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美酢(ミッチョ)

そんな12月の中旬のこと。

気が付いたら、河内さんは同じ課の営業マンと一緒にお昼に行く事も無くなっていたようだった。それが、いつからなのかは分からないけど。


河内さんが再び社内でお弁当を食べている事に気が付いたのは偶然だった。

会社が名古屋のビジネス街の伏見にあるので、ランチの値段はそこそこしている。

それと、結構お客さんからの問い合わせも多いので外回りの時はともかく、社内でお昼を取る時は僕は専らカロリーメイトみたいな簡易食と野菜ジュース、それに1リットルサイズの豆乳を買って美酢(ミッチョ)を混ぜて飲んでいた。


だから、以前河内さんに

「冷蔵庫に豆乳と美酢あるから好きに使って良いよ」と言っていたし、美酢を見て興味を持って話し掛けてくる女性スタッフに豆乳と美酢を混ぜて試飲してもらってもいた。


12月中旬のその日も僕はささっと食事というかお腹に適当に詰め込んでいた。すぐに終わるお昼ご飯なので、残りのお昼時間は仕事の続きかタブレットで新聞の電子版を読んでたりしてる。


12時30分頃には豆乳や美酢を社内用の冷蔵庫に戻していたけど、その冷蔵庫は小型サイズなので美酢を立てる事は出来ず寝かせている。


例の総務からのお達しで冷蔵庫はその頃にはすっきりしていた。

美酢を寝かせて置こうとして、栓を甘く閉めたようでふと気が付くと美酢がこぼれてしまった。


『やばいよ、やばい』と出口哲郎並みに慌ててコロナ対策用のウェットティッシュとかで拭いたけど、ウェットティッシュでは全然吸収してくれないから、やはりコロナ対策で置いてあったティッシュも使って拭いていた。


まぁ、ちょうどお昼休みのど真ん中で皆は食事の真っ最中だから誰にも気が付かれずに済んでなんとかなったと思い


『セーフ』

と心の中で叫び冷蔵庫を閉めて振り返ったら、そこに偶然通り掛かったのか河内さんが立っていて近い距離でバチッとモロに目が合った。


一体なんしてるんだろうって顔の河内さん。


「あっ・・・、美酢をこぼしちゃって・・・」


と聞かれてないのに言い訳のように言ってしまった。


「美酢ってどうやって飲んでるの?」


「えーと・・・豆乳のパック買ってあるから、それに混ぜてるよ」


「あ・・・そんな事言ってたね・・・」


河内さんにはこちらがなにを言っても脳味噌にはきっとなにも届いてないし、例えメッセージを送ってもそれが記憶に残る事なんてないんだろうなと思っていたから、美酢の話しを覚えていたのはちょっと意外だった。

『へぇ、この人が俺の話しで覚えていることもあるんだ』って。


もしかしたら、冷蔵庫をゴソゴソ触っていたから冷凍パックのことでも思い出したのだろうか。

まぁ、でもそんな事は期待出来ないし無意味なのは思い知っている。

それにしても、まだ13時前のお昼休憩中なのに執務室に河内さんがいたことに少し違和感を感じた。


いつも一緒に食事に行っていた営業マンは来てるはずなのに、と言うかその営業マンはほぼ毎日会社に来ていて、河内さんがいない時は一人でお昼を食べていて、河内さんが来る日は河内さんと一緒だったはずだから。


少し気になって次の日から注意して見てみることにした。

かつて、洞本さんが年下同僚と噂になった時のようにどちらかと言うと野次馬根性で。


でも、あの洞本さんでもここまで堂々と一緒に行くことはなかった。

そう思うと、毎日来ていて友達っぽい洞本さんなり周りの女性でさりげなく河内さんに

「なんか目立っているから注意したほうが良いよ、本当に仲が良いならもっとこっそりしないと。ただの同僚と思っているなら向こうに勘違いされないにしないと後で大変だよ」

っていう人はいないのだろうか。以前の送別会の時でもそうだったけど、この会社の女性ってホントは冷たいなぁって感じた。


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