↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都暦局が廃止されたので、曜日のない辺境へ赴任した俺。誕生日も祭りもない町に日付を与えたら、止まっていた一年が動き始めた  作者: やまご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/50

第47話 七つの町が同じ十三日を証言する

 零年化が完了する朝、七都市の暦板には同じ問いが現れた。


 ――王暦六百十三年、鉄月十三日は存在したか。


 中央暦院からの質問ではない。


 廃止された王都暦局の地下にある、公開暦鐘から送られた確認文だった。


 答えは、存在したか、存在しなかったか。


 どちらかを選べばよいわけではない。


 各都市が、その日を他の日と区別できる証拠を示さなければ、証言として認められない。


「全員で『あった』と書くだけでは駄目なの?」


 リノが尋ねる。


「同じ間違いを七回繰り返している可能性があります」


 ノアは七都市観測板の前へ、長い紙を広げた。


「証拠まで同じものを写しても、七つの証言にはなりません」


「町ごとに違うものが必要?」


「はい。そして、その違う証拠が同じ一日へつながる必要があります」


 十三年前の鉄月十三日。


 中央暦院は、その一日を王国暦から消した。


 七都市から集められた土地の異議申立ては、提出期限を過ぎたものとして無効にされた。


 旧観測宿へ集まった人々は、存在しない日に滞在した者となり、名前を失った。


 青い布に包まれていたノアの出生記録も、その日に隠された。


 その日が存在したと証明できれば、中央が無効とした土地証書も、人々の滞在も、ノアの出生記録も、再び審査の対象へ戻せる。


「最初に、事実を分けます」


 ノアは共同記録へ三つの項目を書いた。


 七都市の代表が、それぞれの町を出発した。


 代表たちは旧観測宿へ到着した。


 土地証書への異議を、中央へ届けようとした。


「全員が一緒にいるところを見た人は?」


 ミラが尋ねる。


「旧観測宿にいた方々です」


 エレナとルカ。


 名前を失ったままの宿泊者たち。


 だが彼らの証言だけでは、宿に来た人々が本当に七都市の代表だったかを確定できない。


 そのため、各都市が出発を証明する。


「エルデは、私が証言する」


 エレナが七本の切れ目を入れたパン板を置いた。


「鉄月十三日の前夜、町の窯で十人分のパンを焼いた。七都市へ持っていく分には、七本の切れ目を入れた」


「窯の記録は?」


 ミラが古い焼成板を持ってくる。


 火を入れた回数。


 使った粉の量。


 焼いたパンの数。


 日付欄は消えているが、その前には白鐘花の配達、その後には中央役人による窯の封鎖が記録されている。


「ほかの日と区別できます」


 ノアが確認印を押した。


 エルデの証拠は、七本切れ目のパン板と窯記録。


 次にネーヴァ。


 観測板から白い花弁が一枚送られてきた。


 白鐘花。


 十三年前、季節外れの寒さの中で開いた花だった。


 町の花守りは、その日、中央へ春季訂正を申請するため、代表へ球根と観測札を渡していた。


 雪の深さ。


 川の解氷。


 最初に開いた花。


 三つが記された板が、今も大鐘の裏に残っている。


 ――ネーヴァ代表、白鐘花と観測札を持ち出した。


 ネーヴァの住民たちが署名する。


 三つ目はグランザ。


 坑道から、青黒い鉱石片が届いた。


 表面へ、十三本の細い傷がついている。


 鉱車の数ではない。


 代表が旧観測宿へ向かう前、下層坑道の支柱を十三本補修し、作業を交代した印だった。


 勤務鐘の縄にも、同じ十三の結び目が残る。


 ――補修完了後、土地採掘権の異議書を持って出発。


 四十三人の坑夫と、その帰りを待つ家族が証言した。


 セレノからは、赤い帆布と釣り針。


 サラが運んだ七都市の手紙。


 入港縄。


 二十七袋の荷役跡。


 ――鉄月十三日の朝、セレノ代表が旧観測宿へ向けて出港。


 ――後に七都市の異議書を預かり、中央中継港へ発送。


 ハルムは、三粒の種麦を送った。


 アイラが十三年間守ってきた種の最初の世代。


 種倉の古い板には、代表へ渡した麦花の束と、共同畑の土地証書が記されている。


 花を川へ流した三日後、セレノへ白い花びらが届いた。


 異なる町の記録が、同じ流れへつながった。


 ヴァルドからは、終戦鐘の欠けた打ち金と、中央文書庫から取り戻した土地証書。


 鉄月十四日に戦争が終わったことは、すでに復元されている。


「十四日の前日は、十三日です」


 リノが言った。


「数字だけなら、そうです」


 ノアは首を振った。


「ですが、十三日が中央暦から消されたあと、十四日が十二日の次に来たと処理されています」


「そんなの、ずるい」


「ですから、数字ではなく出来事を示します」


 十三日の夜、停戦使者がヴァルドへ到着した。


 十四日の夜明け、両軍が武器を置いた。


 使者へ出された食事。


 馬を替えた記録。


 城門を開いた番兵。


 十三日の出来事がなければ、十四日の終戦へつながらない。


 六つの都市から証拠がそろった。


 だが、ラウゼンだけが応答しなかった。


「観測線は切れていません」


 レグナートが林檎の印を調べる。


「町は聞いている」


「証拠がないの?」


 リノが尋ねる。


 しばらくして、ラウゼンから短い文章が届いた。


 ――提出できない。


 ――中央再登録官が果樹園を封鎖。


 ――十三日を証言すれば、全農地を未登録地とする。


 ラウゼンの林檎畑は、中央との取引で暮らしている。


 証言すれば、今年だけではない。


 木も、土地も、果実も、誰のものでもないとされる。


「無理に求められません」


 ノアは言った。


「でも、七都市必要なんでしょう」


「必要です」


「ラウゼンが言わなかったら、全部零になる」


「だからといって、町の生活を人質に証言させれば、中央と同じです」


 観測板の前が静かになる。


 残された時間は短い。


 中央大暦鐘が鳴るまで、あと一度の無事鐘。


「私たちが持っているラウゼンの証拠は?」


 ミラが尋ねた。


「最初の市場へ来た林檎があります」


 エルデへ届いた林檎はすでに食べられている。


 種は残してあった。


 だが、それは最近ラウゼンから届いたものだ。


 十三年前の代表が町を出た証拠にはならない。


「木は?」


 エレナが尋ねる。


「林檎の木そのもの」


 果樹は、毎年同じ枝に実をつけるわけではない。


 剪定され、接ぎ木され、傷を治しながら大きくなる。


 代表が持ち出した異議書には、奪われる予定だった果樹園の区画と、植えられている木の数が書かれていた。


「十三年前の木が残っていれば、土地が使われ続けた証拠になります」


「でも、その日に代表が出た証拠は?」


「木へ残っている可能性があります」


 ノアはラウゼンへ、質問だけを送った。


 ――代表が出発した日、果樹園で何がありましたか。


 返事はない。


 代わりに、中央再登録官の命令が観測板へ割り込む。


 ――地方間通信を停止せよ。


 ――ラウゼンの土地証言は無効。


 ――返答した者は、農地の不法占有者として拘束する。


「名前を書かなければいいのでは?」


 リノが言った。


「誰の証言か分からなければ、正式な確認にはなりません」


「町の人じゃなくて、木が答えたら?」


 ノアは少女を見る。


「木は文字を書けません」


「でも、何年生きたかは分かるんでしょう」


 切り倒せば年輪を数えられる。


 だが証明のために、十三年育てた木を失わせるわけにはいかない。


「切らずに確認する方法は?」


 オルガが尋ねる。


「枝の傷や、接ぎ木の跡を調べます」


 ラウゼンの果樹農家へ、名前を求めない作業指示を送った。


 十三年前の代表が担当していた区画。


 異議書に描かれた木の並び。


 幹へ残る傷。


 住民が証言しなくても、中央再登録官の立会いで現物を確認させる。


 しばらくして、林檎の印から映像のような輪郭が浮かんだ。


 古い果樹園。


 中央役人たち。


 そして、幹に大きな欠け傷がある林檎の木。


 傷は、荷車の軸がぶつかった跡だった。


 鉄月十三日の朝、代表を乗せた荷車が出る際、凍った道で滑って木へ衝突した。


 修理代として渡した林檎籠の記録が、代表の家の壁へ残っている。


 中央再登録官自身が、傷と異議書の木の配置を照合した。


「確認したなら、記録へ署名を」


 ラウゼンの農家が要求する声が届く。


「地方暦へは署名できない」


「なら、中央の現地調査書へ書け」


「何をだ」


「この木が、十三年前から同じ場所にあると」


 再登録官は拒めなかった。


 自分が土地を調査した記録を残さなければ、中央へ任務完了を報告できない。


 ――異議書記載の林檎樹を現地で確認。


 ――幹に古い荷車衝突痕あり。


 ――現在も結実。


 中央再登録官の署名と印。


 ラウゼンの住民は、十三日が存在したとは一言も書かなかった。


 それでも、代表が出発した日の事故を示す木と、中央自身の確認記録がそろった。


「証言者は中央役人?」


 リノが驚く。


「本人は、木を確認しただけです」


 ノアは記録を共同紙へ接続した。


「その事実を、十三年前の荷車記録と照合するのは私たちです」


 七つ目の印が光った。


 公開暦鐘から、最後の問いが届く。


 ――七都市は、同じ出来事を証言するか。


 ノアは共同記録を読み上げた。


「王暦六百十三年、鉄月十三日」


「七都市の代表が、それぞれの町を出発した」


 ミラが続く。


「土地と暮らしを奪われることへ異議を申し立てるため」


 エレナ。


「旧観測宿へ集まり、七つの印と証書を持ち寄った」


 ルカ。


「エドガー・アルデンは、その記録と一人の子どもを守るため、十三日を切り離した」


 レグナート。


「中央暦院は、その日を消し、異議申立てを期限外として処理した」


 七都市の観測線から、一つずつ返事が届く。


 エルデ、証言する。


 ネーヴァ、証言する。


 グランザ、証言する。


 ヴァルド、証言する。


 セレノ、証言する。


 ハルム、証言する。


 最後にラウゼン。


 林檎の印が揺れる。


 中央再登録官の黒印が、観測線を塞ごうと広がった。


 その上へ、果樹園中の木札が重なる。


 農家の名前ではない。


 一番木。


 二番木。


 荷車傷の木。


 井戸の横の木。


 十三年前から手入れされ、今年も実をつけた一本ずつの記録。


 ――ラウゼンは、この土地で暮らしが続いたことを証言する。


 七本の線が、王都へ伸びた。


 廃止された旧暦局の地下で、小さな鐘が鳴る。


 一度。


 音は王都の広場へ届いた。


 二度。


 中央直轄地の暦板へ、七都市共同記録が浮かぶ。


 三度。


 王国中の町と村へ、消された鉄月十三日の文字が戻った。


 中央大暦鐘が、零年化完了を告げようと動く。


 だが鳴らない。


 旧暦局の公開暦鐘が、その鐘の内側から支えていた。


 存在した一日を零へ戻すには、七都市の証拠をすべて否定しなければならない。


 木。


 花。


 鉱石。


 手紙。


 麦。


 終戦記録。


 パン。


 一つの命令では消せない。


 王国中の暦板へ、中央文書庫の隠し記録が続けて公開された。


 土地証書の差替え。


 提出日の改竄。


 エドガーの署名を切り貼りした報告書。


 零番処理された人々の名簿。


 そして、最下段に一つの記録。


 ――青い布の子ども。出生地、王都暦局地下小鐘室。


 ――立会人、エドガー・アルデン。


 ノアは息を止めた。


 出生の日付は、まだ黒く隠されている。


 だが生まれた場所が戻った。


 公開暦鐘の下。


 七都市の声を王国へ届ける部屋。


 中央暦院から、初めて院長自身の言葉が届いた。


 ――七都市共同記録を偽造記録と認定する。


 ――公開暦鐘を停止するため、旧王都暦局を封鎖する。


 ――ノア・アルデンを、王国暦破壊の主犯として拘束する。


 同時に、王都から七都市へ続くすべての道へ黒い壁が現れた。


 旧暦局の鐘は鳴り続けている。


 しかし、その音は少しずつ弱くなっていた。


「誰かが地下で鐘を止めようとしています」


 レグナートが言った。


 ノアは公開された出生記録を写し取る。


 父エドガーが最後に残した記録は、王都にある。


「王都へ行きます」


「道は封鎖されたわ」


 ミラが黒い壁を指す。


 ノアは七都市を結ぶ続日板へ手を置いた。


「中央の道は使いません」


 市場で人から人へ渡った品。


 町から町へ届いた手紙。


 仕事、学び、別れ、休みをつないだ七本の線。


「七都市が作った、続きの道を使います」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。