんだよ。先生がいないと何もできないのか? その少ない脳みそくらい使えよ」


「え……」


 何か理解の及ばない恐ろしいものを見たような目になった。


 ようやく自分の今までの戦闘を振り返る気になったのか。ああ、バカでもわかるように説明するってこんなに疲れることなのか。


「赤城さん、何を言ってるんですか!? 『黄土魔導士』や『賢者』の魔法攻撃は絶対に時間がかかります。だからその間時間を稼ぐのが直接戦闘を得意とする人の役目だって、言われましたよね!?」


「え? お前、そんなの真に受けてたの?」


 俺とよくつるんでるやつが会話に入ってきた。こいつの『職業(ジョブ)』は『白狼騎士』。俺には及ばないが、戦いがうまい。


「なあ赤城、あの説明ってどういう意味だと思う?」


「直接戦闘が得意なやつは魔道士を守れとかいうやつでしょ? そんなのわかりきってるって!」


「だよな!」


 ああ、やっぱこいつは俺の言うことをわかってくれているという安心感がある。


「なんなんですか?」


 鴻巣が律儀に質問してくる。


「わかんねえの? あれはな、魔導士だか賢者だかは、戦えない無能だから、逃げましょうね、って言ってるんだよ」

 

「おいおい、もっとわかりやすく言ってあげないと。いい? 魔導士っていうのは、わざわざのんびりとダッセえ文言唱えてないといけない、可哀想なやつなんだよ」


「おお、いい例えだな!」


 やっぱ、戦いにのんびりのんびりと詠唱する魔導士はいらねえ。必要なのは『英雄』だ!


 それはこの一年で証明されている。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ英雄とか突然言われだしたガキなんてこんなんよな
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