それぞれの戦い(ティアリエ) 2
真空砲は砲身の長さが長くなる程に加速する特性がある。
砲身から射出されるまでは真空状態なので空気抵抗の影響が限りなく小さいからだ。
空気抵抗による終端速度が存在しない状態はとんでもない加速を生み出す。
一瞬で音を置き去りにする速度に至り、音の4倍以上の速度で魔術により形成された疑似真空管を飛び出して射出される。
真空空間から飛び出して、超高速で空気と隔離障壁が接触することで発生する空気の圧縮と粘性摩擦によって衝撃と共に隔離障壁表面が発熱する。
隔離障壁は5枚の障壁の間に3つの真空層を形成した断熱構造となっているので、内部に居るティアリエに熱が伝わる事は無い。
疑似真空管の形成、複層型の隔離障壁の展開、慣性の無効化。
これらのどれか1つであっても並の魔術士では成しえない高等魔術なのだが、ティアリエはそれら全てを平然と同時に使う。
そんな中でもティアリエは魔力探知を行使して、ミラフィアの状況の察知を切らせていなかったし、万が一の場合に備えた緊急用術式を構築できる程度には余力を残していた。
一般的な術士からしてみれば『有り得ない』と発狂するレベルである。
空気抵抗によって速度が激減していくのを感じる最中、ミラフィアの動きが止まり、最初に動いた騎士が追い付いてしまったのを察知した。
「減速障壁展開!」
自身を起点とする相対位置を固定した半球状の障壁を後方に展開し、その面積を広げていく。
自身を包む隔離障壁よりも大きくなった段階で減速が更に進む。
障壁を使ったパラシュートだ。
それにより自身が飛べる速度になると同時に空気抵抗を低減させる結界のみを纏い、隔離障壁等の超高速移動術式用の防御術式を全て解除。
通常飛行へと切り替える。
その段階で千里眼と透視のスキルを併用して見えた光景は悪辣たる表情を浮かべた騎士がミラフィアを掴み上げている姿であった。
その騎士はミラフィアに向けて魔術で生み出した火を実に楽しそうに近付けているではないか。
それを見た瞬間にカチリとティアリエの中で何かのスイッチが入った。
「熱量反転術式起動、効果範囲座標指定」
ティアリエは魔力による発熱を強引に反転させる魔術を騎士の手の前で燃え盛る火に向けて飛ばす。
相手が自分よりも魔力が低い且つ魔力制御に劣る場合でなければ全く使えない魔術ではあるが、その騎士にに対しては間違いなく使えると確信していた。
ティアリエの魔力が騎士の制御していた術式を乗っ取り、火による発熱が反転して冷却へと切り替わる。
それによって一瞬で騎士の両腕は瞬間凍結されて脆化した。
ミラフィアに凍結の被害が及ばないようにミラフィアを掴み上げている腕に関しては手首までを効果範囲に指定してある。
凍り付いた腕がミラフィアの重さに耐えきれずにバキリと割れる。
腕と共にミラフィアは落下を始めるが、その間には目前まで接近していたティアリエが横合いから掻っ攫っていた。
ミラフィアを落とさないようにしっかりと抱きしめてはいたが、圧迫感を感じない程度にはちゃんと力加減していた。
そのついでに地面に落下する腕に対して圧縮空気を叩き付ける魔術を発動させて、腕を粉砕する。
切断ならある程度効き目の良いポーションがあれば再接合もできるが、粉々に砕いてしまえば部位欠損を完治できるポーションは貴重故に値段は青天井に跳ね上がるので、末端であろうこの騎士では購入は非常に難しく、それだけで復帰不可になるだろうと見越していたからだ。
仮に部位欠損を完治させるだけのポーションを持っていたとしても使わせて数を減らせればそれはそれで良い。
瞬間凍結によって痛覚も鈍っていたようで痛みを感じなかったのであろう。
騎士は上腕の辺りから先が無くなった腕を見て、唖然としていた。
「汚いその手でこの娘に触れないで貰えるかな?」
あの状態では騎士には聞こえていないだろうと分かっていても言わずにはいられなかった。
ティアリエは自分でも驚くぐらいに冷たい声が出てしまったと感じていた。
(マズイ!これはミラフィア君を恐がらせてしまうのでは!?)
思いっきり不安になってしまったのだが、それは懸念で終わった。
ティアリエの顔を見上げたミラフィアが安堵していたからだ。
それを見てホッとする思いだった。
ミラフィアに大きな傷は無いものの小さい傷が手足に沢山できていて、あちこちに血が滲んでいる。
それを見て、ミラフィアを追い回したであろう存在全てに対して怒りの感情が湧き上がるが、それよりも恐怖と戦っていた彼女を称えたい気持ちの方が強かった。
「やあ、ミラフィア君。よく頑張ったね。私が来たからにはもう大丈夫だよ」
ティアリエはその小さな体を少しだけ強く抱き締める。
「腕がッ……!?俺の腕がァァァァッッ!!?」
ティアリエ達がそうしている間に自身の腕が無いという事を認識した騎士は恐怖と混乱で体を大きく動かしてしまい、そのモーメントでもう片方の腕もバキリと折れてしまった。
勿論、ティアリエはこの腕にも地面に落ちた瞬間に合わせて圧縮空気を叩き付けて粉砕しておいたのは言うまでもない。




