それぞれの戦い(エーゼル) 10
「チッ……!」
土煙が風に流されて、次第に視界が明瞭になりつつある中でエーゼルは舌打ちをした。
何故なら、彼の想像以上に生き残った敵の数が多かったからだ。
それを風の精霊達が伝えてくれた。
(大技を2つ使って、魔力を半分以上消費してまで仕留められたのは半数を少し超える程度か)
エーゼルとしては今ので8割以上削っておきたかった所であった。
「ガキとはいえ流石ハイエルフって所か!今ので6~7割が沈んじまったみたいだな!こっちとしてはそんだけ報酬が増えて有り難い限りだけどな!」
骸の山の中から続々と生き残った者達が立ち上がる。
彼らは部隊の中央付近に位置していた者達であった。
後方と前方からの挟撃。
彼らは死体を盾にすることで難を逃れていた。
元々からして誰が死のうと構いはしない連中の集まりなので、味方を盾にする程度なら何の躊躇いも無くやる。
良くも悪くもその判断が早かったからエーゼルの想定よりも多くが生き残ると言う結果となった。
負傷の程度に差はあるが生き残ったのは50名弱。
エーゼルは部隊の2/3程を削る事に成功した。
だが……
「健闘はしたがこれまでだなぁ?矢は尽き、魔力も空寸前。その状態でこの数を相手にはできないそうだろう?」
その言葉は間違いなく正しい。
「そうだな。その通りだ」
だから、エーゼルは素直に認めた。
事実は事実だからだ。
「諦めて投降してくれねえか?その方が痛い目を見ないで済むぜ。俺らとしても下手に傷付けて商品価値を下げたくねえからな」
「だが、それは我が諦める理由にはならん。我は最期の最期まで足掻く」
それは宣言だ。
己の覚悟を示しながらエーゼルは弓の弦を弾き絞り、残った魔力で矢を形成する。
エーゼルからの魔力を受けて、風の精霊達が活性化して煌めきを見せる。
交渉の中で生き残った騎士達はポーションを呷って傷の回復を図っていた。
「……残念だ。じゃ、望み通り押し潰して踏んじばるしかないな!」
一斉に騎士達が動き出す。
エーゼルは次々と輝く矢を放ち射抜いて行くが……
(全く手が足らんな)
殺到する騎士達の足は止まらない。
倒れる同僚には一切目を向ける事も無くひたすらにエーゼル目掛けて向かって来る。
魔力が尽きて、矢を形成できなくなる。
魔力が空になったことで全身に酷い倦怠感が巡る中、エーゼルは短剣を抜き出して構える。
(1人でも多く打ち倒し、一瞬でも長く時を稼ぐ)
覚悟を決めて敵を見据えていたそんな時であった。
ガサッ!!
横合いの繁みから何かが飛び出してくる音がした。
そして、その音がした方向から出て来たのは黒くて巨大な何か。
その何かは横合いからエーゼルに殺到しようとする騎士達へと突っ込んで、先頭に居た10人以上を挽肉へと変貌させた。
その何かが突っ込んだ衝撃で生きていた騎士達も足を止める事を余儀なくされる。
「な、何だぁッ!?」
流石にそれはあまりにも予想外であったようで、足を止めさせられた騎士達にも混乱が生じる。
「オークです!黒い巨大なオークが突っ込んできました!恐らく変異種です!」
「何でオークの変異種が……」
疑問を吐露する前に騎士達の前に壁の如く立ち塞がる黒いオークは森を震わせるような激しい咆哮と共にその手に持った長い棒を振るう。
ただの一撃で数名がガードの上からぐしゃりと纏めて叩き潰され、周囲に血と肉片と砕けた鎧や剣の欠片が舞う。
どれ程の膂力だと言うのか。
エーゼルには想像も出来ない程の光景であった。
その黒いオーク……
ゴドリックは狂戦士の如く吠えて、混乱する騎士達を次々と叩き潰して行く。
騎士達が次々と潰されて、肉塊へとかわるその有様はさながら暴風のようであった。