表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/452



   *

   *

   *

  蓮水鏡

   *

   *

   *



――私のため息で お前の水面(みなも)は揺れる


  いや


  震えているのか


  私の吐息が お前の表面を()ぜたから


  たまらず、堪え切れず、思わず…


  それ程までに恋しいのであれば


  私に 私の望むものを見せてみるが良い


  そうすれば また


  私の熱い息が お前にかかるぞ――



 ライラの施術が終了してからしばらく――


 後宮。


 王である(ゆう)と姫である()の住む華陽宮(かようきゅう)の奥には、歴代の王の正妃が私的に住んだ宮があり、そこから東と西に正妃以外の妃が住むための宮が1つずつあった。一応大きさとしては申し分ない広さの宮だったが、そもそも西境国(きょうこく)の国王は多くの妃を持つことを望まなかったので、倉庫化していた。


 その中の、東宮、『星心宮(せいしんきゅう)』は、西の宮と同じく、正妃以外の妃や子が生活をするための寝殿の他に、妃の食事を作るためやなどの必要な専門施設が幾つかと、大勢の使用人が住める館も存在した。その、使用人用の館に紫瑛(しえい)(のう)は住んでいた。


 星心宮からは(たん)の住む離宮、花鳥斎(かちょうさい)も見えるので、逆に坦も星心宮内のことは良く見え、人質として住んでいる年月分、内部もそれなりに詳しく知っていた。それで紫瑛と坦の指し示す言葉は詳しく伝えなくても大体お互いが理解できており、『台所の方へ行こう、広い場所がない!』と坦の発した言葉が使用人の館の台所ではなく、いわゆる『東宮で高貴な人物たちの食事を作るための専用施設』だということを、紫瑛は良く理解できていた。


 その施設内。


 そこでライラと夢は抱き合ってじっとしていた。



 紫瑛たちが戻って来ると、夢は温かい茶を紫瑛から両手で受け取った。そうして心配そうに覗き込む男らに向かって、これまでの無表情を変えず、首を横に2度振った。ライラはまだウトウトしている状態で、目を開いたり閉じたりを繰り返していた。なので夢の腰をしっかりと、その太い前の両足で抱き締めていた。


 そう。


 『まだ動ける状態ではない』と、そこに居る人物らに伝えたかったのだ。


「そっか。ごめんね、任せちゃって…」


 坦は夢の左側へしゃがみ、ライラの頭を静かになでた。


 ライラは坦に頭をなでられると、目を細めた。そうして、「フゥゥゥ…スゥゥゥ…」と音が聞こえる程の深呼吸をした。


「…ゴメンね、僕のせいで…」


 坦の横にいた紫瑛が瞳を少しうるませてライラの背をなでた。そのときもまた、ライラは目を細めた。


「お前のせいじゃないよ。


 …さぁ、ライラの敵討ちをするためにも! 証拠、集めに行くぞ!


 ()ーちゃん、ごめんよ、ライラを頼むよ」


 坦はそう言って、優しそうな微笑みを夢に贈った。横にいる紫瑛の肩を軽くたたき、後ろの扉付近にいる(のう)にも視線を送った。能は坦と視線が合うと、軽くうなずいた。


「坦。紫瑛。行こう。


 姫。ご無理はなさいませんように」


 後ろから能の声が聞こえ、坦と紫瑛は夢から離れた。後ろから紫瑛の「行ってきます」という声が夢の背中に柔らかく当たった。夢は肩越しに微笑みを投げかけると、視線をまた膝の上のライラへと落とした。



 3人の男が『台所』を出て少し。


 ライラはやっと瞳を閉じ、そのままスゥスゥと寝息をたてて眠った。


 眠ったライラを見て、夢も少し、眠くなってきた。そこで、ライラの頭をつぶさないように、ライラの肩に両手を乗せて、その上に自身の頭を横たえて置くと、瞳をゆっくりと閉じた。


 そうして静かに時は進み、夢が再び目を開いた時、時刻は午後の15時程になっていた。


 夢はライラがまだ眠っていることを確認すると、服を着替えるために、ゆっくりとライラの頭を膝から下ろし、星心宮を出た。



 白のキャミソールに似たインナーに粉鳳仙(フェンフォンシェン)色(薄いピンク)の上着に、浅石英紫(チェンシーインツー)色(薄い紫)のスカートの、古代北朝時代に女性が着ていたような、ゆるい服装に着替えて戻って来た時も、ライラはまだ眠っていた。しかしライラの血で汚れた体や床を拭こうと夢が不要な布を濡らしている時には目が覚めており、頭をもたげて夢の方を見つめていた。


 夢はのっそりと立ち上がったライラの体を力をなるべく込めずに拭き、ライラが綺麗になると汚れた床からゆっくりと遠ざけ、綺麗な床に横たえさせた。それからしばらく床を掃除し、終えた頃には、空が赤くなる時刻になっていた。



 夢は、ライラを見つめて、少し考えた。


 このままこの台所にライラを寝かせていても、ここは寒く、床も固い。ライラが元居た、使われていない(うまや)に連れて行った方が良いのではないか。その方が床に藁を敷いてあるし、温かいし、落ち着くのではないだろうか。


 夢はライラを厩に連れて行くことにし、ライラの肩に手を置いて立ち上がらせ、厩まで一緒に歩いて行くことにした。



 厩に着いてライラを横たえらせると、夢はまた、ライラが眠るまで(そば)にいた。そうしてライラがスゥスゥと寝息をたてだすと厩を後にした。


 今夜もきっと『会議』はあるのだろう。また差し入れを買っておこう。そのような考えから、王宮を出た。



 途端に、頭に衝撃が走り、夢はドサリと倒れた。



 空はもう暗くなっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ