9.素敵な結婚式と旦那様
9.素敵な結婚式と旦那様
辺境伯領のお城に到着してから数日後、正式な結婚式が行われることになった。
ただ、キース様は元々この結婚には、「契約結婚」としての意義しか見出していないし、私も興味深いのでいちおう結婚してしまおうという腹でしかない。
そんなわけで、キース様が「結婚は身内のみでひっそりと行う」と言った時も、
「ふふ、あなたにしては良いご提案ですわ」
と褒めて差し上げた。すると彼は意外そうな顔をした後、チッと悔しそうな舌打ちをして去ってゆかれた。
「ふふふ、一体どうしたというのかしらね、ドナ」
私は専属メイドのドナに微笑みながら言う。
一方のドナは納得いかないといった表情で、
「公爵家の令嬢が嫁いできたのに、ちゃんとした結婚式をしないなど、辱めにも等しい行為です! 絶対に抗議しなければ!」
と何やら怒っていた。
「まぁ、確かにしっかりと妻をお披露目しないなんて、妻へと侮辱であり、ひいてはその出身家であるリスキス公爵家への侮辱ともとられかねない行為ではあるわね」
「だったらっ……!」
「でも、そういう政治を全く無視するというのも、ありではあるのよ。特に、こんな辺境伯領の領主ともなれば、ね。傍若無人、野卑に振る舞うことが理屈の通じない相手として、逆に権威を持つことにもなる」
「キース様は、そ、そこまで考えての事なのですか?」
私はドナの驚きの表情に噴き出す。
「ふふふ、そんなわけないじゃない。彼は単なるおバカよ。でも、私も別に舞踏会で踊るのが好きなタイプではないわ。彼とは気が合うかもしれないわね。これは一つ、嬉しい誤算だったわね」
「お嬢様はそこまで分かっていて、それでもなお……。本当に常人では計り知れない考え方をされるのですね……」
「人を変わり者みたいに言わないで。これくらいのことは王家の人間だったら、息を吸うように出来なければ生きていけないわ。もちろん、私は王家の人間ではないから、つまらないたとえ話だけどもね」
前世を思い起こせば、魑魅魍魎が跋扈する王室はまさに地獄よりも更に生きづらい場所だった。
息を吸うタイミングすら図らなければならないのだから。
それに比べれば、キース様のなんと寛大で稚いことか。可愛さすら感じる。
そんな会話をしつつ、私たちは結婚式の準備を進めて行った。
と言っても、必要最低限のウェディングドレスや慎ましやかな宝石。そしてお化粧などをすれば、後は身内だけの結婚式だ。特に覚える段取りなどもない。
数日後、特にトラブルもなく、城の中にある教会を使って、式を上げることになった。
「キース様、お久しぶりね、どう、少しは美しくなったかしら? と言っても、まだ栄養が足りないわ。もう少ししたら、あなたが離したくなくなるような女になるから、楽しみにしておいてね」
結婚式当日まで全く会いにこなかった、今日から夫となるキース様にご挨拶をする。
キース様は相変わらずの銀髪にアイスブルーの美しい容貌に、今日のために仕立てられたタキシードを着用していた。
「うふふ、とても似合っていらっしゃるわ。もっとたくさんの方に見て頂いたら良かったのに」
「ふん、時間の無駄だ」
「ええ、そうですね」
私もすぐに同意する。先ほどの言葉は本意ではない。ただのおしゃべりであり、ヴァージンロードを歩くまでの暇つぶしだ。
しかし、キース様は嘆息をされて、
「お前は何なんだ? 変わっているのを通り越して、理解不能だ」
「こんな辺境の地でお金をかけて権威を他の貴族たちに見せつけて何の意味もないでしょう? だから時間の無駄だと言っただけです。違うのですか?」
「その通りだ。だからこそ調子が狂う。今からでも婚約破棄をすべきか迷っているが?」
挑発するようにキース様は申される。
私は思わずニコリとしてしまい、
「それは剛毅ですね! そのような勇気があるようでしたら、ぜひとも見せて下さいませ。私の行く末などどうとでも自分で致します。だから、さあ、さあ!」
思わず興奮してしまった。
「冗談だ、それくらい分かれ、変態女」
「なーんだ、がっかりですわ。でも、ちょっとした感興を催してくださったのですし、悪くなかったですわよ」
「ふん。そら、そろそろ呼ばれるぞ」
その声と同時に、私たちの名前が呼ばれて、教会のヴァージンロードを二人で歩く。
牧師の前まで行き、決められた宣誓をした。
「病める時も健やかなるときもお互いを支え合う。うふふ、当然ですわよね。病んでる時こそ、一番面白いのですから」
「お前が病んでる時を見たいもんだ。ふん」
「ええと、では互いに誓いのキスを……」
「ちっ、仕方ない」
「あら、そんなことを言うものではありませんわ」
「喜べとでもいうのか。お前みたいな女と口づけをかわすのを」
「あら、当然でしょう?」
私は優し気に微笑みながら、
「唇に今日は毒も塗っていませんから、安心して唇を奪える機会などそうありませんわ。命が永らえられることに喜びは感じませんか?」
「どこまでも減らず口を!」
別に全てブラフというわけでもなかったのですけどね。
まぁ、でもこうして私の唇は強引にキース様に奪われたのでした。
乱暴な、一瞬のものでしたが、とりあえず私は彼を夫とし、妻の身になったのでした。
「素敵な結婚式でしたわね」
「ふん。そうだな、これでお前としばらく会わなくていいと思うとせいせいするよ」
彼はそう言うと、愛する妻を置いてどこかへ行ってしまわれた。
「あら、私はどうしたらいいの?」
彼の背中に聞く。すると、
「知るか、好きにしてればいいだろう、ふん」
投げやりなセリフが返ってきた。
私は唇を思わず歪めて微笑む。
「では旦那様のおっしゃられる通りに致しますね」
彼には聞こえなかったかもしれないけれど、それは私の知る所ではない。何をしても良いと辺境伯様に言われたのだから、その指示をまっとうするだけだ。
ふふ。
ふふふふふ。
私は広大な辺境伯領を自室に戻って眺めながら、うっとりと微笑んだのだった。
広大な遊び場が広がっているように見えたからだ。
「面白かった!」
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「アビゲイルはこの後一体どうなるのっ……!?」
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