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それぞれの戦い(ティアリエ) 3

「さて、いい加減出てきたらどうだい?」


両腕を失って騒ぐ騎士ではなく、その奥を見据えてティアリエは告げる。


ここに辿り着く前から他の3人の動向も掴んでいた。


というか、その存在を捕捉してから一度も探知を切っていないので当然である。


少し離れた位置の繁みに潜んでミラフィア達の様子を窺っていた事も勿論知っている。


「ほう、気付かれていたか」


(とっくの昔にね)


ティアリエはそう思いはしたがそれを口に出すようなことはしなかった。


「その男の行動を止めてくれて感謝する。危うく価値が下がりかねない所であった」


(良く言うよ。本当に取り返しのつかないレベルに陥らない限りはそのつもりもなかった癖に)


魔力探知が優れていると大体の感情まで読み取る事が出来る。


出て来た3人の騎士達がミラフィアに対して鬱屈した感情を抱えていることぐらいは分かる。


多少であればあの騎士の好き勝手にやらせるつもりだった筈だ。


余裕を見せて語る騎士の後ろに控えていた2人が矢を放ち、両腕を失った騎士の頭と胸を射抜くのを見た。


敵とはいえ、哀れに感じてしまう。


ティアリエとしてはカルディア傭兵国の在り方の歪さはよく知っている所なので疑問には思わない。


だが、それでも嫌な気分にはさせられるものであった。


「報復も多少なら構わないのだが、その男は嗜虐趣味が過ぎてね。いつもやり過ぎてしまうから、わざと泳がせておいて目標補足を確認次第、処分するつもりだったので楽が出来て非常に助かる。分け前も増えて万万歳だ」


「ひッ……!」


それを見たミラフィアが息を呑む姿が見えた。


「さて、ここからが本題なのだがね。大人しく投降してくれないかな?翠翼種の少女よ」


「それは無理な相談だね。あと一応言っておくけど私は『少女』って呼ばれるような歳じゃないからね」


そう呼ばれる年齢の1.5~2倍くらいだったりする。


ティアリエとしては年齢より若く見られるのは嬉しくない訳では無いが、若く見られ過ぎるのもどうかと思ってしまう微妙な心境だったりする。


「ほう?失礼だが、幾つなのかね?」


「本当に失礼だね。女性に年齢の事は訊ねないのがマナーってものだよ」


「それは理解しているが商品価値に繋がる部分なのでね」


「本当、君達は嫌になるよ。人を人として見ようとしないからね」


人をモノとして扱うのが普通となっている国なのだ。


この騎士の価値観が彼らの国では普通なのだ。


高く売れるのであれば、親や子供、兄弟、親友さえも容赦なく売りとばす国でもある。


「まあ、その辺りは後で詳しく聞くとしよう。今となっては絶滅寸前となった翠翼種はハイエルフなどよりも余程貴重な存在なのでね。こちらとしてもどれだけの値が付くか予想できない程だ。悪いが逃がすつもりはないとだけ言っておこう。身体能力に乏しい翠翼種では子供とはいえ、人1人抱えて逃げる事など出来ないだろうがね」


「アハハハッ!」


騎士の宣言を耳にしてティアリエは笑った。


「何がおかしいのかね?それとも気が狂ったか?」


「『逃がすつもりはない』か。実はそれ私のセリフなんだよね」


「何?」


騎士達全員が眉を顰めた瞬間、あることに気付く。


彼らはゆっくりと距離を詰めるべくにじり寄ろうとしたのだが、それが出来ない事に。


足が今の位置から先に全く進まない。


「まさか!」


今になって自分達がどういう状況に置かれているのかようやく気付き始めたのであろう。


騎士達は前後左右に手を伸ばす。


だが、自身を中心としたある一定の距離でそれが阻まれるという結果が待っていた。


3人全員が見えない壁に阻まれていた。


ティアリエが足の裏側から地面を通して密かに張った結界に閉じ込められたからだ。


ティアリエが騎士達との会話に応じていたのはその為の時間稼ぎでしかなかった。


「油断大敵だよ。それじゃあ、さよならだ」


騎士達が状況を理解した所でティアリエは騎士達を囲う結界を張った段階で既に仕込んでいた魔術を発動させる。


結界内部の空気を抜きつつ急速冷却。


外部の空間が負圧となったことで、体外と体内の圧力差によって体内に存在する空気が膨張を始め、その状態で瞬間冷凍される。


騎士達が結界内の空間ごと凍結させられて一瞬にして氷像と化す。


そして、ティアリエが結界を解除した瞬間、全方位から空気が一気に流れ込む衝撃で『パァンッ!』と音を立てて、先程までは騎士だった者達は微細な氷の粉末となってキラキラと輝きながら粉雪の如く舞い落ちるという結果になった。


内部に気泡を多く抱えた状態で瞬間的に凍結させられたので肉体そのものが脆化していた故に文字通り粉砕されてしまった訳だ。


形が残ったのは剣や鎧といった金属で作られた物だけ。


残った武具と装飾品、彼らの所持していた貨幣だけが重力に引かれて地面に落ちて、墓標の如く佇むのであった。


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