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唯一無二の



あのあとしばらく呆然としていたが、空腹には逆らえず夕食をとり、各自自室へと別れた。

お風呂にも入って、カンナも部屋に返した。





どふんっ



ミチルはベッドにダイブした。

せっかくきれいにベッドメイクされていたのに、台無しである。


ゴロゴロ転がったと思うと、うつ伏せになって枕をぎゅうと抱きしめる。




あの日。



『俺はしたいようにする』

『勝手に傍にいさせてもらう』

『代わりにだって喜んでなる』



イツキはそう言っていた。



代わり、というのはリョウヤの代わりということだったのだろう。


したいようにする、というのが『傍にいさせてもらう』となるということはーー




ボスンボスンボスンボスン



部屋にバタ足する音が響く。

五分も経った頃には、干したてフカフカだったはずの掛け布団はもうヘニョヘニョだ。



嬉しい。

とても嬉しい。


ずっと嫌われていたのだと思っていた。

あの頃幸せを感じていたのは私だけで、イツキにとっては苦痛な時間だったのだとしたら、なんて申し訳ないことをしたのだろう、と。



よかった。




けれど。

両想いなのだとして。


果たして私はイツキさまの婚約者に相応しいのだろうか。



嫌われているのだと勝手に思い込み、逃げ出し。

リョウヤ(次期ロイスタリア王)と婚約して、破棄され。

キクト(現サピエ王)と婚約して、破棄され。



一般的な貴族令嬢の経歴ではあり得ない。

こんなことになったら一家の恥もいいところである。


しかもキクトとの時は、恋人であると噂をたてるために人前でかなりスキンシップをとっていた。

学院に通う数多の貴族に目撃されている。


婚前交渉なんてしてないけれど、まわりが信じてくれるかはわからない。



王にはなれないものの、せっかく皆に認められ始めたイツキなのに、こんな女(わたし)と結婚したりしたらまた嫌な思いをさせてしまうのではないだろうか。



イツキは、もっと普通で真っ当な人を妻に迎えるべきである。

たとえば、レイのような。



いっそ、このままサピエに移り住んであの女性のように学校でも作ろうか。


ああ、でもイツキの声が聞けないなんて耐えられない。

嫌われていると思っていたときはもう関わらないつもりだったのに、なんて現金なんだろう。





「ミチル」



ああ、イツキさまの声が聞こえる気がする。



「ミチル、返事がないから勝手に入ったぞ」

「…幻聴まで聞こえるなんて、末期だわ」



ククッと笑った気配がすると、それはすぐ隣に腰をおろした。



「幻聴じゃない。ミチル、俺だよ。顔をあげてくれ」



かばっと起き上がれば、そこにはロイスタリアにいるはずのイツキがいた。



「な、んで…イツキさまが?」

「そんなの、ミチルに会いたかったからに決まっている。帰ってくるのを待っていたらいつになるかわからなかったから」


「なぜこんな夜中に?」

「明日会いに来るはずだったんだが、待ちきれなくてサピエの城からこっそり抜け出してきた」



リーディングなんかしなくたって、わかる。



イツキの瞳にはミチルへの愛が溢れていた。




「…どうして?」

「ミチルに、伝えたいことがあるんだ」



イツキはミチルから離れると、一輪の花をミチルに向かって捧げ持つ。

月光に照らされたそれは一枚の絵画のように美しい。



「俺はミチルのことを一番に大切に思い、愛し、生涯守ると誓う。苦しみを分かち合い、幸福を共にしたい」



誓いの言葉に心臓がぎゅうっと締め付けられる。


なにも考えずその花を受け取って、彼の胸に飛び込みたい。


けれど、私では!



「俺はミチルに傍にいてほしい。ミチルの隣にいるのは自分でありたい。何かあったらミチルに一番に聞いてほしいし、ミチルの話なら何でなくとも俺が聞いてやりたい」



わ、私では…



「朝一番にミチルの顔を見たいし、夜もミチルの顔を見て眠りたい。ミチルが体調を崩したときには真っ先に駆けつけたい。真っ白なドレスを着たミチルの隣を歩くのは俺でありたいし、脱がせるのも」

「ストップ、ストーップ!わかりました!わかりましたから!」


「では、花を受け取ってもらえるか?」



イツキは、両親から聞いたのだろうか。

フローディア家にしかないその花を、一輪の贈る意味は。




「私で、良いのですか」

「ミチルが、良いんだ」



イツキが、改めて花をミチルに捧げる。


ミチルはベッドからおりるとその花を受け取り、ムシャリとその花弁を食べ始めた。



「み、ミチル?」

「ふふ、この花はこういうものなのです」



魔法も魔導具もない、この世界のただひとつの不思議。

愛を糧に咲く花、フローディア。



『イツキさま』

『ミチルの王子さま』

『好き』

『大好き』



愛する者へ、気持ちを伝えてくれる花。


それはまるで、読人の力のよう。



「な、なんだこれは…」



突如として、リーディングしたかのように脳に直接聞こえてきた、甘い刺激を帯びたその声にイツキは驚き、その内容に顔を赤くする。



「家のものから聞きませんでしたか?

この花は愛を込めてから愛する人に食べさせると、両想いならその人の声が聞こえてくるのです。

込める愛が嘘でも、受け止めるものの愛が偽物でも駄目。


どちらもが『真実の愛』であることを証明する」


「成る程、だから意味が『真実の愛』」



そう。

ゆえにこの花の力によって、もうミチルの想いはバレバレである。



「では、改めまして。


ーー俺と結婚してください」






ああ、みちる。

こんな幸せなことがあっていいのかしら。


イツキさまのためになることをして存分に生きようって思っていたけれど、その上傍にいれるなんて。










差し出された手を受け取ると、二つの影は一つに重なった。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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