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お昼当番

洞本さんの課は女性が5人いて、一週間交代でお昼当番があった。

だから、次のカレーは5週後の7月の頭ぐらいかなって計算していた。


そして、営業に出掛ける時にばったり河内さんとすれ違っても今までは目礼ぐらいだったのが

「ねぇ、ケーキ奢ってよ」

「うーん、時間休とか取れる?」

みたいな感じになってきた。社内だからあまり人に聞かれたくないので、誰かが近づくと会話は終わり

「行ってらっしゃーい」って可愛く送り出される。


やっぱり、一人ぐらい社内にこんな仲の人がいると楽しいなと思っていた6月の終わりごろ。

念のために洞本さんに社内SNSで

【次のお昼当番っていつになる?】

って確認してみた。


≪7月の○○日の週だよー≫

みたいな返事で確認をした。


そして、洞本さんのお昼当番の前週に河内さんとまたエレベーターで一緒になった時に「来週また作るね」みたいな感じで予約を取る。

もう定期的みたいになってきたなあと思っていた。

ところが、直前の金曜日のお昼休みになった時のこと。

お昼に出ようとしたところ、いつも洞本さんとお昼を食べる河内さんが近づいてきた。


あまり執務室内で話すことはないから、どうしたのだろうと思ったら近づいてくるなり、


「次のカレーは辞めとくよ、ホラさんのないから」


「えっ、来週洞本さんはお昼当番だよ」


「違うよ」


「えっ⁇」


すると、洞本さんがお昼ごはんを一緒に行こうと河内さんに近づいてきたので、そこで話しは終わった。

改めて、社内スマホを取り出して社内SNSをチェックしてけど、洞本さんからは確かに来週がお昼当番って書いてある。

まぁ、突然の交代はあってもおかしくはないけど。


と言うよりも、もし僕が同僚女性からお弁当を作ってもらう約束をして、その日が都合悪くなったならばきっと相手に不安や不快感を与えないように


「ごめん、今度のお弁当だけど急に予定が変わってお客さんのとこに行かないといけなくなった。他の日に変えてね。多分、再来週の月曜日なら大丈夫だと思うけどちゃんと確認してまた連絡するね」

とか一生懸命伝えると思う。相手の気持ちや段取りを壊さないように。


なのに、今回の河内さんの表情と態度と口調はまるで「もう私には関わらないでください」と言っているように聞こえた。


代替案も、次の約束があるわけでもない。

ただのメッシーくん扱いで、都合が悪くなればバッサリ切るかのような言葉と態度だった。


一昔前に河内さんがホワイトデーのお礼メールを一斉送信して「この子は良い人だなぁ。里江が河内さんだったらどうなったんだろう。この人の彼や仲良しの男が羨ましいな。きっと、この人は幸せな結婚するんだろうな」と思っていたけど、3月の「奢ってよ」と言われてからのよく分からないやり取りや今回のことで「思っていた人と違うのかなぁ・・・」と感じざるを得なかった。


でも、それは彼女にとって僕が「その程度の人」なんだから仕方ないのかなとも思う。彼女にしてみれば貰い事故でただの迷惑以外の何物でもないのだろう。


それからは不思議と河内さんと「偶然」エレベーターや廊下で会うこともなくなった。

思い返すと、以前LINEのIDを聞いた時はあっさり拒絶された。

この時点で見事な空振りでワンストライク。


奢ってよと言われて、これはヒットかと思ったら、返事が無くなったり、洞本さんが入ってきたりでフェアグラウンドから外れたファールとなり、併せてツーストライク。


そして、今回も空振り。

三球三振だから、もうバッターボックスから去るしかない。そう思った。



2019年の秋。

初夏から河内さんとのやり取りがなくなってもう数ヶ月。


僕の所属する課は某巨大通信企業の代理店業務を行なっているのだけど、その某巨大通信企業からのお達しで個人情報管理を厳重に行う必要があるので、社内で更に小部屋に区切られている。


本当は課の入口にも課員しか入らないように扉を閉めて密室にして専用のカードを持ってないと入らないようにしないといけないけど、流石にそこまですると不便なのと密室感が凄いのでドアだけは開けっ放し。


当時の僕の席から正面を見ると壁なんだけど、左45度の方に視線を向けると出入口を通して社内が見える。但し、そこは通路だから実際は通りすがる社員の横顔がチラリと見える程度。


仕事中にふと顔を上げて、視線を出入口に向けた。パソコンの事務作業に集中していると目が疲れるので視界を遠くに向けようと思って。

その時河内さんがちょうど通り過ぎようとして、偶然バチリと目が合った気がした。一瞬なのでホントに目が合ったのかは分からなかったけど。でも、もし、そうならなんとなく不機嫌そうな顔で。

それとも、あれはただの幻影だったのか・・・。

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