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錯綜する戦い 12

エーゼルに作戦など無い。


正確に言えば出尽くしたのでやる事は変わらないだが同じだ。


とにかく何とかしてレイシィの足を止めて、無理矢理でも隙を作り出す。


それだけだ。


レイシィが魔術を使えないのであればエーゼルは使えば良いと思うかもだが、エーゼルはレイシィが魔術を使えない状態を維持するのに魔力制御の処理的には手いっぱいの状態だ。


それに純然たる術士であるレイシィはエーゼルが1つ魔術を組む間に3~4つは同規模の魔術を発動できる。


魔術戦では絶望的というのは比喩でも何でもなく純然たる事実なのだ。


それに比べれば格闘戦は技量差があれど相当マシな勝率となるのだ。


身体能力的に逆転が有り得るのだから。


ダッ!


地面を強く蹴ってエーゼルが駆け出す。


レイシィの目前までそのまま迫るがナイフを振るうのではなく肩を前に出して全力で突っ込んでいく。


下手にナイフを振るうより避けにくく、相手の体勢を崩しやすい攻撃……


ショルダータックルを選択していた。


細身とはいえ無理矢理体を成長させたエーゼルはレイシィよりも上背が高く体重がある。


押し込める可能性は十分にある攻撃だ。


「戦技『旋連脚』」


レイシィもまともにぶつかっては力負けするのは理解しているので当然対応する。


姿勢を低くしたレイシィは素早く回転しながら片足をまっすぐ伸ばす。


レイシィの伸ばした足は『シュパン!』と音を立てて、エーゼルの踏み出した足の下を潜り抜けて奥の軸足を払う。


軸足を横から払われたエーゼルの体が自身の全身の勢いで前のめりに倒れる。


だが、レイシィの攻撃は終わっていない。


その場で回転の勢いをそのままに伸ばす足を入れ替えながら上体を地面に向けて倒すことで踵から回る足が少しだけ地面から浮く。


その少しだけ浮いた足が倒れるエーゼルの顔面へと向かう。


「ぐッ……!」


勢いの乗った踵がエーゼルの顔面を捕える寸前、咄嗟にエーゼルは腕を上げて顎への直撃を回避した。


ただ両足が浮いている状態で受けたので吹き飛ばされてしまう。


戦技『旋連脚』……


中国武術で言う前掃腿と後掃腿のコンビネーション攻撃だ。


2段目の後掃腿で足を浮かせたのはレイシィのアレンジではあるが、その少しの高さが1段目の足払いで倒れる中にある相手の顔面を捕える適確な高さとなるのだから結構凶悪である。


ふっ飛ばされたエーゼルはその勢いを利用して床を転がってから跳ねるようにサッと立ち上がる。


「やるね、エーゼル。今ので意識を刈り取るつもりだったんだけど」


「我とて意地がある。そう簡単にはやられんさ」


(今のは危なかった)


2段目の下段回し蹴りが顎を捉えていたら確実に意識を刈り取られていただろう。


だが、咄嗟に差し込んだ腕で受けた事でエーゼルは何とかそれを回避できた訳だ。


だが、状況が良くなった訳では無い。


多少とはいえダメージを受けた分悪くなっている。


(だがどうする?強引に攻めた所で今の様に手痛い反撃に遭うだけだ。考えろ……)


エーゼルは待ち構えるレイシィを見るが隙など無い。


いや、あるのかもしれないがエーゼルには好きと言えるようなものを見いだせないというのが正確な所だった。


(待て、何故レイシィは攻めて来ない?レイシィの技量であればそれをやれないということは無い筈だ。ならば何故?)


エーゼルは先程までのレイシィとの近接戦を思い返す。


(そういえば、レイシィの攻撃は全てカウンターであった。そして、何故我はそのカウンターの餌食になった?攻撃後若しくは攻撃中の隙を突かれたからだ)


そこまで行くと、エーゼルが答えに辿り着くのはスグだった。


(そうか、両手の無いレイシィでは蹴り技はリスクを伴うからだ。下手に攻めに行って回避されれば致命的な隙を曝す事になる。だから、カウンターに徹している)


蹴り技全般に言える真理だ。


蹴り技というのは威力とリーチに優れる反面、攻撃中は足が止まる……


移動が出来なくなるというデメリットがある。


更に言えば、片足若しくは両足が地面に着いていない状態が発生するので攻撃中のバランスは悪い。


両手が存在すればそのデメリットをある程度カバーする事は可能だ。


だが、レイシィにはその両手が無い。


攻撃に失敗して致命的な隙を曝すのを嫌いカウンターに徹しているのだという結論に至る。


レイシィ本人も言っていたように『ゴミ耐久』なのだ。


エーゼルの身体能力であれ一発逆転は十分に有り得る。


(であれば、我のやる事は一つだ。どうにかしてレイシィのカウンターを躱し、その隙を突く。これしかあるまい)


言うのは簡単だが、それがどれ程難しいかなどエーゼルも理解している。


それでもやるしかないのだと覚悟を決めていた。


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