ティアリエとミラフィア 2
ティアリエが真っ直ぐに里の方へと向かって飛んでいると手に何か液体がポタポタと滴り落ちて来た感触がした。
何事かと思いティアリエがミラフィアの顔を見るとその両目から涙が溢れているのが見えた。
「ミラフィア君、もしかして目にゴミが入っちゃったりした!?」
飛行によって重圧(G)が掛からない程度に抑えているとは言ってもそれなりの速さで飛んでいる。
目に虫やゴミが入った時の痛みは半端じゃないからそうなったら涙が止まらなくなるのだ。
『しまった!飛ぶ前にゴーグルは着けておくべきだった!』とティアリエが後悔していると……
「違うの。聖樹が放ってるあの魔力……あれ全部エーゼルの命だ」
ティアリエに抱きかかえられているミラフィアはそう言った。
「な……!?」
それを聞いてティアリエは思わず閉口してしまった。
聖樹を中心に放たれている濃密な魔力。
それは里だけでなく周囲の森まで覆っている。
それだけの量を魔力量に優れるエルフとはいえ1人では到底捻り出せる量では無い。
『エーゼルの命』とミラフィアは言った。
それを聞いてティアリエが思い出したのは聖樹の特性である『命を糧に成長する』という点だ。
「まさか、エーゼル君は自分の寿命を聖樹に捧げて魔力に変えたって事なのかい?」
ティアリエの腕の中でミラフィアがコクリと頷く。
(あれだけ膨大な量の魔力……どれだけの時間を捧げたというんだい!? 1人であれだけの量を賄うなら100年や200年程度では済まない筈だ。1000年……いや、数千年単位で捧げてるかも)
ティアリエの推察は正しい。
そして、それは寿命がとんでもなく長いハイエルフであれ無茶だという事だけは分かる。
それが分かってしまうミラフィアが見れば、涙が止まらなくなってしまうのも頷ける話だった。
「精霊さん達泣いてる。里の人達もたくさん死んでる」
(こんな離れた位置からそれが分かるなんてミラフィア君は魔力の感受性が高いなんてもんじゃないね。彼女は所謂『神子』としての資質が高いみたいだ)
『神子』とは精霊などの肉体を有さない精神体と意思を交わす事の出来る者の事だ。
エルフは出自からして精霊に近い種族なので全般的に程度の差はあれど『神子』としての資質を有する種族だ。
その中でも突出して高い才能をミラフィアが有している事は今ので明らかになった。
(これは中々に厄介な才能を持って生まれたものだね。ミラフィア君の為にもエーゼル君を死なせてはいけないね)
『神子』としての資質が高いというのは決して良い事ばかりでは無い。
精霊もそうだが、肉体を有さない精神体と言うのは行動原理が人とは根本から異なる存在だ。
倫理観といったものが存在していない場合だって多い。
そんな存在と交信できる『神子』というものはそんな存在の影響を受けて精神的なバランスを崩してしまう事が多々あるのだ。
そうならない為にもしっかりと支えられる信頼のおける者が傍に居る必要がある。
ミラフィアにとっての大きな支えは間違いなくエーゼルとゴドリックだ。
どちらかを失うだけでもミラフィアは大いに傷付く事になるのは明白であった。
「ミラフィア君、私達でエーゼル君を助けるよ。彼はまだ戦っている筈だ。彼を独りにしてはいけない」
「うん!」
ティアリエの強い意思の篭った言葉に、ミラフィアは涙を袖で拭いながら力強く答えた。
その瞳には強い意思の光が宿っていた。
(本当に強い娘だ。この瞳を悲しみに歪ませるような事にはなって欲しくない。だからこそ私は……いや、私達は心の底から協力したいと思うんだろうね)
ミラフィアの瞳を見詰めて、ティアリエはふとそんな事を思った。
「先ずは里の火を消し止めるよ!放っとくとゴドリック君達が蒸し焼きになっちゃうからね!」
「分かった!」
ティアリエはギュッとミラフィアの体を抱き、少しだけ飛ぶ速度を上げる。
ミラフィア、エーゼル、ゴドリックの3人を救うための行動を開始した。




