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十二



「……まぁ、メルヘンが入ったオハナシはここまでで。


 現実的な話をしますね。


 あのコは何故か肉を食べられないようです。虎は大体自分の体重の5分の1の重さの食事をします。通常の虎でしたら、約40キロ分の肉を要します。どうやって生き抜いたのか分かりませんが、あのコは見た目が通常の虎の倍程の体格をしています。僕の見識では、彼女は1~2歳。おそらく、これ以上は大きくならないと思いますが…」


「40キロか…肉でそれなら、獣を狩ることができれば何とか手に入るが、草だと集めるのが大変だな」



 …え…?


 …あぁ、そうか。


 君は、昔と今とで長さや重さが違うんじゃないかって思っているんだね。『(きん)』は使ってなかったのかって? あ、あー、良く知っているねぇ!


 そうだね。良いところに気がついたねぇ。


 しかしね、実はねぇ。長さと重さはねぇ、この地に、別の土地、別の時から招かれて入って来る人によって違いすぎていたから…ある時に西洋だったかな? 我々の文化圏とは違う土地と時から来た人から教わった基準に統一したんだよ。この当時にはもうそれが浸透していた。だから、今君らが使ってるのと同じメートル法だよ。…時刻の概念にも違いは多少あったけど、四境(しきょう)でほぼ一緒だったから、中でも1番分かりやすい十二時辰(じしん)制で統一してたけどね。あぁ、そうだね。4つの国が1国に統一した後に今と同じ、二十四時間制に変わったねぇ。


 ではでは、まぁ、話を続けようか。



 能が『40キロの食糧』という、話の核心に届くような話題に振れ、私も聞き入っていた時。



「うんうん。 ……あ。どうでもいいけど、虎のコはオンナノコだったんだね。そりゃ坦ちゃんに懐くわけだ。何せナンパ成功率12割だもんね」


 …游さんの妙な才能3本柱。それは、『天然』『時々空気を読まない』『鈍感』だね。ここでその話を持って来るかというのを出す…困った人だよ、本当に。


 坦はお分かりの通り。異様に慌てていたよ…


「あのちょっ…その話は今は! 横に()ーちゃんもいるしっ! あ、夢ーちゃん、まさか、この、僕が? そんな、アハハ! ナンパだなんて……アッハッハ!


 ……


 …あ、でー…その…」


 瞬間的に言い訳をした後、坦はまた冷静さを取り戻していった。


「…えっとー……そう! あのコはあんなに体が大きいから、食べる量もすさまじいはずです。そのうち…周りに食べられる草、つまり彼女にとっての『食べ物』がなくなったんです、きっと。それで、生まれた所からこんな人里まで降りて来ちゃったんですよ。見てください、彼女はアバラが浮き出ています。あんなに飛びついてガツガツ食べて…可哀想に」


「でも、もう大丈夫だね。俺んとこは、野菜だったら肥料の肥料にするくらい余ってるから。いくらでももらえるよー」


 そこへ、能がやっと話を進められる、といった表情で割って入って来た。


「そのようで。私も、結果、良い方向へ向かう事象が1つでもあってホッとしています。


 しかし…問題は。今朝、狩人何人かに危険に陥らないよう注意して、山に深く入り込んでいない比較的安全な場所を軽く探索してもらいましたが…虎の足跡は1種類しかありませんでした。おそらく、あの虎の物でしょう。そして、あの虎は肉を食さない。肉に興味がないのだから、他の生物を襲うなんて無駄な動きはしない。これが、この事件の要です」


 そこまで能が言うと、坦が続けた。


「普通、狩りをする獣は、狩った食料はその場で食べるか、隠すか、埋めるか…それか、巣へ持って行くんです。あの『小動物の腹を裂かれた死体』は初めから死体の状態で落ちていたんだと思います。


 あのコは肉に興味がない。だから、『小動物の腹が裂かれた死体』なんて見向きもしない。それに、あれだけ大きな体なんだ、他の肉食系の動物も中々その『小動物の腹が割かれた死体』を彼女のナワバリ意識を恐れて、持って行けなかった。だから、残っていたんです。」


 それに能も続ける。


「私は狩人たちへ、『もし山を探索中に腹を裂かれた生き物の死体があったら持ち帰ってほしい』と依頼しておりました。そして。1人の狩人が、小動物ではないですが、『腹を裂かれた動物の死体』を見つけ持ち帰ってくれました。比較的新しい死体だったため裂かれた痕も鮮明に残っていました。人間が似たような遺体で発見されたこと、その原因が『トラバサミ』という狩猟用道具であったことから、この死体にも関係があるかと思い、鍛冶屋に調べさせたところ…これは、獣の爪や牙での傷ではなく、小刀(こがたな)か何か、短い刀身の刃で出来る傷だという所まで判明しました」


 そこまで静かに聞いていた游さんは、悲し気な声を出して聞いた。


「…結論は?」


 その言葉を聞いて、坦と能は顔を見合わせた。2人はまるでタイミングを計ったかのようにそれぞれの結論を導き出していく。


「私から結論を。刀を扱ったのであれば、『小動物の腹を裂いた』のは人間です。何体もその死体が発見されているなら、何度も繰り返しています。動機は不明。今後続くことも考えられます」


「じゃあ、僕の結論です。腹を裂くだけで食べない獣なんて、聞いたことがありません。これは…獣以外の生き物の仕業です。人間ですらない!


 虎挟みだって、あんなにわざと切り裂くような歯を付けたのは、自分の労力や汚れを減らしてより楽に、一瞬で腹を裂くためだとしか思えない! 


 …最後に。あのコは肉なんて食べません! 人間の肉なんて、なおさらです。あのコはきっと、怪我をした人間を生きていると思って舐めて治そうとしてたんです! あのコは関係ないんです、きっと!」


「…分かった」


 そこまで2人の意見を聞くと、游さんは憂えた表情で、俯き加減に視線を下げると、悲しそうに2人の意見をまとめ、自身の結論を言った。


「とある人間が、小動物の腹を裂く快感に目覚めて、何の憐憫の情も無く、ただただ腹を裂き、死体を無造作に捨て、それを繰り返し…そうしているうちに、人間でも試したくなった。


 それで、今回、(きん)さんが不幸にも選ばれて試されてしまったんだね。


 そして、今後、味をしめた犯人は、また人間の腹を狙っている、と、そういうことだね。


 そこの白虎ちゃんは、たまたまそこにいただけで、無関係。


 ……


 ……俺の国で、まさか、こんなことが起こるとはね。今まで、こんなことをする人はいなかったんだけどなァ……」


 游さんは泣きたくなるような表情で少し下を向き、腕を組んだ。


 それを見た姫は何かおっしゃりたいような悲しみに満ちた顔で游さんの袖を震えておられる両手でにぎられた。それから、ゆっくりと游さんを抱き締められた。


 游さんはしばらくそのまま動かずにいたが、腕をほどくき、姫の頭をポンと撫でると、我々にいつもの調子で話し出した。


「…オーケイ。犯人探しをしよう。…で、捕まえられたら、みんなに謝罪してもらって…特に、金さんに。対処はそれから考えるよ。大丈夫。俺も今回は、甘い結論を出さないから。


 …この犯人はきっと、俺の国に最近住み始めた人か、旅をしていてたまたま立ち寄った人か……そんな所だね。こんなことが最近急に起こり出して、以前から住んでいた人が犯人である可能性は低いからね。…『低い』ってだけだけど…


 …もし次のターゲットを定めてしまった場合、それからもし俺の国を離れるつもりだった場合…どうにかそんな事象の起こる前に見つけたい。みんな、協力をお願いするね!」



 そう游さんが固く決心した言葉を私たちに掛けると、坦と能は同時に「ハイ!」と声を上げた。私も慌てて「僕もやりますっ!」と答えたよ。游さんは優しく微笑んで私の頭を撫でながら、「ありがとう。でも危ないことはやめようね」と言った。



「じゃあ、俺が動くよ。みんなは普段通りにしてて。その中で調べてみて。戌時(じゅつじ)正初刻(せいしょこく)(約 20時)には帰ってくるから! 雯月殿(ぶんげつでん)でね! 報告会しようか! しばらくこの生活を続けよう」


 そう言って姫の手をゆっくりほどいた游さんに、私は慌てて意見した。これこそ、役人の仕事だし、私の出番だ、と思ってね。はりきって言ったよ。


「待ってくださいよっ! 游さん、王サマなんだから、動いちゃ危ないですよっ! 僕らがメインにやりますっ! 僕やりますっ!」


 それに対して、私の年上の友人たちは静かに反論した。辛かったねぇ。ダダをこねるようにして、私もその反論に反論したもんだよ、ハハハ!


紫瑛(しえい)。君も動かんで良い」


「…そうそう、足手まといだから。文書整理したら? 残ってるんでしょー? やらなきゃなんないコトー。いっつも俺に言ってるでしょーがぁ」


「ヤですゥッ!」


 と、そこでまた、『空気の読めない』游さんがトンデモナイ発言をした。


「あ。『残ってること』『やらなきゃいけないこと』といえばぁ…小夢! あのね、い~い? 前、お茶を淹れてた時にちょっと話したけど、今日これから坦ちゃんちに1人でお邪魔しといで。それで2人切りで1時辰(じしん)くらい、遊んでおいで。別にもっとでもいいけどね。何か、イイモノくれるみたいよー。良かったねッ! 後でパパに話して聞かせてねー」


 キョトンとされる姫に、游さんは楽しそうに笑い掛けた。


 その言葉を聞いた坦は一瞬で真っ赤になり、大袈裟に片足をズザァッと後ろに引いて体全身で『それを今言うか』ということを表現しつつ、怒ったように叫んだ。


「ちょっ…なーにーをっ…! 游さんっ! 今っ、それっ、今っ、言うっ!?」


 それに対して、游さんは真面目な様子で返答した。


「だってこれから忙しくなるもの。約束は早目に果たしとかないと、俺、忘れる可能性あるモン。それにさ。先にやりたいことやっといた方が、集中できるでしょ? 坦ちゃん」


 …とても輝いた笑顔で游さんがこちらを向いて言うもんだから。私はこれ以上ないくらい慌てた。しかしそれ以上に慌てたのは能も同じで。


「游さん! 忘れた方が姫の…いえ、国のためです!」


 私より先に游さんの行為をとがめた。それに続いて、私も反対した。


「そうですそうです! あんなの! 何するか分からないですよっ!」


「ちょっ! てめェらァ!」


 坦が能と私に向かって真っ赤なまま怒ろうとした時。姫は無表情でしばらく瞳を閉じたあと、また目をお開きになり、游さんをじっと見つめられた。


「坦ちゃん。良いってさ。このまま連れて行って。ハイ」


 そう言って姫の両肩を持ってトンッと坦の方へ突いた。


 姫は理由を教えてもらったのにも関わらず未だ納得できないというような表情をされてゆるりと游さんの方へ振り向かれたが、游さんがあまりにも屈託のない笑顔で姫に微笑んだので、逆に姫の方が頬を少し赤くして困ったような微笑みをされ、坦の方へ向き直ると「みゅッ!」と、困ったような表情と共に声を出された。


「え、えぇッ……?」


 この状況に、坦自身は固まってしまっていた。


 私は…まるで周り全てが暗黒に落ちたように視界が暗くなっていくのを感じ、1人で――どうにかしなくっちゃ――と追い込まれていた。



 …おや。


 お湯を沸かしていたのを忘れていたようだ。


 お茶を淹れてきてあげよう。


 君も聞き疲れたろう…私は昔から、話がズレて長くなるのがいけない所でね。


 お菓子を食べて待っておいで。


 え。


 お茶をストローで飲みたいって?


 ハッハッハ!


 ではまだ少し待っておいで。


 お茶をストローで飲むには、少し冷やさないといけないんだよ。火傷し易いし、ストローの香りがお茶に着くからね。でもそれでも温かいと感じるくらいの熱さじゃないと美味しくなくてね。私が坦のようにできるか分からないが、やってみてあげよう。


 そう。


 しばらく、坦と姫のことを考えながら待っておいで。


 君は、どうなったと思うかね?


 お茶を飲みながら教えておくれ。


 それからまた、話を再開しよう…




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