表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/452



「王女様。お心、安らかにお待ちください。すぐ。確認いたしますから」


 そう言って()の横に静かに座った(そん) (しょう)は、鞄も静かにトサリッと自身の(かたわ)らに置いた。そして、その鞄から布を取り出し、その上に医療器具を静かに並べながら、夢へ優しく声を掛けた。


「王女様…良かったです、死んでおられなくて…


 私はまだ、加減というものが良く分かっておりません。王女様を死なせてしまっては、生きたままのナカを見れませんのに…申し訳ありません」


 孫 彰はメスを1本1本、刃こぼれを確かめる様にしながら並べていく。じっと孫 彰の方を向いて涙を流す夢の方へ視線を向けてはいない。


 そのまま、言葉を流暢(りゅうちょう)につむいでいく。


「前、頭をやったのは男性でしたから。その男性よりかは、幾らか、加減してはみたんです。王女様は女性ですから。あの男性は私の精一杯の力でも生きておりましたので、あれくらいの力加減で良いとは思っていたのですがね、やはり、男女で差はあるでしょう。あの男性よりも、軽く、軽く、それでいてガンと叩かなくては、と。大分、気をもみました。


 …あぁ、王女様……すいません、集中してしまって……」


 そこまで言うと、孫 彰は頬を少し染めて夢の顔の(そば)へ、座ったまま体を寄せた。


「あぁ…王女様……綺麗です。


 今宵の月も、王女様の美しい体を証明するために、天がご用意くださったものです。


 ほら。


 こんなに、明るい…!


 青白く光る、貴女の皮膚の、何と(なま)めかしいことか…


 あぁ、王女様、お、王女様っ…お、おうじょさま…き、綺麗です、きき、キレイです…」


 言葉の最後の方は、夢には聞き取れなかった。それほど、孫 彰は今や異様に高揚し、顔も最高に紅潮して荒く息をしていた。


 孫 彰は、夢の顔の横から腹の横へと座ったまま膝を()って移動し、夢の藤黄(トンホワン)色(薄い黄色)の帯に手をかけた。


「し、失礼しますっ……


 お、王女様……


 こ、これは、し、しし、神聖な、しんせいな、こうい、なのデス。


 あのっ、べ、べつに、は、はずかしいことでは、アリマセンカラ…」


 言いながら、孫 彰は夢の帯を解いた。そうして、1枚1枚、夢の服を脱がしていく。


「…や、やや、やはり、うう、う、うつく、うつくしい、デス。


 1まい、1まい、はがしていくうちに、1つ、1つ、あなたのうつくしさヲ、かくにんできます。


 うで、アシ、むね…


 あァ、これカラ、あなたの、ナカをみれると、おもうと、とても、ウレシイ、デス……」



 孫 彰が夢の服を全て脱がし終わり。しばし見とれた後、消毒した綿で皮膚を拭き、注射器を当てがった、まさに、その瞬間。



 …ドガッ!


「ウァッ!」



 孫 彰はいきなり吹っ飛んだ。



 孫 彰の体が夢を越える際、夢は思わず目を閉じた。


 夢の体の向こうでドザァッという音が聞こえた後、夢はゆっくりと目を開けてみた。


 夢の体の横には、肩で息をし、片足を持ち上げている、真っ赤な顔をした歌陰(かいん)と、こちらも赤い顔をしているが涙を浮かべている歌陽(かよう)だった。



「……游さんが……」


 その言葉を言った途端、歌陰はブワァッと涙を両の頬に伝わせた。


「…今日、姫の所に泊まってやってくれって!」


 そう言うと、歌陰は崩れるように座り、拘束されている夢の体を抱き締めた。


 歌陽は夢の手足の綱をほどきながら、涙で見えにくい手元を必死に動かした。


「…っく! …っく! …ゆ、…游さんがっ…っく…夢ーサマ、1人で留守番させるの、危険かもって…っく…っく…こんな…こんなっ……」


 歌陽が全ての綱をほどいた後、2人のキョウダイは夢を泣きながら抱き締めた。


「夢ーサマッ! 夢ーサマッ! オレ、おっ、オレ、来ましたからッ! 守りますからっ!」


「可哀想にッ! か、可哀想にッ! …っく、っく! こんなに泣き跡残して…怖かったでしょう! 嫌だったでしょうっ! も、もう、大丈夫ですっ、っく…っく…! ぼ、ボクたち、来ましたからっ!」


 夢も抱擁を返した。2人の肩が重なる部分に、自身の顔をうずめた。もう、涙は止まっていた。



 それからすぐ。


 歌陰と歌陽は服を着直している夢の前で静かに立ち上がった。表情は暗く、その視線の先には、先程歌陰が人間の姿での精いっぱいの力で蹴飛ばした、伸びている孫 彰の背中があった。


「夢ーサマ」


 歌陽が夢へ、怪しく光る眼と吊り上がる口元を隠すように、背を向けたまま声を掛けた。


「ボク、孫 彰を送って行きます」


 その声を聞くと、歌陰も恐ろしく光る目とニヤニヤとした表情を見せないよう、夢に背中を向けたまま声を発した。


「オレも行ってきます。すぐ、戻りますから。部屋で待っててください」


 これまでになく暗く、しかしどこか楽しそうな声の2人に、夢は不安を覚えて、慌てた声を上げた。


「ピィッ! キュイッ!」


「えぇ、大丈夫ですとも。ボクら、分かっていますから。『裁き』がないことも知ってます」


「あぁ、見えてますから…とにかく、ここはオレたちに任せてください」


 そう言うと、月の逆行で暗く見える2人の背中の影は大きくなって、その直後空へはばたく音が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ