十
…と、まぁ、良く言ってはみるがね。
当時はそんなこと、思ってもみなかったものだから。そんなに感動する景色ではなかったよ?
…それにねぇ。
ほら。
游さんが、あれでしょ。軽いでしょう。
それほど盛り上がらなかったよ。
ハッハッハ!
「いっやぁ~、だから俺、今日は死んだ父ちゃんの冕を借りててね。
バランス取るの、難しかったよ。小夢に手も引いてもらってさァ。
やっぱり自分のじゃないと上手くいかないね、ハハ!」
「………」
「どしたの? 立ってよー」
「……何なんだ、一体…
…もっと重く振舞ってください!
何だか台無しにされた気分だ!」
「…ッぷぇ~……キビシイ…」
そう言うと游さんは頭を掻き、私の方へ話しかけた。
「じゃ。俺、着替えてくるから!
能ちゃんとおばちゃんをよろしく!
あ! ついでに町も案内してきてよ!」
そう言って走り去ろうとした游さんに、私は慌てて声をかけた。
「ちょっと!
もう外出しないでくださいよ!
僕が呼びに行くまで部屋でいてください!
まだ危険は去ってないんですからね!
鍵もきちんとかけて!」
「ふぁ~い!」
聞こえたらしい私の声に反応を示して、游さんは王族の住まう宮へ続く通路へ消えて行った。
私はここまでの怒涛の流れに疲れていたので、気合いを入れ直したよ。
「…はー…
…ふぅっ!
じゃ、少し休んでから行きましょうか。
もう1回服を持ってきますね」
そうするとやっと落ち着いた能の母君が声をようよう出してきた。
「へぇ~……驚いたワァ…
あたし、たぶん、生まれて初めてだよ、こんなこと…」
「……そんなの、誰もがそうだよ…
信じられるか? あの農民が王で、私はいつの間にか丞相だ」
「あんた…
良かったねぇぇ…
あんた…北境じゃ、もう、1人で生きていけないって、あたしが死んだらって…悩んで…
いくら頭が良くったって、今の国の王じゃ、あんた…きっと、殺されちまう…
…そんな、ねぇ…
どんぞこの状況から…
ねぇ、こんな大役も頂けて…
良かったねぇぇ…
国を捨てて…不安で、不安で、あたしは…
良かったねぇぇ……うぅ……」
そこまで言うと、能の母君は崩れ落ちるように座り、泣き始めた。
無理もない。
能はそんな母親をのぞき込むように座って、ここまで来て初めて、純粋に微笑んだ。
そうして自身の額を母親の肩に軽く当てたあと、能はゆっくり立ち上がった。
母親も、涙を拭きながらゆっくりと立ち上がった。
…正直、少しうらやましかったね。私には血のつながった家族はいなかったから。
それから私は、游さんに言われた通り、彼らに町を案内するために宮殿の正面門までの廊下を先導して歩いた。
「でも、ねぇ、能…」
「ん?」
「あんた、あんな声出すんだねぇ」
「あっ!? あぁ!? はぁッ!?」
「でもダメだよ、悲しいけど、諦めるんだよ?」
「えっ!? ちょっ…!!」
「ごめんなさいねぇ、全部、あたしが悪いから…」
「な、何のことだよ! やめてくれよ!
これ以上言うならもう朝飯食わないからな!」
「まぁ!
あんた…これから大変な仕事をするのに!
これまでも良く本の続きが読みたいからご飯いらないとか言って…
だから体に肉が付かないんだよ、お食べ!」
私は後ろの2人の会話を聞いて、ほほえましくてつい、クスクスと笑ってしまった。能の母君はそんな私の子どもらしいクスクス声を聞いて「あら」と言って私と同じようにクスクスと笑った。能のため息も聞こえたよ。
「ごめんなさいね、こんな親子ゲンカの声を聞かせちゃって」
「いえ。仲良しですね」
「…フツウだろう!」
「ウフッ。姫様と游さんもそんな感じですよ? ケンカと言っても、ごく稀~に游さんが姫様に怒られてるだけですけど。とってもカワイイケンカですよー。それと似てるので、お2人はナカヨシです」
「…カワイイとはなんだ………うぅ…」
「あぁ。あのねぇ、それでねぇ、ちょっと、聞きにくいくとを聞くんだけども、ねぇ…」
「何ですか? 何でも聞いてくださいよ」
そう私が顔だけ振り向いて答えると、能の母君は少し困ったような表情をされて、おずおずと喋り出した。
「…あの…
今日いらっしゃった緑のお姫様と、さっきの明るい王様は、本当の親子なのかい?
本当の親子にしては、年が変わらないように見えるんだけど…」
「…それから、私もお聞きしたい。
あの…姫君の声は、どうかなされたのか?」
確信をついてくる仲の良い親子に私はこれまでの空気を変えることなく、サラッと伝えづらいことを返答した。廷からしばらく歩いたので、もう、門が見えてきていた。
「では、まず能さんのお母さんの質問に答えますね!
えぇ、はい。
姫様と游さんは実の親子ではありません」
「えっと…じゃあ、ご親戚の子どもを引き取ったのかい…?」
「いいえ。
姫様は游さんが龍胎湖を見つけたときにそこで拾った子だそうです。
そう、国の人は言ってます」




