一年後の模擬戦
タイトルの通り、作中では一年経っています
空に聳える幻世樹の周囲、その領域にて一体の霊獣と一人の中位魂を持つものが戦を繰り広げていた。
燃え盛る翼を持つその霊獣は、何百何千という蒼い炎の槍を相手に向け解き放つ。
これがそこらの魔物相手であったなら、瞬きをする間もなく霊獣に軍配が上がり、決着がついていただろう。
だが、今回はそうではない。
相手は丸一年間、霊獣に鍛えられた中位魂の所持者なのだ。
炎の槍はその周囲にたどり着く前に、アオイによって作り出された無数の黒の盾に防がれた。
『客人、成長したではないか』
どこか弟子の成長を喜ぶように、霊獣は対戦相手に語りかける。
「主さまが鍛えたせいですよ………“目覚めよ亡霊”」
アオイはどこか遠い目を一瞬した後、戦闘態勢に移った。そしてすぐさま詠唱を開始する。
対する霊獣は詠唱を完成させまいと猛攻をかける。
単純な炎の雨という物量攻撃、そして相手を絡め取るための光の糸、さらには『技能』によって生み出した半透明な謎の物体。
これら全てがアオイに襲いかかる。
アオイは一旦詠唱を止め、そして数十万規模の黒い破片を作る。
一気にそれらを回転させた後、全てを霊獣に向かって打ち出す。
だが、それでも霊獣には届かない。
もはや幻世樹の周囲の空間は地獄絵図と化していた。
生身とは思えぬ美しさと雪白の髪を持つ人物。そして青く燃え盛る不死鳥。これだけならば幻想的な風景であろう。
だが現実は酷だ。霊獣の放つあまりの熱量に空気は揺れ、応じるように黒く鋭い刃物が1秒に1000以上ばら撒かる。
双方が双方は簡単に死なないことを知るだけに、苛烈を極める模擬戦が繰り広げられていた。
「“目覚めよ” “間にその陰鬱な思念を込めよ”」
アオイは冷静に攻撃を避けつつ、上空に向かって急上昇する。
そして詠唱と回避行動、上空への飛翔全てを並行でこなしながら、その手にか黒い剣を生み出す。
「“名も無き剣こそ亡霊の宿” 」
生み出したのは単なる剣ではなく、巻き付くようにアオイの腕にまで触手のようなものを張り巡らしていた。
ある種寄生しているようにも見える不気味なその剣に、仕上げをかける。
「『空断ちの呪い』」
魔法の完成だ。
あらかじめ作り出した剣に、複雑な渦巻き模様の紋章が刻まれる。
アオイは徐にその金と紫の瞳を霊獣の方に向け、軽く剣を振る。
『なっ……』
それだけで、これまで一撃も通さなかった霊獣に傷が入った。その体から血が滴り落ちる。
『空断ちの呪い』は空間を操る魔法技能、『亡霊ノ風』に属する魔法の一つ。
効果は、任意の剣の強化。強化内容は、空間への干渉を可能にすること。
端的に述べるなら、剣で空間を真っ二つに割れる。そんな内容の魔法だ。
今までの霊獣の防御も、一瞬で繰り出される空間攻撃には対応できなかった。
『我に傷をつけたのは初めてではないか?』
既に傷を癒した霊獣がアオイに問いかける。
「……そうですね」
『1年前から比べるとよくここまで……我は客人の成長を祝うべきかな?』
「ぜひ」
そんな呑気にも思える会話をしつつ、両者攻撃を止めることはしない。むしろ時間に比例してエスカレートしていく。
ところどころで霊獣の炎が爆発し、轟音が静かなはずの森に響く。
そんな時間がしばらく続き、20秒を越そうかという時。
霊獣が動いた。
『光の焔』
パッと何かが光った。アオイもそこまでは理解した。
「え……」
次の瞬間、アオイが気が付いたのは、己の腕が消し飛んでいることだった。
空間を切るために作った剣が、地面に向かって落ちていってるのが目に映る。
「っ〜!」
襲いかかる凄まじい痛みに顔を顰めつつ、必死に続け様に放たれる攻撃を躱す。
「……『天骸』!」
なんとか攻撃の止まる一瞬をつき、新たに『技能』を発動させる。すると、みるみるうちに傷が治り、腕が元に戻った。
その『技能』は、アオイが行った肉体の改造によって得たもの。
完璧なバランスとあらゆる才能、さらに『高速思考』『心魔力』などと統合して、無限の魔力を持つ最高の肉体を作り上げる。そして肉体の保持、つまり高速での治療すら可能とする。
これら全てが『天骸』に詰まっている。これを持つ者は、世界でアオイただ一人。
『天骸』によって回復したアオイは、空間を割く剣を手元に呼び戻す。
「はあぁぁぁ……」
剣を構え、黒の破片を出現させ、そしてあらゆる神経を集中させ……霊獣と対峙する。




