二
夢が目を覚ますと、そこは王宮内の森の中だった。
王宮は風水的にも、機能的にも良く設計されて作られていたが、代代の西境王は無駄に自然を破壊してまでの建設を望まなかったので、森が近くに迫っていても、見栄えを気にして切り開くことはしなかった。
それで王宮は森と隣接し、王宮の中にも多少、森の一部が入って来ていた。
その、王宮内に存在する森で、夢が出て行ったはずの門付近。丁度ライラを襲撃した犯人がいたであろう木木の間。そこで、夢は目が覚めた。
どうやら夢は仰向けに寝ている様子だった。良く光る明るい月が、瞳を開けた、その視線の先に見えた。
だんだんと意識が戻ってきた夢は立ち上がろうとするが、どうも体が動かない。自身の体の感覚や身の周りを確認してみる。すると、口にはサルグツワを噛まされ、4方向の植木や森の低木の根っこと自身の両手、両足がそれぞれ綱のような物で結ばれてつながれているのに気が付いた。
ぐっぐっ、と右腕を引っ張ってみる。しかし、夢の力でほどけるような強さでも、腕が持ち上がる程の余裕のある長さでも、結ばれてはいなかった。
夢は小さくため息を吐いた。
誰か、人の仕業であることは間違いなかった。
怪我をしても、病になろうとも、それは自身に何の脅威でもない。小さな外傷や軽い病であれば瞬く間に治癒するし、人であれば死に至る程のものでも完治にさほどの時間も要しなかった。加えて、器より心を大事にする思考だったので、体を汚されるということに何らの恐怖も覚えなかった。つまり、自身の身体への侵害に関して、夢は今の所、何の危機も感じていなかった。
しかし。
もし、このまま、誰にも分からないようにここに永久に放置されてしまうと、他人の幸福感から力を得ている夢にとっては困ったことになる。死ぬことはないが、体や精神が弱体化する。天にいる本体にもらった幾つかの能力自体に弱まりはないが、体や精神が十分健康でないと発揮できないものもあった。人間が病気や怪我の状態で通常通りの思考や行動がとれにくいことと同じである。
更に。夢は最悪の事態を考えた。そうして、泣き出さずにいられなかった。
もし、このまま、ここに置いておかれるのではなく、どこかに見知らぬ場所へ連れ去られるのだとしたら。游に会えなくなる。それが、悲しかった。
声を出さずに、じわぁっと瞳を潤ませた後、頬に流れ落ち、土に染み込むまで涙を流した。
「あぁ。気付かれましたか。良かった…」
泣いている夢の頭の上から、優し気な声が降って来た。
黒い色の、清時代の中国衣装に身を包んだ孫 彰が幸せそうに微笑んで立っていた。




