三
「王女様。お心、安らかにお待ちください。すぐ。確認いたしますから」
そう言って夢の横に静かに座った孫 彰は、鞄も静かにトサリッと自身の傍らに置いた。そして、その鞄から布を取り出し、その上に医療器具を静かに並べながら、夢へ優しく声を掛けた。
「王女様…良かったです、死んでおられなくて…
私はまだ、加減というものが良く分かっておりません。王女様を死なせてしまっては、生きたままのナカを見れませんのに…申し訳ありません」
孫 彰はメスを1本1本、刃こぼれを確かめる様にしながら並べていく。じっと孫 彰の方を向いて涙を流す夢の方へ視線を向けてはいない。
そのまま、言葉を流暢につむいでいく。
「前、頭をやったのは男性でしたから。その男性よりかは、幾らか、加減してはみたんです。王女様は女性ですから。あの男性は私の精一杯の力でも生きておりましたので、あれくらいの力加減で良いとは思っていたのですがね、やはり、男女で差はあるでしょう。あの男性よりも、軽く、軽く、それでいてガンと叩かなくては、と。大分、気をもみました。
…あぁ、王女様……すいません、集中してしまって……」
そこまで言うと、孫 彰は頬を少し染めて夢の顔の側へ、座ったまま体を寄せた。
「あぁ…王女様……綺麗です。
今宵の月も、王女様の美しい体を証明するために、天がご用意くださったものです。
ほら。
こんなに、明るい…!
青白く光る、貴女の皮膚の、何と艶めかしいことか…
あぁ、王女様、お、王女様っ…お、おうじょさま…き、綺麗です、きき、キレイです…」
言葉の最後の方は、夢には聞き取れなかった。それほど、孫 彰は今や異様に高揚し、顔も最高に紅潮して荒く息をしていた。
孫 彰は、夢の顔の横から腹の横へと座ったまま膝を磨って移動し、夢の藤黄色(薄い黄色)の帯に手をかけた。
「し、失礼しますっ……
お、王女様……
こ、これは、し、しし、神聖な、しんせいな、こうい、なのデス。
あのっ、べ、べつに、は、はずかしいことでは、アリマセンカラ…」
言いながら、孫 彰は夢の帯を解いた。そうして、1枚1枚、夢の服を脱がしていく。
「…や、やや、やはり、うう、う、うつく、うつくしい、デス。
1まい、1まい、はがしていくうちに、1つ、1つ、あなたのうつくしさヲ、かくにんできます。
うで、アシ、むね…
あァ、これカラ、あなたの、ナカをみれると、おもうと、とても、ウレシイ、デス……」
孫 彰が夢の服を全て脱がし終わり。しばし見とれた後、消毒した綿で皮膚を拭き、注射器を当てがった、まさに、その瞬間。
…ドガッ!
「ウァッ!」
孫 彰はいきなり吹っ飛んだ。
孫 彰の体が夢を越える際、夢は思わず目を閉じた。
夢の体の向こうでドザァッという音が聞こえた後、夢はゆっくりと目を開けてみた。
夢の体の横には、肩で息をし、片足を持ち上げている、真っ赤な顔をした歌陰と、こちらも赤い顔をしているが涙を浮かべている歌陽だった。
「……游さんが……」
その言葉を言った途端、歌陰はブワァッと涙を両の頬に伝わせた。
「…今日、姫の所に泊まってやってくれって!」
そう言うと、歌陰は崩れるように座り、拘束されている夢の体を抱き締めた。
歌陽は夢の手足の綱をほどきながら、涙で見えにくい手元を必死に動かした。
「…っく! …っく! …ゆ、…游さんがっ…っく…夢ーサマ、1人で留守番させるの、危険かもって…っく…っく…こんな…こんなっ……」
歌陽が全ての綱をほどいた後、2人のキョウダイは夢を泣きながら抱き締めた。
「夢ーサマッ! 夢ーサマッ! オレ、おっ、オレ、来ましたからッ! 守りますからっ!」
「可哀想にッ! か、可哀想にッ! …っく、っく! こんなに泣き跡残して…怖かったでしょう! 嫌だったでしょうっ! も、もう、大丈夫ですっ、っく…っく…! ぼ、ボクたち、来ましたからっ!」
夢も抱擁を返した。2人の肩が重なる部分に、自身の顔をうずめた。もう、涙は止まっていた。
それからすぐ。
歌陰と歌陽は服を着直している夢の前で静かに立ち上がった。表情は暗く、その視線の先には、先程歌陰が人間の姿での精いっぱいの力で蹴飛ばした、伸びている孫 彰の背中があった。
「夢ーサマ」
歌陽が夢へ、怪しく光る眼と吊り上がる口元を隠すように、背を向けたまま声を掛けた。
「ボク、孫 彰を送って行きます」
その声を聞くと、歌陰も恐ろしく光る目とニヤニヤとした表情を見せないよう、夢に背中を向けたまま声を発した。
「オレも行ってきます。すぐ、戻りますから。部屋で待っててください」
これまでになく暗く、しかしどこか楽しそうな声の2人に、夢は不安を覚えて、慌てた声を上げた。
「ピィッ! キュイッ!」
「えぇ、大丈夫ですとも。ボクら、分かっていますから。『裁き』がないことも知ってます」
「あぁ、見えてますから…とにかく、ここはオレたちに任せてください」
そう言うと、月の逆行で暗く見える2人の背中の影は大きくなって、その直後空へはばたく音が聞こえた。




