21話
冒険者養成所の中等部へは全クラス持ち上がりで行われる。
しかし、当然クラスによってはグライフのような金銭的な理由や早く冒険者になりたいとの要望で初等部で卒業してしまい、人数にばらつきが出る場合が多い。
そのため、クラス再編が行われるのは必然だった。
この年は、結局計四クラスに再編された。
また、宿舎や校舎も別になるため、引越し作業が行われる。これには中等部専用のクエスト受注所などの存在が絡んできている。
流石に初等部と同じ受注所では人数やクエストの難易度の問題で支障がでるため、中等部専用の受注所が存在するのだ。
ここから難易度的に問題ないと判断されたものが初等部のクエスト受注所に降りていく形式となっている。
あくまでも余りが出ればとの但し書きがつくが。
エフィムはと言えば、既に引越し作業も終え、後は新クラスの顔合わせに出席するのみとなっていた。
「新クラスか、どんな顔ぶれになるのやら」
紫煙を燻らせながら、エフィムはそう一人ごちた。
「っと、もうこんな時間か。急がねば遅刻してしまう」
時刻は八時十分を指していた。
エフィムは勝手の違う中等部校舎を四苦八苦しながら歩いていた。
「いかん、いかんぞ」
エフィムは例によって迷っていた。
エフィムは最終手段として鼻をフゴフゴさせた。匂いによって場所を特定しようと言うのだ。
「――む、こちらから大勢の人の匂いがするな」
エフィムは当たりをつけるとそちらへ向かうことにした。
すると、案の定クラス名簿を貼り付けた掲示板と思しき物の前に無数の人だかりが出来ていた。
当たりだ、エフィムは内心ガッツポーズを決めていた。
早速クラス名簿に目を通すが、案の定と言うか、当然一組だった。
エフィムは足早にその場を後にすると一組へと入っていった。
「あ~! エフィム君だ! 遅いよ、もう」
エフィムは一組へ入った途端、エリクに声をかけられた。
何の騒ぎだと目をやれば、エフィム用の椅子には既に先客が座っていた。
背丈はエフィムと同じぐらいだろうか。体格も似たり寄ったりだ。クラスを見渡してみるが、当然そんな人物が座れるような椅子は他に存在しない。
はて、こんな人物が俺の他にもいただろうか。
エフィムは首をかしげながら、とりあえず当該の人物に声をかけることにした。
「だから、そこはエフィム君の席なんだって! よけなさいよ!」
エリクがその人物に対して怒声を発する。
キャンキャンキャンキャンと喧しいだろうに、座っている相手はどこ吹く風だ。暖簾にうで押しと呼べばいいのかもしれない。
よくもまあ耐えられるものだと、エフィムは他人事ながら感心していた。
「おい、すまんがそこは俺の席なのだ。よけてくれないか?」
エフィムが声をかけると、そこで初めて相手は振り向いた。
「おい、エフィム・フォン・トォバ。この煩い小娘を黙らせろ」
轟然と言い放ったのは、赤褐色の肌に額に二本の角を生やした、一般的にオーガと言われる人物だった。
そして、エフィムはこの相手と面識があった。
「お前は――」
そこに座っていたのはゼルブ・フォン・ラディーン、初等部一年で開催されたクラス別対抗戦でエフィムに負かされた人物だった。
「そう言われてもな、そこが俺の席なのは純然たる事実だ。まずはどいてもらおうか」
エフィムの言葉に渋々といった感じでゼルブは立ち上がった。
その表情は憮然としたものだ。
「俺はどこに座ればいい?」
「知らないよーだ!」
エフィムはあくまで喧嘩腰のエリクを宥めることにした。
「エリク、何があったかは聞かんが、その態度は止めろ。相手に失礼だ」
「じゃあ小娘って言ったこと撤回してよ!」
エリクの言うことも尤もだった。
「ゼルブ、すまんが撤回してくれんか?」
ゼルブはエフィムの言葉にもう一度エリクを見遣った。
暫くそうしていたが、フンと鼻を鳴らしただけだった。
「キー! 何よその態度は!?」
「小娘に小娘といって何が悪い。もう少し色んなところを成長させてから言うんだな」
――躊躇いもなく地雷を踏み抜いたな。
結局二人のいい争い――エリクが一方的に捲くし立てるだけだったが――はリリーがゼルブ用の椅子を持ってくるまで続いたのだった。
「よーしガキども、席に付いたな?」
リリーがクラスを見渡して言う。
クラスの持ち上がりには当然教官も付随してくる。
そのため、一組の担当教官はリリーのままだった。
「それでは今日は中等部用の講義を行う」
リリーはチョークを持って教壇に上がった。
「まあ中等部用なんていっても初等部のおさらいみたいなもんだからあんまり身構えて聞く必要もないがな」
リリー教官、教官がそんなことを言っては駄目だろう。
案の定教室は弛緩した空気に包まれた。
「エーと、それじゃあドロップ品の説明からいくか」
リリーが黒板に向き直る。
「ドロップ品は魔物が魔素に帰る際落とすもんだ。魔素の塊だっていうのが定説になってる。だが中には短剣や何時の時代のものかも分からないコインなんかを落とす場合もあるから、この説も眉唾もんだな。で、だ、前にも話したが魔素って言うのは迷宮外にも存在している物質だ。この魔素の塊がなきゃ作れないものが存在する。何だか分かるかー?」
リリーが教室中を見渡すが誰も答えられない。
かくいうエフィムもその一人だった。本の虫だった幼少期。そこで魔素という存在を知ったがそれがどう活用されているのかまでは知らなかった。
「正解を言おう。魔道具だ。魔道式と呼ばれる機械も含まれる。これらは魔力を込めただけじゃ動かない。魔素の塊であるドロップ品――そうだな、ゴブリンの心臓とかが分かりやすいか。とにかく、それがないとただのガラクタに成り下がる。迷宮が現れて以来二百年、文明人の生活は迷宮に支えられているといってもいいのが現状だ。いいか、だから冒険者は必要不可欠な存在なんだ」
ここでお昼の鐘がなった。
「よーし、それじゃあ次回は魔道具、魔道式機械について解説するからクエストで用のあるもの以外は出席するよーに。解散!」
リリーの言葉にぞろぞろと教室を出て行く生徒達。
「おーい、ライン、エリク」
エフィムもその流れに続こうと見知った二人に声をかけた。
「やあエフィム、朝は災難だったね」
「災難なのは僕のほうだよライン君!」
エリクの言葉に苦笑いを浮かべながら教室を後にする二人だった。
その日の午後、クエスト受注所にて、エフィムは珍しいものを見た。
ゼルブだ。
一人ぽつねんと案内板を見ているのだからいやでも目に付く。
「あれ? ゼルブだね」
「あ、本当だ!」
連れの二人も気が付いたようだった。
「ちょっと声をかけてくる」
エフィムは二人にそういい残すとゼルブへ近寄っていった。
「よおゼルブ、一人か?」
「……エフィムか。何のようだ?」
「いやなに、一人でいるようだったからな。パーティメンバーはどうした?」
エフィムの言葉にゼルブは苦虫を噛み潰したような表情を作った。
「俺のメンバーなら、全員冒険者になっちまったよ」
ゼルブは憮然とした表情で答えた。
「――そうか、なら丁度いい。俺たちのパーティに入らないか? こちらも一人抜けたところなんだ」
エフィムの言葉にゼルブは暫し呆然としていた。
しかし、我に返ると怪訝そうな表情をエフィムに向けてくる。
「何故俺なんだ?」
「そうだな……」
エフィムは煙草を一本取り出し、紫煙を燻らせた。
「オーガゆえの怪力、耐久力、体力それと――」
エフィムは無造作にゼルブの手を取った。
「剣だこが出来るほどの努力家。こんないい人材を他のパーティに取られちゃ勿体無いから、じゃあ、納得できないか?」
ゼルブはエフィムの言葉を噛み締めているようだった。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「俺は安くないぞ?」
「安心しろ、俺だって安くはない」
知っているだろうとエフィムが暗に伝えると、ゼルブは豪快に笑った。
「このゼルブ・フォン・ラディーンを従えるんだ。弱いパーティだったら承知せんぞ?」
「安心しろ」
エフィムはそこで連れ合いの二人を招き寄せた。
「この学年一のパーティだ」
この日、エフィムたちのパーティに新たなメンバーが加わった。
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