男心検定
2019年4月
河内さんとの食事に行ってから、ふと20年ほど前のくるみのことを思い出した。
歴代で一番仲良くなるのが大変というか意外だったのがくるみだった。
いつもケンカばかり仕掛けてくるので、バイトとしては大切だったけど人間的には合わないと思っていたから。
しかも、美人であるとは思っていたけどキツネ系の顔立ちだったので、タヌキ顔でバイトとしてはダメなことなだけど大声で「ハイ!」と言えず小声で「ぁぃ」としか言えない可愛らしさ満点の郁子ちゃんという「お気に入り」がいたのでくるみと仲良くなるとは全く思っていなかった。
でも、一旦接近するとかつての美容師の卵でキツネ系の史恵と同様に自分の心の中で真空パックのスポンジが水を吸収してグングン膨らんでいくように心の中で大きな比重を占めるようになっていった。
好みでない人が気になりだすと逆に止まらない。
そんなくるみと河内さんの共通点は多かった。
・小柄
・くるみは面接時に「未来のエースだな」と感じ、河内さんはホワイトデーのお礼メール見て「良い人だなって」ってそれぞれプラスイメージだった
・プラスイメージとは裏腹になんか態度が冷たかった
・心の隙間が生まれた時に「奢ってよ」と実に絶妙なタイミングできっかけを作ってくれた
・バイトを辞めたくるみに「戻って欲しい」と思った翌日にそのように話が進んだ、ラシックに行った時に「河内さんなら奢ってよと言ったら断る男はいないのにな」と思った数日後にその台詞を言ってくれた、僕の心が読まれていたかのように。
しかも、河内さんは里江や郁子ちゃんみたいに好みの童顔でタヌキ顔である。もう大人同士の河内さんとなら、社内なので目立つ訳にはいかないだろうけど『隠れ仲良し』ぐらいになるかなって思っていた。
実際に「廊下でよく会うようになって、仲良くなった」って言ってくれたから、それ程的外れで一方的な思いではないと思ったけど。
だが、約束してからこんなにしんどい思いをした人は史上初めてだった。
社内だから顔見た時にその話をすれば良いのにとは第三者なら言うだろう。でも、逆に社内だから言えなかった。敢えて無視されているとしか思えなく、社内で声を掛けても迷惑なのかなって。
お店の選択をしてもらおうとメールしても返事がぷつりとなくなり、その後も連絡が再開したかと思えば洞本さんを勝手にメンバーに追加してくる。
「みんなで飲みに行かない?」と言われていたならともかく、「奢ってよ」と言われて「良いよ」なら、二人きりの前提の話しだと思うのが今までの常だった。
しかも、その後もこちらの了解なしに洞本さんに話しを進めてしまった。ただのお財布扱いかこちらから断るように仕向けているのかなと疑心暗鬼になってしまった。
それは、今までにこのような経験がなかったからそう思ったのだけど、それとも僕の心が狭く器量が小さいのだろうかと自己嫌悪すら陥る。
でも、少なくとも社会人になってすぐに出来た最初の恋人からこれまでに普通の男性より交際やお互いの気持ちを確認しあってきた人は平均よりは多い方かなと思っていた。人数の多い少ないかは関係ないかもしれないが、交際歴が殆どないかストーカー的に勝手に気持ちだけ押し付ける「女心検定初心者(5級~10級)」ではないと思っていた。
とにかく・・・
ただの食事相手だけだとしても河内さんとはどう考えてダメダメじゃんとしか思えなかった。
不安定な涼葉はまたきっと行方をくらますだろう。
そんな時に『ちょっと話聞いてくれない?』って一緒にどこかに行き、心の澱を取り除いてくれたら・・・、その程度で良かったのになんかとっても高い高い壁をむしろ今回感じてしまった。
くるみは初めて食事に行った日の帰り道で「次は天下一品ね」とさりげなく続きがあると言ってくれた。
それはただ単に「奢ってよ」だけではないとのメッセージを感じた。
あの時のくるみは商業科の高校生なのに彼女のほうがよっぽど大人な対応だった。
これに対し、河内さんは次の店の名前を出しても無反応。
嫌なら、最後の時の里江のように「また、連絡するね」で良いのに。
雰囲気で充分次はないと悟るし、実際それが事実上里江との最後だったけど黙って僕は受け入れた。
それすらする必要がない相手とただ認定されているのか、はたまたただ単に気まぐれの中学生レベルの「男心検定8~10級」の人と思って接すれば良いのか。
そもそも、これで最初で最後のつもりなら先程の会計時でのレジでこちらが全額支払った時に河内さんと洞本さんが同時に言った「ご馳走様」だけで良かったのに。
この人って今まで痛い目に会ってないのかなぁ、それはそれは幸せなことなんだけど。
断り方や終わり方をしらないと大火傷するんだけどなぁって過去の記憶が蘇る。




