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煙草一本  作者: 若旦那
中等部編
23/45

22話

 あけて翌日、エフィムは魔道式時計のアラーム音で目を覚ました。

 時刻は六時十五分。何時もの時間である。

 エフィムは衣装箪笥から新しい服を引っ張り出すと、朝の一服と煙草に火をつけた。

「ふぅー」

 そして胸いっぱいに吸い込んだ紫煙を吐き出す。至福の一時だ。

 暫くそうしていたエフィムだったが、やがて終わりの時がおとずれる。

 エフィムは短くなった煙草を名残惜しそうに消すと、おもむろに立ち上がった。

「飯でも食いに行くか」

 時刻は六時三十分。丁度いい時間だ。

 食堂に着くとエフィムはトレイに小皿を山と積むと定位置へと向かった。

 すると、そこには既に先客がいた。

 ゼルブだ。

 昨日の夕食時に運んできたゼルブ用の椅子に座って食事を摂っている。

 その量はエフィムに負けないほど大量であった。

「よおゼルブ、おはよう」

 エフィムの声にゼルブが顔を上げる。

「よおエフィム、先に頂いてるぜ」

 ゼルブはそういうとまた朝食を摂り始めた。

 俺も食べるとするか。

 エフィムもまた椅子に座ると朝食を摂るのだった。

 ぷからぷからと紫煙が漂う。

 エフィムは食後の一服をきめているところだった。

 そんなエフィムをゼルブが興味深そうに見遣っている。

 沈黙が二人を支配していた。

「なあエフィム」

 結局口を開いたのはゼルブのほうだった。

「何だゼルブ」

「それ、昨日も吸っていたが、旨いのか?」

 ゼルブはそういって煙草を指差した。

 そんなことか、とエフィムは懐から煙草を一本取り出した。

「吸ってみろ。それが一番手っ取り早い」

「そういうものか?」

「そういうものだ」

 ゼルブは恐る恐るといった風で煙草に口をつけた。

 エフィムはマッチで煙草に火をつけてやる。

 すると――。

「ほぉ、確かにこれは乙なもんだ」

 旨そうに煙草を吸うゼルブの姿があった。

「一度知ったら病み付きになるぞ」

「ああ、もうなってる」

 ゼルブはそういって豪快に笑った。

 つられてエフィムも笑うのだった。

 時は移り、教室である。

「あー、エフィム君とゼルブだ!」

「やあ二人とも、おはよう」

 エリクとラインが声をかけてきた。

 エリクはゼルブとそりが合わないのか呼び捨てである。

 尤も、それを気にするゼルブではないが。

「エリク、ラインおはよう」

「ラインに子娘、おはようだ」

 あまつさえこういう始末である。

「きー! また小娘って言ったあ! 僕にはエリクって名前があるんだよ!? エ・リ・ク!」

「はいはい、エリク。これで満足か、小娘」

「だから――」

 ラインが苦笑いを浮かべながらエフィムに近寄ってくる。

「いいのかい? あれを放っておいて」

 あれとは、勿論エリクとゼルブの口論――じゃれあっているとも言う――を指す。

「いいんだ。喧嘩するほど仲がいいともいうだろう?」

「それもそうだね」

 結局エリクとゼルブのやり取りは始業の鐘が鳴るまで続いたのだった。

「よーし、大体は揃ってるなあ、偉いぞ」

 リリーは若干の欠員が見られる教室を見渡していった。

 欠席しているのはクエストを受けている生徒だろう。

「今回は魔道具と魔道式機械についてだったな」

 リリーはそういいながら教壇に立つ。

 その手にはなにやら小さなものがごちゃごちゃと乗っている。

 それを教壇の上にぶちまけるリリー。

「今回は実物を持ってきたからな。よーく学習しろよ?」

 リリーはそういって笑って見せた。

「まずは魔道具からだが、こいつらは魔法の代替品だと思ってもらえばいい。えーと、これかな?」

 リリーはそういって教壇の上から短剣を一つ取り出した。

 変わっている点といえば、柄の部分に宝玉が埋め込められている点だろうか?

「これにはウインドカッターの魔法が込められている魔道具だ。短剣としても使えるのが利点だな。魔道具には他にもアクセサリー型や防具型など様々な形がある。総じて魔法の力が込められているのが共通点だ。利点は詠唱が必要ない点と魔力を消費しないこと。欠点は魔力切れと魔素切れがあるところだな。こればっかりは魔道具師と呼ばれる専門職に頼むしかない。次は、これだ」

 そういってリリーは短剣を置くと、なにやら小さなアクセサリーのようなものを取り出した。

「魔道式懐中時計だ。高価なもんだぞー」

 リリーはその懐中時計を見せびらかすようにクラス中を歩き回った。

「こういった魔道式機械は専ら生活に結びついたところに散見される。魔道式コンロや魔道式時計が代表的だな。こいつらは魔道具と違ってからくりが仕込まれている。また、魔道具と違って耐用年数が桁違いに長い。魔道具がモノによれば数十回で使用限界が来るのに対し、こちらは年単位だ。欠点は魔道具と同じ、ついでにからくりが壊れても駄目だ。こちらは機械師という専門職がいるからそちらに頼むしかない」

 ここで丁度鐘がなった。

「よーし、次回は迷宮と魔素についてのおさらいだ。初等部の頃のおさらいだから別に出席しなくてもいいぞー」

 リリーはそんな気の抜けることを言って教室を出て行く。

「エリク、ライン、ゼルブ」

 エフィムも顔なじみを連れて教室を後にした。

「ごごはどうするー?」

 昼食後に口を開いたのは例によってエリクだ。

「クエスト受注所でも見に行かないかい?」

 話題に乗っかったのはラインだ。

 確かに昨日はゼルブの勧誘のごたごたでまともに受注所を見ることが叶わなかった。

 この機会に見学しておくこともいいだろう。

「ゼルブ、どうだ?」

「俺は構わんぞ」

「よし、なら行くか」

 全員が受注所に行くと言う意見で固まった。

 そして場は移りクエスト受注所へ。

 中等部専門のクエスト受注所は閑散としている。

 理由はクラスが減ったことといっらいの難易度が上がったことによるクエスト受注期間の延長によるものだ。

「ねーエフィム君、どのクエスト受注するー?」

 案内板を見ていたエリクがエフィムに声をかける。

 受注所のそこここを見ていたエフィムはどたどたと案内板に近寄る。

 ふむ、ゴブリンの心臓収集クエストに、ジャイアントアント討伐依頼――お、オークの心臓収集クエストなんてのもあるな。迷宮系でも高位なほうだな。

 それに……賊討伐か。嫌なものだが仕方が無い、か。

「僕はねー、ゴブリンの心臓収集をやってみたいなー」

「俺はジャイアントアントの討伐かな、民の安全を守らないと」

 エリクとラインが好き好きに言い合う。

 エフィムは黙ったままのゼルブに話を振ることにした。

「俺は、これがいい」

 ゼルブは無意識に皆が避けていた賊討伐の受注書を指差した。

「ゼルブ、それは――」

 エフィムは言葉に詰まった。

 賊討伐にはいい思い出がないから止めましょうとでも言う気か?

 そんな事は逃げじゃないのか?

 俺は懐から煙草を一本取り出した。

 マッチで火をつけると、辛味の効いた葉っぱの味が口腔に広がる。

 煙草一本。

 煙草一本吸っている間だけは――爺ちゃんのように強く。

「よし、受けよう」

「エフィム君!?」

 エリクが驚いたように振り返る。

 その瞳には驚きの色と恐怖の色が混ざり合っているようだった。

 俺はそんなエリクの頭を撫でながら言った。

「エリク、冒険者なら乗り越えなくちゃならない問題だ。何時までも怖がってちゃ、先へは進めない」

 エリクの瞳が不安げに揺れる。

 だが、直ぐに何時もどおりの意志の強い瞳が帰ってきた。

「……うん、そうだよね。何時までも逃げてちゃいけないんだ」

 ゼルブは何かを感じ取ったのだろう、黙ったままだった。

「ゼルブ、それとって。僕がやってくる」

「――ああ、いいぞ。ほれ」

 ゼルブが無造作に受注書を取ると、エリクがそれを受け取った。

 彼女なりの決意表明なのだろう、その足で受付へと向かう。

「ゼルブ」

「なんだ」

「いいきっかけ作りになった。ありがとう」

 ゼルブは俺の言葉にむず痒そうに身体をくねらすのだった。

何でも受け付けております

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