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錯綜する戦い 10

エーゼルの動きはより素早さと鋭さを増していた。


だが、それすらもレイシィは悠然と躱しつつカウンターで蹴りをエーゼルの腹へと叩き込む。


鈍い痛みと共にレイシィのしなやかな足が突き込まれる。


「ぐッ……!」


先程蹴られた場所と全く同じ個所を蹴られてエーゼルの表情が苦痛に歪む。


(今だ。足を掴む!)


痛みをこらえながらナイフを握っていない左腕を動かして、レイシィの足首を掴みに掛かる。


「戦技『裂衝脚』」


ドンッ!!


太鼓を叩いたような音と共にエーゼルの腹部に衝撃。


その衝撃によるダメージは不思議な事に殆ど無かった。


だが、エーゼルは後方に大きく5m程吹き飛ばされてしまう。


『裂衝脚』は『拳士』などの格闘系の職業で習得できる基本的な戦技だ。


追加ダメージは殆ど無いが相手を大きく吹き飛ばすノックバック効果がある。


「私の足を掴むつもりだったかな?甘いね、エーゼル。ちゃんとした術士程近接戦闘の備えはしているものだよ」


一度習得したスキルや戦技は職業を切り替えても使えるので、自身が欲しい能力を得たら職業を切り替えるというのは別段珍しい事ではない。


生命力(HP)や物理防御力(DFE)に関わるステータス補正は格闘系の方が上なのだが、元のステータスが低いとそれは誤差の範囲に収まってしまうので、レイシィは敏捷(AGI)に大きな補正の掛かる斥候系の職業をサブ職にしているというだけだ。


この辺りの職業事情はティアリエも全く同じだったりする。


「考える事は皆同じという事か」


レイシィに両手が無いのは一目で分かる。


故にエーゼルと同じ事をした者が幾人も居たのだろうと察せられた。


「そうなるね。それに術士にとって魔術を使えない状態ってのはそう珍しい事でも無いからね。それで何も出来ないようなら単独(ソロ)の術士で冒険者なんてやっていけない」


魔力の放出を封じられている状態だったり、誘爆の危険性がある空間だったりと状況は様々ではあるが、事実として術士が魔術を使えない状態というのは少なくなかったりする。


エーゼル達の現状で言えば、地下空間では酸素を奪い尽くす火属性魔術は大規模では使えないし、崩落の恐れがあるので大きな衝撃をもたらす魔術も厳禁だ。


便利な反面使い道を誤ると危険なのが魔術というものだったりする。


回避と近接戦闘技能はレイシィに両手が存在しない分、より必死に磨き抜いた生存の為の技術であった。


ナイフの扱いの基礎は押さえていても対人戦闘もだが、近接戦闘の経験の少ないエーゼルとは積み重ねて来た経験に大きな開きがある。


レイシィは過酷な環境で生き抜いて来た歴戦の術士なのだ。


レイシィの道程は不幸の連続だった。


純血のエルフ達に里を追い出されてからは特に。


森の中で魔物に襲われて、左手を失う重傷を負いつつも何とか生存。


森を出た先の山で行き倒れ、山賊に拾われて数ヶ月の間、性処理の道具として扱われる。


その後、山賊を賞金と奴隷の補充、二重の意味で狩りに来たカルディア傭兵国の騎士達によって山賊からは救出されたが、そのまま奴隷として売られた。


無論、非処女という事で価値が下がらないという事もあり移送中は騎士達からも輪姦された。


レイシィを購入したのは魔術の実験対象を求める魔術士だった。


その魔術士はレイシィに魔術を教え、自身では行いたくない危険な魔術実験の数々をレイシィに行わせて検証を行っていた。


魔術士の命令によって行った魔術の暴走実験。


それによりその魔術士の研究所は吹き飛び、主であった魔術士は死んだ。


ただし、レイシィも無事では済まなかった。


右腕の全てを焼失し、顔の半分を覆う大きな火傷を負った。


主が死んで奴隷という身分から解放されて自由の身となったレイシィは生き抜く為に冒険者となった。


奴隷契約には『意図的に主を傷付ける行為を禁止する』という束縛があるが、主の命令の結果、意図せず傷付けた場合には反応しない。


それ故に自由になれたのだ。


これまでの経験から完全な人間不信となっていたレイシィがソロの冒険者の道を選ぶのは当然の帰結だった。


両手が無いという圧倒的な逆境の中、冒険者として様々な裏切りや不幸を乗り越えてレイシィはこの場に立っている。


弱い訳が無いのだ。


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