世紀の狭間で
「で、どうして仲良くなったの?オープンからずっと一緒だったのに今までは何もなくて、何がきっかけだったの?」
「なんかね、バイト代が500円違っていたんだって。それで、奢ってよと言われて。
それがきっかけ。その時の帰りに次は天下一品ねって言われたから・・・
今度は俺から誘わないといけないなって思っているんだ」
「全く、そういうところだけは男気があるんだから・・・」
誉められているのか、けなされているのかよく分からないけど、24才の人妻から見て35才の僕と18才のくるみはカップルぽく見えるらしい。
二回一緒に食事に行っただけなのだが、確かに僕とくるみはもうずっと前からの仲良しのようにしっくりといっていた。
2000年12月31日
大晦日のこの日はお店はランチとしては混むけど、夜は暇である。
そこで、この日は夕方で営業を打ち切ることにした。
そりゃ、名古屋でもローカル立地であるので、こんな日の夜に外食する人はこのエリアでは少ない。
もし外食するとしても、こんな日は蕎麦屋であろう。
夕方の16時頃に殆ど店舗の後片付けも終わり、くるみに声を掛けた。
「ちょっと遅いけど今からお昼ご飯食べるけど・・・一緒に来る?」
パートの東さんにも言ったけれど、最初の食事のお膳立てはくるみがしてくれた。あれがデートと言えるかは分からなかったけれど。そして、その帰りに次の約束をしてきた。
だから次はこちらから誘おうと決めていた。
これで素直に付いてきたら、多分本物の仲良しの気がする。
そして・・・くるみはもはや当たり前のように付いてきてくれた。
20世紀最後のデートはくるみとなった。
食事も終わり、くるみからの別れ際の言葉は
「来年もよろしくね」
あれだけ悪態を付いていたくるみはいつの間にか可愛いキャラに変わっていた。
20世紀最後のデートはくるみで、21世紀最初のデートもくるみである。
今度は白川通りと本町通りが交差するあたりにある韓国料理の「さくらとけなり」だった。
ところで、今回のデート直前に思い掛けない人からメールが来た。
≪元気?≫
この短いメールの送り主は・・・
芽依だった。
芽依とは昨年秋に些細な事だけどちょっと許せないことがあり、それがきっかけに亀裂が生じ、そのままバイトに来なくなっていた。
それが何を思ったのか、しかも何の意味があるか分からないメールだったが、ここはとりあえず
【元気だよ】
とこちらも短いメールを送って様子を伺ったが、結局それだけだった。
でも、なぜだか脳裏には焼きついた。
そんな、芽衣とのやり取りを思い出しながら名古屋名物の100メートル道路に車を停めて、若宮通り本町交差点にある長い長い100mの横断歩道橋を渡りながらいろいろな話をしつつ「さくらとけなり」に二人で向かう。
この時に聞かなくてもいいことをつい聞いてしまった。
「もし、もしなんだけど・・・、芽依が戻ってきても・・・こうして一緒にいてくれる?」
「芽依ちゃん戻ってくるの?」
「ううん、ただ・・・なんとなく・・・。もし、そうだったらどうなんだろうと思って・・・」
「私・・・芽依ちゃんのこと好きだから・・・。だから問題ないよ」
「うん、別にそうなるわけではないから・・・。ま、別に気にしないで・・・」
「嫉妬する・・・と思った?」
ストレートな質問に今度はこちらが戸惑った。
「う~ん、表現が難しいんだけど・・・鷹羽さんのことも前言ってたでしょ?『(鷹羽郁子と一緒にいると)控室から出てこなくてもいい』って。嫉妬より・・・、また・・・嫌いだなんて言われるかなって思って・・・」
急にくるみが話題を変えた。
「史恵さんとはどうなったの?」
“痛いとこ突くなぁ、この人は・・・”
と思いながら
「史恵は・・・史恵がもう会わないと決めたならそうしようかなって・・・。いじけ易いあの娘の本心は分からないけどね・・・ただ・・・」
「ただ?」
「せめて本当の気持ちを言いたかったなって・・・。『好きだよ』って。意地張ってた訳ではないけれど・・・。史恵が美容師になるか、俺が店を安定させるまでは言わないと決めてたんだ・・・。
本当の気持ちを・・・。それだけが・・・辛いなというか心残りかな・・・」
「今なら・・・今なら誰なの?」
くるみの何気ないけど非常にナーバスな質問に考え込んでしまった。




