五
そうして、坦と姫の長い仲直りの話が終わると、姫は、今度は游さんの方へ対峙された。
姫はまだ紙袋の中を覗きながら手を探り入れ、今度は小さな紙袋を2つ取り出され、大きな紙袋の残りを全部、それごと游さんへお渡しになった。と同時に、游さんへご自身の体までも渡すように、倒れ込むように抱きつかれた。
「これ俺の分だったの? ……あ~……ハイハイ。後で半分コね…それにしたって多いけど。フフ。ありがとう、もらっとくよ」
游さんは少し困った表情をしたが、すぐに元の優しい笑顔になって紙袋を受け取り、姫の頭をなでた。それを見届けると、姫は游さんからやっと体をお離しになった。姫の手元に残った2つの紙袋が気になったのか、游さんはそのことについて姫へ質問した。
「…で、なに? それは誰の?」
姫はパチパチッと瞬きをした。
「あ~…なるほどね。能ちゃんたちのか。それは良い買い物をしたね」
そう言って游さんは姫の頭をもう1度なでた。能はというと、突然の自身の名前の登場に驚いた声を出した。
「……え。何ですか?」
私は姫の指の動きを追うのに精いっぱいだったので、周りに注意を全く払っていなかった。なのでそれまでの能の表情を観察していなかったんだがね…たぶん、その時、能は辛い表情をしていたんだと思うよ。しかし…まぁ、まぁ…耐えたかいがあったってもんだよ。まぁ、理由はこれから明らかになるから。
「小夢が何かくれるって~! 良かったね! …それから紫ーちゃん?」
いきなり游さんが私の名前を出すものだから、私はビクリとした返答をすることになってしまった。
「ハッ? ハイッ!?」
「紫ーちゃんにも何かくれるみたいよ? 良かったね!」
「ハイッ!」
私は嬉しくて姫の横にパタタッと足早に歩いて行った。横に行くと、姫は私へニコリとした微笑みを1つくださった。そうした後に手話で『ごめん、少し待ってね、能ちゃんに聞かないと』と、少し申し訳なさそうな表情と共にお話しになった。
「ハイッ」
私が勢いよく良い返事をすると姫は能の方へ近付いて、坦のときのように能の胸に指で字を書こうとしたのだが…
「うぅっ!」
能は姫の指が触れる前に、少し頬を染めて2、3歩後ずさった。姫が首をかしげられると、後ろから游さんの声が聞こえてきた。
「あ、あー……小夢。能ちゃんは体の感度が良いから。きっとくすぐったいんだよ」
即座に能の否定的な言葉も出るが…それもまた游さんに即座にかき消された。
「そっ…そういうわけでは……あの」
「紫ーちゃんに通訳してもらって。俺より紫ーちゃんの方が雰囲気作って伝えてくれるから」
「キュッ!」
姫は游さんの方へ顔だけ向けて明るい返答をお返しになると、私の肩に片手で触れて、柔らかい微笑みを贈ってくださった。『頼む』という意味にとらえた私は、「ハイッ」とお答えした。それを見ると、姫はまた嬉しそうに微笑まれ、能の方へ向き直った。能は…まだ少し紅い色を顔に残したまま、身構えていたよ。…何故かね。
さて。
ここからは私の翻訳を姫のお言葉だと思って聞いていてもらいたい。
…少し雑っぽく聞こえるかもしれないが、それは…当時の私が直訳する技術しか持ち合わせていなかったからだと理解してもらいたい。
…なにぶん、『幼かった』もんでね。
…では。




