41話
その日の深夜、盛大な着信音でエフィムは飛び起きた。
「何だこの音は?」
部屋を見渡せば皆がもぞもぞと起き出している。
「女神様からだ!」
そう叫んだのは雄治だった。
エフィムたち三人は急いで雄治のそばまで近寄っていく。
雄治が電話に出る。
「はい、もしもし」
『雄治様ですか?』
「はいそうです」
不思議なもので、話しているのは雄治だけなのに女神の言葉もエフィムには聞こえていた。
二人を見れば動揺などしていないので、これが普通らしかった。
『大変なことが起こりました』
「大変なこととは?」
『新たな迷宮の出現です』
「新たな迷宮ですか?」
『はい、サイヤーン神聖王国内に四箇所、いずれも今までに無い規模のものです』
四箇所同時出現か――臭うな。
魔王までの道筋が現れたと考えてよさそうだぞ。
そんな思いを雄治も思い浮かんだのか、険しい表情をしている。
「場所は今までどおりスマフォに示せますか?」
『はい、可能です』
「それでは、これより討伐に向かいます。魔王への道筋が現れた、そんな感じがするんです」
『分かりました。でもどうかお気をつけて』
「分かりました」
『それでは、皆様が無事なよう祈っております』
「それでは」
雄治はそういうと通話を切った。
「みんな、聞いての通りだ」
「ああ、きな臭い臭いがぷんぷんするぜ」
庄治が言う。
続くのは皐月だ。
「魔王への道筋、一年かけてやっと掴んだ感じね」
雄治が答える。
「ああ、やっと掴んだ手がかりだ。何としても魔王への道を切り開かなきゃ」
エフィムが尋ねる。
「早速討伐といきたいところだが、皆身体は大丈夫か?」
その問いに三人が笑って答えた。
「こちとらチートもちよ? 馬鹿にされちゃ困るわ」
「そうだぜ。それにこの一年間各国の迷宮を踏破し続けてきたんだ。チートだけじゃないところも見てもらいたいね」
「エフィムさん、大丈夫ですよ。俺たちだってこの一年間遊んでたわけじゃないんですから」
皆が皆自信のある答えだった。
余計な気配りだったか。
頭を掻いたのはエフィムだ。
「よし、それじゃあ早速準備しよう」
雄治の言葉に各々が頷いた。
そして、謁見の間へ。
「なんと、我が国に新たな迷宮とな!?」
王は雄治の言葉に心底驚いた風だった。
「はい、王様。つきましてはこれより討伐に向かおうかと思っております」
王は思案気に答える。
「――あい分かった、護衛に重騎士四十騎をつけよう。勇者よ、無事に帰ってくるのだぞ」
そして四人は再び車上の人となった。
現れた迷宮は四箇所。
どれもが王国の四隅に現れた感じとなっていた。
「何だか、結界を結んでるような形ね」
迷宮の配置を見てそうこぼしたのは皐月だ。
「結界だって?」
庄治も同じく迷宮の配置を見ながら言う。
「うん、この四隅に配置された迷宮を線で結ぶと――」
皐月が地図に何やら書き込んでいく。
「ほら、丁度線が王都の上でクロスするの」
その通りだった。
その地図を見ながら何やら思案している雄治。
すると雄治はスマフォを取り出して何やら電話をかけだした。
『はい、雄治様、どうなされました?』
女神様に電話をかけていたのか、そりゃそうだよな。
だが、何か気付いたことでもあったのだろうか?
「女神様、単刀直入にお聞きします。二百年前魔王が倒された地はどこですか?」
『それは――』
女神様は一旦言葉に詰まったようだったが、やがて口を開いた。
『サイヤーン神聖王国の王都です。過去、あそこには迷宮がありました。ですが現在は機能しなくなっているはずです』
「それだけ聞ければ十分です。ありがとうございました」
「雄治、どうした?」
エフィムが尋ねると、雄治は語りだした。
「皐月が言った結界って言うのは、強ち間違いじゃない。この四隅に出来た迷宮は要は囮なんだ。本命は王都にある迷宮。そこにエネルギーを送っているエンジンがこの四箇所の迷宮なんだ」
「だが、先ほどはもう機能していないと女神様が仰っていたじゃないか」
尤もな理由を庄治が述べる。
だが雄治は首を横に振る。
「今はまだ機能していないだけだ。いずれこの四箇所の迷宮が本格的に機能しだせば、王都の迷宮も動き出す。そうなってからじゃ遅いんだ」
何時にない力強い雄治の言葉だった。
その言葉を聞いているとそれが真実のように感じてしまう。
だがその言葉に冷や水をかけるものがいた。
「その説の根拠は?」
皐月だ。
雄治の眉間の皺がより一層深くなる。
「――ない。全部勘だ」
さつきがやれやれと言った風に肩を竦める
「それじゃあお話にならないじゃない。今は先ず迷宮の踏破を考えなくちゃならない時なんじゃない?」
「――俺も皐月に賛成だ」
庄治がそう言う。
「雄治、らしくないぞ、根拠の無い推論だけでものを語るだなんて」
庄治がたしなめるように雄治に語りかける。
だが雄治は止まらない。
「ああ、根拠は無いさ。全部俺の妄想かもしれない。だけど胸がざわつくんだ! 勘がそういってるんだよ!」
珍しく声を荒げる雄治。
胸のざわつき、勘がそういう、か。
覚えがあるな、初めて迷宮に潜ったときだ。
あのときの俺も雄治と同じだった。
エフィムは大音声を張り上げていった。
「馬車を戻せー! 敵は王都に在り!」
その声に反応して、馬車が向きを変え、来た道を戻りだす。
「ちょっと、まだ結論はでてないわよ!」
突っ掛かってくるのは皐月だ。
俺は煙草を取り出すと、マッチで火をつけた。
紫煙を胸一杯に吸い込み、吐き出す。
「現勇者と先代勇者の孫の勘だ。そこらの占い師よりよく当たるぞ」
「だから根拠が――」
「根拠ならある」
俺がそういうと皐月は黙り込んだ。
俺は地図に書き込みをしていく。
今ある迷宮を線で結ぶと――。
「嘘――歪だけど五芒星。それも、王都が中心付近に……」
「迷宮の場所にも心当たりがある。今は俺たちを信じて付いてきてくれ」
皐月は力なく頷くのだった。




