笑ってる場合じゃないだろう
翌日は定時に切り上げ、待ち合わせの場所で亜美が来るのを待った。
「お待たせ~、かなり待った?」
やや遅れて亜美がやって来た。
「お疲れ、オレもさっき着いたばかりだ」
「今日はアニキのオゴリでいいんだよね?」
「おぅ誘ったのはオレだからな」
こうやって亜美と一緒に歩くのなんて何年ぶりだろうか。
まだ小さい時はこうやって一緒に歩いてたっけな…
でも今こうやって並んで歩いていると兄妹とは思わないだろうな、誰も。
アニキのオレが言うのも何だが、亜美は可愛いという部類に入ると思う。
まぁアニキのオレは不細工だがな…
オレと亜美はチェーン店の居酒屋に入った。
「いらっしゃいませ~!」
「二人なんだけど空いてる?」
「はい、二名様、奥へどうぞっ!」
店員に席を案内してもらった。
個室みたいな部屋だな。
まぁいいか、その方が話しやすいからな。
席につき、店員がお通しを出した。
「えぇーと、生1つと、何飲むんだ?」
「じゃあ、カシスオレンジ1つ」
「何だそりゃ?普通最初の一杯はチンカチンカのルービーだろ」
「いいじゃん、何飲んだって」
「じゃ、生1つとカシアスクレイ?え?カシスオレンジか、それ1つ」
「はい、かしこまりました」
…軽くボケたつもりだが、丸っきり通用しなかった。
「どうだ、仕事は?」
「仕事?仕事ったってアタシ受付だしww別に変わった事はないよ」
「あ、そうだったな。でも受付って常に笑顔じゃなきゃなんないんだろ?」
「ん~、まぁね。でもマニュアル通りに対応してるから、ラクショーw」
受付嬢ってそんなもんなのか?それよかいつ本題を切り出そうか迷っていた。
「はい、お待たせしました。生1つとカシスオレンジです」
テーブルに生ビールとカシスオレンジが置かれた。
「あ、後ホッケの塩焼きと厚揚げ、それに串の盛り合わせを」
「はい、かしこまりました」
店員が注文を聞いてカウンターに向かった。
「じゃ、お疲れさん」
「おちゅかれー」
ジョッキとグラスが軽く音を立てて乾杯した。
亜美とこうして飲むのは初めてだな。
「で、今日はどうしたの、何か話あるんでしょ?」
ここで本題に入るとするか。
「亜美。お前、前に家庭教師してたじゃん?そこの家の旦那さん知ってるよな、オレの上司だってのは」
亜美は誰だっけ、みたいな感じで思い出していた。
「あー、友梨ちゃんのお父さん?知ってるよ、それがどうしたの?」
野村の娘は友梨と言って、亜美が女子大生の頃、家庭教師として友梨に勉強を教えていた。
その頃は野村の家庭はまだ奥さんと娘の3人で暮らしていたが、間もなくして野村の浮気が発覚し、離婚する事になった。
「いや、あの上司がな、お前とよく会ってるって言うんだが…ホントなのか?」
「うん、会ってるよ」
…アッサリしてるなお前、野村と会ってるのか?てことは野村と付き合ってのか…?
「友梨ちゃんのお父さんとは飲み会でたまたま一緒になって、久しぶり~wって感じで話すようになってたまにご飯に連れてってもらってるよ。あの後、友梨ちゃんお母さんに引き取られたんだってね。まさか離婚するとは思わなかったよ~」
そこまで話したのか野村は。
「で、お前、あの人とその…何だ、付き合ってるのか…?いや、それはないよな?な?」
「付き合ってるよ」
オレはビールを吹き出した!
「何やってんのよ、汚いなぁもう!」
ショック!!
お前目を覚ませ!!
相手は20才近く上のオヤジだぞ?あんなエロオヤジのどこがいいんだ、おいっ!
「お前、相手はあんな年上だぞ?しかもアニキの上司なんだぞ、解ってるのか?」
「だから?」
「いや、だからって…なぁ、何であの人なんだ?他にいい人いっぱいいるだろ?」
「アニキはあの人と付き合っちゃダメってワケ?」
これも聞きたくないんだが、聞かねばならない…
「お前あの人とどういう関係だ?」
「どうって、ただご飯食べるぐらいの関係だけど、それが何か?」
…これはどう捉えていいんだろうか?いわゆる男女の関係にはなってないんだろうか?
単なる年の離れた友人と解釈してよいのか、どうなんだろ…
「んじゃ例えばな、あの人がお前の彼氏になるとか、そういう間柄になる事はないよな?」
「どうかなぁ、アタシはそんな事考えた事ないし」
あぁ~、良かった!男女の関係じゃなくて!
「でも、そう言われたらどうしようかなぁ。恋人でいいかなぁ」
バカヤロー!目を覚ませ!
「ダメだ!」
「えっ、何で?何でダメなの、意味わかんない、つかマジ意味不だし」
「いいから、あの男が彼氏になるなんてオレは許さないからな、いいか解ったな?」
「何マジになってんのwアニキ、チョーウケるww」
「ウケようがウケなかろうが関係ない。亜美、あの男はかなり遊び慣れてる。泣きを見るのはお前なんだぞ、解るか?」
「えぇー、だって友梨ちゃんのお父さんアタシの前だとかなり紳士的だよ~。アニキの思い過ごしじゃん、それw」
野村の事が好きなのか?
「じゃお前、もしあの人が彼氏になったとして、オヤジやおふくろに彼氏ですって紹介できるのか?」
「そーだよね?パパもママもビックリするよね、マジウケるんだけどwww」
笑ってる場合じゃねぇだろ。
「会うなとは言わない。ただ、彼氏だとかそういう男女の仲になるのだけは止めてくれ、頼む!」
何でオレ、妹に頭下げてんだ…
「そんなにダメな人なの?」
「浮気なんて当たり前、あちこちの女に手を出してどれが本命の彼女だか解らんぐらいに女にだらしがないんだ、あの男は」
「そうなの?」
「だからそうだって言ってんだろ」
「マジ?」
「マジ!」
「…wwwwwwww」
「何がおかしい?」
「アニキさぁ、アタシがあの人の彼女になるなんて思う?マジで思ってたの?キャハハハハw」
「あの男がそう言ったんだよ、オレに」
じゃなきゃお前をこんな場所まで呼び出して話を聞き出す理由がないだろうが。
「えっ、友梨ちゃんのお父さん、アタシがアニキと兄妹だって事知らないの?」
「言ってねーし」
「マジで?」
「…だからマジ」
「そうなんだ!」
「…そうなの、キャハハハハ」
亜美は腹を抱えて笑ってる。
「もしアタシとアニキが兄妹だと知ったらそうはならないよ~ww」
「…だといいんだがな」
「大丈夫、心配ないからぁ、アニキ~勘弁してょ~www」
笑うな!




