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ほっとカクテル―『Bar at Takai』にようこそ―  作者: 澄原千景
3杯目~クリスマスとトムアンドジェリー~
33/35

ほんとのおねがい

 華やかに飾られた店内にはまるっきり似合わない静寂が満ちる。タン、タンと窓を叩く吹雪の音だけが、やけに遠くに感じられた。

「それは……」

 口を開く。戸惑いが滲んだ、掠れた低い声だった。こんなんじゃだめだ。せっかく明るい雰囲気だったのに、むぎに心配させてしまう。

「サ、サンタさんは、よい子が寝ている間に来るんだよ。だから、ほらっ、もう帰ろうか。たくさんプレゼントも貰ったし」

「智宏さん。」

 背後からバーテンダーの声が響く。確か、健さんだったか。以前会った時の柔和な雰囲気とは違う、厳しさのこもった声だ。声の方へ振り向くと、心の奥まで見抜かれるような、真っ直ぐな眼差しと目が合った。

 カウンターの奥へと戻るゆかさんに代わり、健さんがむぎの前でしゃがんで視線を合わせる。

「むぎちゃん、ほんとのサンタさんには何をお願いしたの?」

「むぎは……」

 分かってる。むぎが欲しいのは、死んだ妻がいたあの頃の家庭だ。けど、それは叶わない。それに、伝えるのだってまだ早い。もう会えないと分かったら、きっとこの子はひどく傷つくだろうから。だから僕はこの人たちに頼って……。

「むぎは、ママがいたときのパパがいい。」

「えっ……。」

「パパ、ママがいなくなってから、ずっとつらいかおしてたの。けど、パパはサンタさんこないから。むぎのサンタさんにおねがいしたの。げんきなパパにしてくださいって。」

 むぎは健さんから視線を外すと、僕の胸をギュッと掴み、顔を埋めた。

「パパ、げんきになって……。」

 ああ、そうだったのか。この子はとっくに分かってたんだ。妻はもう帰って来ないって。なのに僕は……。

「むぎ、ありがとう……ごめん、ありがとう……。」

 むぎを包み込むように抱きしめる。いくらか大きくなったと思った温もりは、胸の中に収まるほど小さく震えていて、涙が溢れて止まらなかった。

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