ほんとのおねがい
華やかに飾られた店内にはまるっきり似合わない静寂が満ちる。タン、タンと窓を叩く吹雪の音だけが、やけに遠くに感じられた。
「それは……」
口を開く。戸惑いが滲んだ、掠れた低い声だった。こんなんじゃだめだ。せっかく明るい雰囲気だったのに、むぎに心配させてしまう。
「サ、サンタさんは、よい子が寝ている間に来るんだよ。だから、ほらっ、もう帰ろうか。たくさんプレゼントも貰ったし」
「智宏さん。」
背後からバーテンダーの声が響く。確か、健さんだったか。以前会った時の柔和な雰囲気とは違う、厳しさのこもった声だ。声の方へ振り向くと、心の奥まで見抜かれるような、真っ直ぐな眼差しと目が合った。
カウンターの奥へと戻るゆかさんに代わり、健さんがむぎの前でしゃがんで視線を合わせる。
「むぎちゃん、ほんとのサンタさんには何をお願いしたの?」
「むぎは……」
分かってる。むぎが欲しいのは、死んだ妻がいたあの頃の家庭だ。けど、それは叶わない。それに、伝えるのだってまだ早い。もう会えないと分かったら、きっとこの子はひどく傷つくだろうから。だから僕はこの人たちに頼って……。
「むぎは、ママがいたときのパパがいい。」
「えっ……。」
「パパ、ママがいなくなってから、ずっとつらいかおしてたの。けど、パパはサンタさんこないから。むぎのサンタさんにおねがいしたの。げんきなパパにしてくださいって。」
むぎは健さんから視線を外すと、僕の胸をギュッと掴み、顔を埋めた。
「パパ、げんきになって……。」
ああ、そうだったのか。この子はとっくに分かってたんだ。妻はもう帰って来ないって。なのに僕は……。
「むぎ、ありがとう……ごめん、ありがとう……。」
むぎを包み込むように抱きしめる。いくらか大きくなったと思った温もりは、胸の中に収まるほど小さく震えていて、涙が溢れて止まらなかった。




