↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/74

秋川千鶴の場合36

 ラッコはそこまで話すと一呼吸置いた。そして続ける。

「ともかくそのときだったかな? 僕が人間の言葉を得たのは。まぁ、得たのは言葉だけじゃない。あの光の人間の言ったとおり善悪の区別がある程度は分かるようになった」

「にわかに信じられないわね……」

 私は率直でどうしようもない感想を口にした。そもそもラッコが話している時点で信じられないのだけれど。

「だろうね。僕自身信じられないよ。……ともかく、僕はその果物を受け取ってからこうなってしまったんだ。良くも悪くもバケモノなんだと思う」

 バケモノ。不思議とその言葉には卑下とか自虐だとかそんな響きはなかった。事実を言葉にしただけという感じ。自身を言い表す言葉を選んだだけ。そんな印象だ。

「気味の悪い生き物だろ? 人外が人語を話すのは人間からしたら恐怖でしかないらしいからね……。まぁ、中にはあまり気にせず接してくれる人もいるけどね」

「そうね。控えめに言っておかしいとは思うわ」

「ふぁああ、そうだよね。そうだよね。その反応が至極真っ当だと僕も思うよ」

 私の最高に空気を読まない発言を聞いてラッコは腹を抱えて笑った。そして眠っている水原さんの髪を優しく撫でる。

「この子はね。僕が出会った人間の中でも特別なんだ。素直だし頑張り屋だし……。そして何より最初から逃げたり泣いたりしないでくれた。こういう子は希だよ。今まで僕を見て逃げ出さなかった人間は四人……。いや、君を入れて五人だけれど、やっぱりこの子が一番だね。……まぁ、雪乃が小さい頃から見てるから見てるから特にそう思うんだけどね」

 ラッコはそこまで話すと自身の頬をわしわしと何回も掻いた。仕草から察するに毛繕いなのだろう。

 それにしても饒舌なラッコだ。そもそも人語を話すラッコに会ったことがないけれど、並の中年男性よりずっとおしゃべりだと思う。

「苦労したのね……」

 一通り彼の話を聞き終わると自然とそんな言葉が口から出た。推し量ることは出来ないけれどラッコが東京で生きていくのは想像以上に大変なことだと思う。食料にしたってその他の生命活動にしたって人の倍以上は苦労していると思う。

「まぁ……。それなりにね。でも楽しいよ。こうして都民をしてるのも」

 ラッコはそう言うと照れ笑いを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。