秋川千鶴の場合10
紅茶を口に含んだ。熱が喉を通り過ぎると一気に身体中が温かくなった。代謝が良くなっている。そう感じるほどだ。
こんな風に紅茶を堪能していると気持ちが軽くなった。男尊女卑やあらゆる理不尽も冷静に考えられる気がする。きっと彼らだって悪気があるわけではないのだ。おそらくは自分と違う人間に対する接し方を知らないだけ……。そう思う。きっと本当はみんな良い方向へ変われるのだ。ただ変わり方を知らないだけで、みんなが同じようなチャンス持っている。
チャンスを掴むか掴まないか。きっとそれだけだ。だってそうでないなら生まれた段階で全て定まっているみたいじゃないか。と私は思う――。
時刻は二一時三〇分。私の好きな配信が始まった。人気占い師ヒロの配信だ。
『はい、今日も始まりました。ヒロのオラクルナイトでっす』
そんな決まり文句で配信が始まった。彼の素性は謎に包まれているけれど、声の感じから察するに私より年下だとは思う。イメージとしては草食系の優男。そんな感じだ。
『さーて、じゃあ今日は先着一〇名かな? 希望者はコメントお願いします』
ヒロはそう言うとリスナーの占い受付を始めた。この配信の流れはだいたいこうなのだ。
それから彼はリズムを刻むようにリスナーの相談内容に答えていった。それはまるでクラシックのコンサートのようだ。カードのシャッフル音と彼の独特な語り口が混ざり合って一つの長い音楽を聴いているような気分になる。
きっと彼には占いの才能があるのだろう。他の男連中とは違う。彼は痛みを理解してくれる占い師だ。
痛みを理解しようとしない男は最悪だと思う。連中は不快感を与えているという自覚さえないのだ。今朝の広報部の一件もそうだけれどそういう男を許してはならない。もし許したらまた私たちの価値観は踏みにじられる。男尊女卑はそれぐらい根深いのだ。根深すぎて男尊女卑がマジョリティーであると勘違いされるほどだと思う。
そうこうしているうちに今日の占い抽選も最後になった。現在の同時視聴者数は三〇〇〇人前後。
『えーと、じゃあ大トリは……おチヅさんね。相談内容を書いてください』
ヒロはまるで水でも口に含むようなほどあっさりと私の名前を読み上げた。一瞬『おチヅ』が私だと分からなくなる。
それから私は読み上げられたアカウント名とコメントの順番を確認した。どうやら間違いない。『おチヅ』は私で間違いないようだ。
正直に言おう。まさか選ばれるなんて思わなかった。だから嬉しいというより戸惑いの方が勝ってしまう。まぁいいだろう。今日は占って欲しいことがある。
私は深呼吸するとキーボードに相談内容を書き込んだ。きっと彼は良いアドバイスをくれる。そう信じて――。




