42話
早朝の王都。
その冒険者養成所前にエフィムたちはいた。
「ちょっと、ここは貴方の古巣じゃない。今更何の用よ?」
そういうのは皐月だ。
「今更前のメンバーの方が良かったとか言われても困るんだからね?」
エフィムは苦笑いで返した。
「違う、そうじゃない。話していなかったが魔王を復活させた場所はここなんだ」
三人は驚愕に顔を染めた。
「ちょ、ちょっとエフィムさん、その口振りからすると魔王を復活させたのはエフィムさんってことになりますよ?」
雄治が舌をもつれさせながら尋ねてくる。
う~ん、あの場合は何と言えばいいんだろうな。
俺の手じゃなくてリリー教官の手の上だからな。
――まあ、いいか。
「俺ではないが、きっかけは俺になるのかな」
「きっかけってエフィム、お前はとんでもない事に関わってるな」
呆れ気味に言うのは庄治だ。
そうだな、今考えればとんでもないことだ。
エフィムは豪快に笑った。
「宿命みたいなものだろうさ」
「それで、迷宮に心当たりがあるって言ってたけど、どこなのよ」
皐月が尋ねる。
エフィムは言った。
「その心当たりに今から会いに行くんだよ」
エフィムはそういうと三人を引き連れ歩き出した。
歩くこと数十分、エフィムは目的の場所に着いていた。
一際重そうな木の扉が四人の眼前にはあった。
「ここがそうなの?」
皐月がいぶかしむような視線をエフィムに向ける。
「随分と年季の入った扉だな」
庄治が見たままの感想を漏らす。
「ああ、この王国一番の魔法使いがこの中にいる。そうですよね、ディソバン校長!」
エフィムの声に呼応するかのように扉がゆっくりと開いた。
「――入りなさい」
しわがれたその声に誘われるように四人は部屋へと入っていった。
「お久しぶりです、校長先生」
エフィムは椅子に腰掛けている人物に頭を下げた。
「ほっほっほ、今をときめく勇者が何のようじゃね」
ディソバンはそういって陽気に笑う。
「校長先生、昨夜、新たな迷宮が姿を現しました」
「ほう、新たな迷宮のう」
「これが図です」
エフィムはディソバンの前に先ほどまで皐月の説得のために使った地図を広げて見せた。
「これは――」
先ほどまで陽気だったディソバンの雰囲気が一変する。
「この歪な五芒星、そして四隅を囲む新たな迷宮、どれもがこの王都を指しているように思えてなりません。校長先生、勇者のパーティメンバーだった貴方なら何かご存知のはずです。それをお教え下さいませんか?」
勇者のパーティメンバー。その言葉にエフィム以外の三人が息を呑む。
だが何よりも、雰囲気を一変させたディソバンに答えがあるとエフィムは考えていた。
「そうか――魔王は余程古巣が好きと見える」
「では!」
「ああそうじゃ、この王都の地下には、封印された迷宮が眠っておる」
どんぴしゃりだ!
「ま、待ってください! 私が聞いた話では、迷宮は魔王討伐後に出現したものだと――」
皐月が慌てて声を上げる。
そう言えば、リリー教官からもそう習ったな。
ディソバンが苦しげな表情で答える。
「正確には違うんじゃよ。迷宮は古きときより存在した。四百年ほど前からかの。そのときは大海嘯なぞ起きないただの迷宮じゃった。それが二百年前、突如として新たな迷宮が出現した。それがここ、王都じゃ」
ディソバンは机を指でとんとんと叩いて見せた。
「それじゃあ、冒険者のくだりは――」
「それは合っておる。飲んだくれだったものたちを組織して、大海嘯に立ち向かったのじゃ。そして、魔王にの」
校長室を静寂が支配した。
口を開いたのは雄治だ。
「ディソバンさん、俺の仮説を聞いてください」
雄治は先ほど馬車内で語った仮説を再び語りだした。
「ありえる話だとは思えませんか?」
ディソバンは無言で目を瞑った。
「今代の勇者の聡きことよ。わしらは無我夢中で魔王と対峙したと言うのに」
「それじゃあ!」
「うむ、可能性は十分にある。だが先走るでないぞ。勇者と冒険者は常に一緒じゃ。冒険者ギルドおよびこの養成所中等部の者たちを露払いとさせてもらおう」
エフィムが肝心なことを尋ねる。
「校長先生、それで迷宮の入り口はどこなんですか?」
ディソバンは重々しく頷いた。
「王城は謁見の間。椅子の下に隠し通路がある。そこから迷宮内に潜入できるようになっておる」
まさに灯台下暗しって奴だな。
「それでは今代の勇者よ、先ずはゆっくりと英気を養いなされ。魔王との一戦はこれまでに無い戦いとなろうからのう」
ディソバンはそういうと立ち上がった。
「校長先生はこれから何を?」
エフィムの問いにディソバンは陽気に笑って見せた。
「なに、今代の王に話を通しに行くのと、ちょっとした露払いをのう」
それから一晩が経った。
王城の謁見の間には冒険者たちが我も我もと詰めかけていた。
目指すは王城地下にある封印されし迷宮である。
その長蛇の列を眺めるのは四人。
エフィムを含む勇者パーティである。
「いいのかな、こんなことしてて」
呟いたのは皐月である。
「こんなこととは?」
聞き返すのはエフィムだ。
「冒険者の人たちに先陣をきらせてることよ。あたし達勇者パーティが先に行くべきなんじゃないの?」
その答えに、エフィムは豪快に笑って見せた。
「な、何よ、何かおかしなこといった?」
「いやなに、流石は勇者の一人だと思ってな。だが安心しろ、誰も嫌がって迷宮に潜るんじゃない。俺たちの先陣を任されたことに喜び勇んでここに来ているんだ。見ろ」
エフィムは顎で冒険者たちを指し示した。
誰も彼もが目を輝かせて嬉々として迷宮へと潜っていく。
「嬉しくてたまらないのだ。この天下分け目の大決戦に参加できることが。だから余り思いつめるな」
エフィムはそういって籠手ごしに皐月の頭を撫でてやった。
「――ちょっと、子ども扱いは止めてよね」
そこには先ほどまでの申し訳なさそうな皐月ではなく、何時もどおりの強気な皐月が戻ってきていた。
そうこうしている内に、冒険者の列は途絶え、謁見の間にはエフィムたちしかいなくなっていた。
「よし、俺たちも行こう」
雄治がそういって階段に足を向ける。
「いっちょ、やってみますか」
庄治も続く。
「魔王なんて一捻りよ」
皐月も続く。
「爺ちゃん、見ててくれよ……俺、やるからな」
エフィムも続き、謁見の間には誰もいなくなった。




